輝くひととき 74 PDFファイル71-74

 

キリストのパン

 

 これは、ドンリーという人が体験した実話です。失業したドンリーは、何ヶ月たっても仕事が見つからず、ついに物乞いをするようになりました。けれども、それが嫌でたまりませんでした。

ある寒い冬の晩、会員制クラブの前に立っていると、夫婦らしき二人連れがやって来ました。ドンリーが食べ物を買うお金を乞うと、男性がこう答えました。

  「すまないが、小銭がなくてね。」

 すると、その会話を耳にはさんだ妻が、夫に尋ねました。

「あのかわいそうな人は何がほしいの?」

「食べ物を買う金だよ。ひもじいんだってさ。」

「まあ、あなた! 飢えている人を放っておいて、自分たちだけ、必要もない食事をするなんて、とてもできないわ。」

「乞食なんて、どの通りにもいるんだよ。きっと酒代になるんだろう。」

「私、幾らか持っているわ。少しでも、あげましょう。」

ドンリーは二人に背を向けていましたが、会話は一語残らず聞こえました。恥ずかしさのあまり駆け出す寸前の彼に、妻が親切な声で呼びかけました。

  「1ドルしかないけれど、これで食べ物を買って下さい。つらくても、あきらめないで。どこかに仕事がありますよ。すぐに見つかるといいわね!」

  「ありがとうございます。一からやり直す意欲が湧いてきました。ご親切は一生忘れません。」

  「あなたがこのお金で食べる物は、キリストのパンですよ。他の人にも分けてあげて下さいね。」

  その女の人は、ドンリーを浮浪者を見るようにではなく、一人の人間を見るように、気さくにほほえみました。ドンリーは、全身が電気ショックに打たれたかのようでした。

  ドンリーは安食堂を見つけて50セント使い、残りは翌日のために取っておくことにしました。これで、二日間、キリストのパンにあずかることになるのです。その時、再び、あの電気ショックがきました。

  (キリストのパンだって!)

  (キリストのパンを自分のためだけに取っておくなんて、めっそうもない。)

  子供の頃に教会の日曜学校で習った古い賛美歌の一節が浮かんできました。ちょうどその時、老人が足を引きずりながら通り過ぎました。

  (あの人も飢えているかもしれない。キリストのパンを分け合わないと…。)

  「そこの方、ここに来て食事でもどうですか?」

  老人は振り返り、驚いた顔でドンリーを見ました。

  「おまえさん、本気で言ってるのかい?」

  老人は、テーブルについて、シチューが自分の前に運ばれて来るまで信じることができませんでした。食事の時に、老人がパンを半分ちぎって、紙ナプキンに包んでいたので、ドンリーは尋ねました。

  「明日のために取っておくんですか?」

  「いやいや。近所に不幸な身の上の子供がいてね。今日、ひもじくて泣いていたんだ。このパンをあげようと思ってな。」

  キリストのパン。ドンリーは、あの婦人の言葉を再び思い出して、このテーブルには、自分たちのほかに三人目が、つまり、イエス・キリストが座っているような気がしました。遠くの教会の鐘が奏でるあの古い賛美歌が、また心の中に響いています。

  二人は、パンを空腹の少年に持って行ってあげました。少年は、無我夢中で食べ始めましたが、突然、食べるのをやめて犬に呼びかけました。その犬は迷い犬らしく、おびえていました。

  「こっちにおいで、半分あげるよ。」

  それを見て、ドンリーは思いました。

  (キリストのパンだ! そうだな、動物だって兄弟だから、もらえるんだ。聖フランチェスコなら、そうしただろう。) 

  少年は、今までとはがらっと変わり、元気に立ち上がると、新聞を売り始めました。

  ドンリーは老人に別れを告げながら、言いました。

  「どこかに職がありますよ。すぐに見つかるでしょう。とにかくあきらめないで。実はね…」

  それから、ささやくように言いました。

  「私たちが食べてたのはキリストのパンですよ。あるご婦人が、今使った1ドルをくれた時に、そう言ったんです。きっと私達にもいいことがありますよ!」

  老人と別れると、さっきの迷い犬がドンリーの足に鼻をすりつけています。そこで体をかがめてなでてやると、首輪が見えました。そこに飼い主の名前が書かれています。そこでドンリーは長いこと歩いて、高級住宅街にある飼い主の家に行きました。飼い主はドアを開けると、探していた犬が戻ったことを喜びました。

  ふと険しい顔になり、「報酬がほしいから、犬を盗んだんじゃないのか?」と言いかけましたが、思いとどまりました。ドンリーの顔には、何か威厳のようなものがあったからです。それで、こう言いました。

  「昨日の夕刊で、発見者には報酬を渡すと約束したんだ。この10ドルをあなたにあげよう!」

  ドンリーは10ドル紙幣を見て、困惑しました。

  「これはいただけませんよ。ただ、犬を助けたかっただけだから。」

  「受け取ってくれないか。あなたのしてくれたことは、これではとても足りないくらいだ。仕事を探しているんですか? じゃあ、明日、私の会社に来て下さい。あなたのような誠実な人を探していたんだ。」

  並木道を歩き始めたドンリーの心には、あの古い賛美歌が流れていました。子供の頃に習った賛美歌が。

  「いのちのパンを、さきなさい。愛する主がしたように…」

−−ゼリア・M・ウォルターズが書いた物語をもとに編集

 

 

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−−デービッド・ブラント・バーグ