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有能な親になるための訓練・実践講座!

−−トマス・ゴードン博士著

 

  様々な異なる気候や波の条件下で、上手に船の舵を取れるようになるには、舵を操るという技術以上のものを要します。飛行機を上手にしかも安全に飛ばす為に、パイロットは、エンジンの仕組みはもとより、空気力学の理論に通じていると共に、天候についての基本的知識を身につけていなければなりません。事実、離陸して、まっすぐに飛び、機体を水平に保ち、着陸するだけなら、パイロットが知っておく必要のある技術は極めて単純なので、8歳の子供にさえ学べる程です!

  有能な親になるのもそれと全く同じです。子供に対して真に効果を収める親になるには、人間関係についての基本的な知識が要求されます。

  P.E.T.(Parent Effectiveness Training[有能な親になるための訓練])の理論は、良い親子関係のみを描写する青写真ではありません。それは人間関係全般に当てはまるものです。夫婦間、労使間、先生と生徒、友達同士。これを聞くと、親は初めに驚いてしまいます。大半の親達には、親子関係が他の人間関係とは非常に異なるように思えるからです。多くの親から見れば、子供というのは人ではないのです。

  殆どの親は、相手の大人に批判的な発言をすれば、その人をこき下ろすことになり、その人は傷つき、関係にひびが入ってしまうと堅く信じています。ところが、子供にはそれと同じ事をしても、どういうわけか子供はそれによって傷ついたり、落胆したりせず、関係にひびが入る事はないと思っているのです。事実、子供は批判やこき下ろしを必要としており、「子供の為を考えて」、そういった事を子供に沢山言う事は良い親としての義務なのだと反論する親も少なくありません。

  また、親というのは、世界中どこでも2カ国語を話すものです。つまり、大人に話す言語と子供に話す言語です。友人が皿を落として割ってしまっても、大抵の親は、その友人に恥ずかしい思いや気まずい思いをさせるのを望みません。そこで、言い方は様々ですが、こういったことを言うのです。「ああ、お皿のことは心配なさらないで下さい。よくある事ですから。」しかし、お皿を割ったのが8歳の子供であれば、おそらく別の言語を口にする事でしょう。例えば、「まあ大事にしていたお皿が割れてしまったわ! 全く不注意なんだから。もっと気をつけられないの?」と。

 

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  多くの大人はタブルスタンダードを持っている。自分に対してよりも子供に対して、より厳しい基準を持っているのである!

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それは誰の問題なのか?

 

  PETの土台になるのは、「問題所有」の原則です。PETでは、誰が問題の「持ち主」かという概念を取り上げているのです。というのも、子供が自分で問題を解決するのを励ますかわりに、子供の問題を解決してやるのは親の責任だと考えに陥り易いからです。

  親はしばしば、子供の問題なのに、それを解決するのは自分の責任と考えて介入し、解決できないと自分を責めます。PETは、次の事項に基づいた、それに代わる方法を提供します。

 

  1.人生においてあらゆる種類の問題に遭遇するのは、どの子供も避けられないことである。

  2.子供には、自分の問題に対する解決策を見い出すことについて、信じ難い程優れた潜在的能力があるが、殆ど活用されていない。

  3.親が子供に一方的に解決策を与えてしまうなら、子供は親に依存し、自分で問題を解決する能力を養えない。新たな問題に出くわす度に親のところに来るようになってしまう。

  4.親が子供の問題を引き受け(つまり「所有し」)、それゆえ適当な解決策を考えるのはすべて自分の責任であると思うなら、それは非常に大きな負担となるだけでなく、不可能な仕事になってしまう。

  5.親は、子供の問題は自分のものではないという事実を受け入れるなら、子供が自分で問題を解決する過程を通じて、子供をはるかに良く助けられる立場にいられる。

  親に問題があるときには、子供に対して、「ちょっと問題があるんだが、助けてくれないか」と話せるような姿勢が必要になってきます。つまり、子供に問題があって親が、「問題があるようだが、お父さんの助けが必要かい?」と話したい時とは、かなり異なった姿勢です。

 

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  あなたに問題の原因がわからなくとも、主は知っておられ、どんな問題であろうとも、その答は愛なのである。

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障壁を避ける!

