――― 輝くひととき 59,60  ――― PDFファイル57-60

 

三本の木

    昔々、ある山の上に三本の幼木がありました。三本とも、大きくなったら何になろうかと、希望で胸をふくらませていました。

 

一本目の木は星空を見上げ、「僕は宝箱になりたい。金銀や宝石をあふれるほどおさめるんだ。そして世界で一番美しい宝箱になる!」と言いました。

 

二本目は、大洋へと流れていく小川のせせらぎを見やりました。「僕は、偉大な王を乗せて、七つの海に乗り出したい。そして世界で一番、頑丈な船になる!」

 

三本目は谷間の町を見下ろしました。騒々しい中で、人々が忙しそうに働いています。「僕はここから一歩も出たくない。ここで精一杯大きくなりたいな。人が僕を見上げる時、天をあおいで神のことを考えるようにね。そう、僕は世界で一番のっぽの木になりたい」

 

それから長い年月が経ちました。雨が降り、陽光が降り注ぎ、幼木は大木に生長しました。ある日、三人の木こりが山に来ました。最初の木こりが一本目の木に目を留め、「やあ、これは立派な木だ。文句なしだ」と言いました。鋭いおのが振られ、やがて木は倒れました。

 

「これから僕は立派な宝箱になるんだ! 美しい宝を沢山入れよう!」

 

二番目の木こりが二本目の木を見て言いました。「この木は丈夫そうだ。これがいい」 そして、やはりおのを振るってその木を倒しました。

 

「さあ、七つの海に乗り出すぞ! 偉大な王たちの頑丈な船になるんだ!」 二本目の木はそう思いました。

 

三人目の木こりが来た時、三本目の木はがっかりしました。その木はまっすぐ、高く、天に向かって堂々とそびえ立っていました。それなのに木こりは木を見上げようともしません。ただ「木なら何でもいい」とぶつぶつ言っているだけです。おのがさっと振られ、三本目の木も倒れました。

 

最初の木は大工の所に持ち込まれました。木は大喜びです。でも、大工はその木を家畜の餌箱にしました。立派に育った木は、金銀も宝も入れられる事はなく、おがくずをかぶり、家畜の干し草が入れられました。

 

二本目の木が舟大工の所に持ち込まれると、木はにっこりしました。でも、その日に造られたのは丈夫な帆船ではありませんでした。頑丈そうだった木は、大工の手によって、小さな漁船になったのです。その船は、大海どころか川さえも進めないほど、小さく弱い造りだったので、湖に持ち込まれました。

 

さて、天高くそびえ立っていたのに、ただの角材にされ、材木置き場に置きっぱなしにされた三本目の木は悩みました。「一体どうしたのだろう。山の上で、人々の目を神に向けることだけが望みだったのに…」

 

それから、さらに長い年月が経ち、三本の木は昔の夢などとうに忘れていました。

 

ある夜、若い母が、生まれたばかりの赤ん坊を、一本目の木でできた家畜の餌箱に寝かせました。すると、そこに黄金の星の光が降り注いだのです。「この赤ん坊のために、揺りかごでも作れたらよかったのに」と、父親が小声で言いました。母親は、ほほえんで父親の手をぎゅっと握りしめました。なめらかに仕上げられた頑丈な木箱は、星の光で輝いていました。「この飼い葉桶は素晴らしいわ」と母親が言いました。その時、一本目の木は自分が世界で一番高価な宝を抱えている事を知ったのです。

 

また、ある夕方、疲れ切った旅人と連れの一団が古びた漁船に乗り込んできました。二本目の木で造られた船がゆっくりと湖に出ると、あっと言う間に旅人は寝込んでしまいました。間もなく、雷鳴がとどろき、大嵐になりました。木は恐れおののきました。こんな暴風雨の中で、これだけの人数を無事に運ぶことはできないと知っていたからです。旅人が目を覚ましました。彼は立ち上がって、手を伸ばすと、「静まれ」と言いました。すると、嵐は、始まった時同様、あっと言う間にやみました。その時、二本目の木は悟ったのです。自分が天と地を治める王を運んでいることを。

 

  ある金曜の朝、三本目の木は、忘れ去られていた材木の山から、突然引っぱり出されたので、びっくりしました。怒りたける人たち、口々にののしる群衆の中を運ばれながら気が動転していました。兵士がある男の人の手を釘で打ちつけた時、三本目の木は身震いしました。なんて無惨で残酷なことをするのかと思いました。でもその三日後、夜明けと共に足下の大地が喜びで震えた時、三本目の木は、神の愛が全てを変えたことを知ったのです。三本目の木は強くなりました。それ以来、人々はあの三本目の木を思うたびに、神のことを考えるようになったのです。それは、世界で一番高い木になるよりも、素晴らしいことでした。

―作者不詳

 

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どんな美しい詩も

木の美しさには及ばないだろう

 

腹をすかせた木は大地から

甘い乳を吸い上げる

 

一日中神を仰ぎ

葉の生い茂る両腕を掲げて祈る

 

夏にはみどりの枝に

小鳥の宿をのせ

 

胸元に雪を抱えて

風雨と共に生きる

 

詩を書くのはわたしのような愚か者

だが、神のみが木を造りたもう。

 

―ジョイス・キルマー