 

  子供に耳を傾けることがいかに大切か一度も言われたことのないという親は希です。本や雑誌の記事において、育児の専門家たちは、効果的な子育ての方法として、絶えずこの事を指摘しています。そして、それが一貫して言われているのと殆ど同じ度合いで、親は、実際に自分が子供に耳を傾けていると思っているのです。

  しかし、PETのコースに入門した親達が、問題を話しに来た子供に対して示す典型的な反応は、殆ど例外なく、耳を傾けるのではなく、話すことなのです。親は、子供に対して何かを言わねばならず、何かしらメッセージを与え、とにかく何かを話さなければならないと感じるのです。

  学校と宿題の問題を両親に話した14歳のティーンエイジャーの話を例に取ってみましょう。「どうしても宿題ができないんだ。宿題なんて大嫌いだ。学校も大嫌いだ。生活に必要なことを何も教えてくれないんだから−−くだらない事ばかりだ。もっと大きくなったら学校なんてやめるつもりだよ。人の先を行くのに学校の勉強なんて必要ないや。」

  次に挙げるのは親の典型的な返答です。それはまた、私達が意志の疎通における「障壁」と呼んでいるものです。

  1.返答:「私の息子には皆最後まで学校に行ってもらう。やめるなんて決して許さないぞ。」

  障壁のタイプ:命令、指図、強制。

 

  2.返答:「学校をやめたら、勘当だ。」

  障壁のタイプ:警告、脅し。

 

  3.返答:「学ぶことは、人が体験できる中でも最も報酬の大きいものなんだぞ。」

  障壁のタイプ:説法、説教。

 

  4.返答:「宿題をする時間をおまえのスケジュールに入れたらどうだい?」

  障壁のタイプ:助言、解決策を与える。

 

  5.返答:「高卒より大卒の方が平均して給料が50%もいいんだぞ。」

  障壁のタイプ:講義、事実を述べる。

 

  6.返答:「すぐ目先のことしか見ていないな。おまえの考え方で、おまえがいかに未熟かがわかるよ。」

  障壁のタイプ:裁く、責める、批判する。

 

  7.返答:「おまえはいつも優秀な生徒だったじゃないか。沢山の可能性もあるし。」

  障壁のタイプ:称賛、へつらい。

 

  8.返答:「まるでヒッピーのように聞こえるぞ。」

  障壁のタイプ:非難、ひやかし。

 

  9.返答:「おまえは努力するのがいやだから、学校が嫌いなんだ。」

  障壁のタイプ:解釈、分析。

 

  10.返答:「おまえの気持ちはわかるが、学校は来年にはもっとましになるさ。」

  障壁のタイプ:安心させる、同情。

 

  11.返答:「教育もなしにどうするんだ?どうやって生活していくつもりなんだ?」

  障壁のタイプ:問題にメスを入れる、質問、尋問。

 

  12.返答:「食卓での悩み事はごめんだ。最近バスケットボールはどうだい?」

  障壁のタイプ:話をずらす、話題をそらす、注意をそらす。

 

  これは、子供の「所有する」問題に直面した時に、何かを言うという親の典型的な態度を示しています。つまり命令や警告、説教、助言、教訓などを与えたり、批判、非難、分析、称賛をしたり、安心させたり、尋問したり、話をそらしたり。

  これらの12の障壁は、子供に対して、次に挙げる影響の一つないしそれ以上を及ぼす高い危険性があります。

  ・子供が話さなくなる。

  ・自己防衛的になる。

  ・議論したり、反撃するようになる。

  ・自分が能力に欠けたり、劣っているという気持ちになる。

  ・憤ったり、怒ったりする。

  ・自分は罪深く、悪いなどと思う様になる!

  (編集者:ここに挙げられた返答の幾つかはそれ自体良いものであっても、肝心なことは、即座に話したり、反応を示すのではなく、次の章に述べられている段階を経るまで待つことを学ばなければならないということなのです。)

 

聞き上手の秘訣

 

  私達は、PETのコースにおいて、次の4つの聞き上手の秘訣を教えています。

 

A.受け身的に聞く(沈黙)

 

  あなたばかり話すのであれば、子供はあなたに悩みを話すのが難しいと思う事でしょう。「沈黙は金なり」というのは、効果的なカウンセルにも確かに当てはまることです。受け身的に聞くことは、全く何も言わずに聞くことであって、子供に次の事を示唆することになります。

  ・おまえの気持ちが聞きたいんだ。

  ・おまえの気持ちを受け入れよう。

  ・私に何を話したいか、おまえが自分で決められると信頼しているよ。

  ・ここではおまえが主体なんだ−−おまえの問題なのだから。

  受け身的に聞くと、子供は自分の気持ちが話しやすくなり、最初に話し出したもの以上に深く、より根本的な問題について打ち明けることもしばしばです。その反面、沈黙だけでは十分ではありません。子供は私達が黙って耳を傾ける以上のことを望んでいます!

 

B.相手の言うことを聞いていることを示す反応

 

  コミュニケーションの障壁によって、子供の言っていることは受け入れられないと言うメッセージを子供に伝えてしまうことがよくあり、黙って聞いてあげる事はそれを防ぐ助けとなるのですが、だからと言って、それは必ずしも子供に対して心から注意を傾けている証明にはなりません。それゆえ、特に言葉がとぎれた時に、声に出しても出さなくても、あなたが実際によく聞いていることを示すための合図を与えるのは助けになります。こういった合図は、「相手の言うことをしっかり聞いていることを示す反応」と呼べるでしょう。うなずいたり、身を乗り出したり、ほほ笑んだりなど、動作を適切に用いて、あなたが本当に聞いていることを子供に知らせるのです。または声に出して、「うん」、「ああ」、「そうか」などと言うことも、自分は関心を持っていて、引き続き話してほしいという気持を示しています。

 

C.話をさせるきっかけとなるもの、話を引き出すもの

 

  時折、子供は自分の気持ちや問題について話すのに、余分の助けを必要とします。特に話し始めがそうです。そこで、有能なカウンセラーはしばしば、相手に話させるきっかけを見つけたり、うまく誘導していきます。例えば、

 

  −−それについて話したいと思うかい?

  −−それについて君がどう思うか、興味があるな。

  −−どうもそれが気になっているようだね。

  −−それについてもっと言いたいことはあるかい?

 

  こういった応対が、相手が自由に答えられるような形で終わっている事に注目して下さい。問題のどんな面についても子供が話せるよう、扉を大きく開けているのです。子供には、自分が話したい事を選ぶ自由が沢山与えられています。

 

D.アクティブ・リステニング

(積極的な聞き手になる)

 

  親にとって断然効果的な方法は、声に出す反応で、実際にメッセージを含まないタイプのものです。ただ反射鏡のようになって、子供がその前に言った事をフィードバック(自分の言葉で繰り返して言う)するのです。それはアクティブ・リスニング(積極的な聞き手になること)と呼ばれています。これは受け身的に耳を傾けるのとは異なり、聞き手が、自分の聞いた事柄のフィードバックを与えることで、真に話し手を理解していることを積極的に示すことです。話し手の言っている事柄を自分自身の新鮮な言い回しで言い換えることによって、そのことを話し手に証明するわけです。ここに、問題を持つ子供に対して親がアクティブ・リスニングをしている例があります。

  子供:僕はばかだから算数を学べないんだ。あんなの僕にはとうていできっこないや。

  親:十分頭が良くないと思うので、自分にはいつまでたってもできないだろうと思っているんだね。

  子供:うん。

  普通、聞き手が正しければ、話し手からはフィードバックの正確さを裏付けるような返事が返ってきます。「うん」とか「そう」などと。聞き手が間違っていれば、話し手は普通、「パパにはわからないんだ」などと言って聞き手を正します。フィードバックをする、つまりアクティブ・リスニングをして積極的な聞き手となる事によって、聞き手は話し手のメッセージを自分が正確に理解しているかどうかが必ずわかります。

 

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  人間は複雑なもの。子供もまた人間なので、彼らの問題もまた複雑。子供達を「子供」として考えることをやめ、一人の人間として考えるなら、彼らの問題をはるかによく知る事ができるだろう。一人の人間として考える事によって、彼らをはるかによく理解できるのだから。

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アクティブ・リスニング  はなぜ効果的なのか?

 

  1.気持ちが晴れる。人々は感情は抑えたり忘れてしまえばなくなるものと考えます。しかし実際には不安定な感情は、誰かに話すことでなくなる可能性のほうが大きいのです。親が子供に対してアクティブ・リスニングを使うなら、子供は、自分の抱いている感情をありのままに話すことができ、気持ちが晴れるようです。

  2.深い思いやり。誰かに自分の気持ちを聞いてもらったり理解してもらうととても気分が良いので、話している人は必ずと言っていいほど聞いてくれる人に暖かい感情を抱くようになります。とりわけ子供はこのように反応するようです。また、聞いている方も話している人に今までよりもっと暖かい気持ちを抱くし、より親しみを感じるのです。相手の話に熱心に耳を傾けると、その人の事をもっと理解し、感謝するようになります。聞く人が話している人の立場になって考える時、ちょっとの間、自分が、話している本人になったように思えるのです。

  3.子供達があなたに耳を傾け始めるようになる。誰かが自分の意見を聞いてくれると、反対にその人の意見に耳を傾けるのが容易になります。だから、子供達は、親がまず自分達の言い分を聞いてくれるなら、親の言うことも聞くでしょう。子供達が親の言うことに耳を貸さないのは、親も子供の言うことに耳を傾けようとはしないからだということがよくあります。

  4.「スーパーペアレント」になる必要はない。大抵の親は、良い親というのは子供達の問題は全て自分が解決し、子供の振る舞いを正し、何でも支配し、統制し、常に正しく、全ての答えを知っていて完全に責任を負い、子供達の失敗もすべて自分が責任を負わなくてはいけない、つまりスーパーペアレントにならなくてはいけないというありふれた誤った概念を抱いている為に四苦八苦しているのです。

 

しっかり耳を傾ける親になる

 

  癖を断つのは難しい事で、親にとって、子供を問いただしたり、説教じみた事を言ったり、すぐに答えを与えたりするという、誘惑に負けないでいるのは難しい事です。新しい受け答えの仕方をすると不自然に感じてしまう親もいるもので、やってみても何かぎこちないのです。ずっと右手に包丁をもって肉を切ってきた人が、急に左手で切ることを学ぶようなものです。それに、これといった理由もなしに心を開こうとはせず、自分が本当に感じている事をすぐに打ち明けようとはしない子供もいます。そういうのは、新しい方法の効果が見たくてたまらない親にとっては、落胆の材料になってしまいます。また、アクティブ・リスニングを使うタイミングを心得ていない親もいます。子供の言ったことでひどく憤慨し、腹を立てている時や、自分の信念や価値観は決まっていて全く変える気がない時に、この手法を使ったりするのです。

  アクティブ・リスニング、つまり積極的な聞き手になる技を身につけるのは、テニスやゴルフやダンスやはしの使い方などを初めて習うのと同じです。最初は普通、ぎこちなく感じ、自意識過剰になりやすいものです。アクティブ・リスニングにしても、親は、新しい応答のしかたを学ばなければならないだけでなく、よく慣れた以前の応答の仕方を、もうしないようにしなければなりません。けれども、練習と経験を重ねていくなら、大半の親は、最初のぎこちない段階を通り過ぎ、もっとすんなり新しいやり方ができるようになることでしょう。

 

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  変化を遂げるには、多くの時間と努力と思考と真の犠牲が必要とされる。

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子供が話そうとしない時

 

  アクティブ・リスニングをして積極的な聞き手になる手法を学んだという自信がつき、それを使ってうまくやるぞと期待に胸をふくらませていたのに、子供が期待していたほど心を開かず、オープンにコミュニケーションをしてくれないというケースも数多くあります。

  子供が話したがらなかったり、話さないと宣言するようなことがあっても、落胆する必要はありません。「馬を水際まで連れていく事はできるが、馬に無理やり水を飲ませることはできない」というのは、子供との会話にも当てはまります。子供に話させるための絶対確実な方法などありません。実際、子供に話し始めさせるのには、アクティブ・リスニングは必ずしも最善とは言えないのです。子供に話し始めさせるには、相手を話したいという気持ちにさせるような、簡単な口火となる言葉を言ったほうがいいでしょう。例えば以下のような言葉です。

・今日、学校はどうだった?

・何が気にさわっているのか話したいかい?

・どうしてそんなに腹を立てているのか話したら、  もっと気分が良くなるかな?

 

  子供に経験や感情について話すよう導いてみて、子供がそれを受け入れ、話し始めたら、その時こそ、あなたが子供の言うことを理解し、アクティブ・リスニングを使って子供の感情を受け入れてやっていることを子供に知らせるのが一番効果的になります。

  子供は大人と何ら変わりません。話す気分ではない時もあるし、色々探られ問いただされるなら、しばしばそれに抵抗するものです。自分の言ったことを受け入れてもらえるという信頼感がないなら話そうとしないし、時には子供だって、自分のプライバシーに敬意を払ってほしいと思うものです。

 

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  子供達の感情というのは大人の感情ととても似通っている。ただ子供にとって、つらい経験は、大人が感じる以上に大きな堪えられない事に思えたりする。子供は大人と違い、そういう経験があまりないので、いずれはそういう難題も解決され、何もかも大丈夫になるということを知らないからである。大人のように、基盤となる経験がないのだ。

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「そのアクティブ・リスニングっていうの、私にはしないで!」

 

  子供が、アクティブ・リスニングという手法に対して最初激しく抵抗し、親がそれを試みようとすると憤慨した子供までいたということを何人かの親から聞きました。

  「14才の娘のサラに、アクティブ・リスニングを使ってみたのですが、彼女の反応ときたら、『オームみたいに私の言う事を繰り返さないで。』で、最初の試みは見事に失敗に終わったのです。彼女は、『私にそんな話し方しないで』と言うだけでした。」

  年長の子供達の多くは、親のアクティブ・リスニングを好まないようです。長年に渡ってずっと、親からかなり異なった反応を受け取ってきたのですから。

  年長の子供達がアクティブ・リスニングに抵抗しないようにする為の効果的な方法は、親がその手法を子供に使う前に、この新しく学んだ手法が一体どんなものであるかを子供に説明する事です。中には、自分の使っているPETのテキストを子供に見せて、そこに載っているコミュニケーションの障壁となるもののリストを指さし、親である自分が過去に、どれほどコミュニケーションの障壁となる事をしてきたかを子供に対して認める親もいます。大抵は、それがきっかけで心の通いあった話し合いを持つ事ができ、子供の方も笑い、それを楽しみます。子供達がまず、何が障壁なのかを認識するなら、アクティブ・リスニングがどんなもので、どんなふうに使えるかをより良く理解する事ができます。

 

 アクティブ・リスニングのやり過ぎ

 

  アクティブ・リスニングのやり過ぎも問題だということを発見した親もいます。この4人の子供の母親はその一例です。

  「私はあまりに忠実にこれをやって、あらゆる事に、この手法を用いました。どうして誰も私にその事を指摘してくれなかったのかと思いますが、ついに、娘の一人が、『ねえ、ママと話しててもちっとも楽しくないわ。聞くだけで、自分がどう感じてるのか全然言わないんだもの。いつも、あの『アクティブ・リスニング』ってのをしてるから!』 その娘はそれが好きではなく、それは不自然だと感じました。心理分析でもされているみたいに感じたわけです。」

  この手法をやり過ぎた人達が犯したのと同じ失敗をしなくてもいいように、親のために幾つかのガイドラインをご紹介しましょう。

  1.子供達の経験する問題のどれもが、「カウンセル」が必要なほど深刻な問題とは限らない。9才の子供が、「ピーナッツバターがすごくかたいから、パンにぬると、パンがすぐにぐちゃぐちゃになっちゃう。」と言ったとします。この場合は、「そのことについて話したい?」とか「本当にイライラしちゃうわね。」などと言って、より深く探る必要はありません。

  2.子供達は、自分が深刻な問題に直面している時には、それらしきヒントを見せるものです。涙を見せたり、殻にひきこもったり、ふくれっつら、激しい怒り、恐れなどを示したり、普段の振る舞いとは全く違った振る舞い(おしゃべりな子供が急に無口になったり、物思いにふけったりするなど)をしたりしていないか注意しておいて下さい。

  3.アクティブ・リスニングという手法を実際に使う前に、子供が本当に聞き手を必要としているかどうか様子を探ってみることです。2、3分、(何も言わずに)受け身に聞いてみるか、あるいは「もっと話したい?」と聞いてみることです。

 

 隠された意図をもって、アクティブ・リスニングをする

 

  家族の間でアクティブ・リスニングがうまくいかない原因としてもう一つあげられるのは、親がアクティブ・リスニングを使って、あらかじめ準備してあった結論へと子供を導こうとする場合です。たいていは、子供はそういった結論のことを知りません。PETでは、これは「隠された意図」と呼ばれています。親がアクティブ・リスニングを使っている時に、何かの隠された意図が表面化することがありますが、そうした隠された意図の一つに、子供が、親が正しいと考える解決策に達することを願う気持ちがあります。親の願いとは、アクティブ・リスニングを通して、子供に影響を与え、子供が「正しい」決断を下すよう導くことです。ある母親はこんな出来事について話してくれました。

  「雨が降っていたから、子供にジャケットを着るか、フードをつけるか何かしてほしいと思いました。そこで私は、『協力したくないみたいね』とか、『外に行って、ぐしょ濡れになり、学校を休む事になったらいいと思ってるみたいね』とか言いました。別に押しつけるように強く言ったわけじゃありません。でも、子供は大声を張り上げ、わめき、言い争ってきたのです。息子は否定的で、そういう否定的な反応をするのです。」

  その母親のしたような返事を聞くなら、子供は否定的な反応をすることでしょう。「協力したくないみたいね」という言葉に、彼女の隠された意図がありありと伺えます。そんなのは、「おまえは、お母さんがおまえがすべきだって決めたことをしたくないのね。」と言っているも同然です。

  アクティブ・リスニングの原則を忘れてはいけません。それは、子供が自分で問題の解決策を見いだすのを助けるための手段であって、親の解決策に従わせるための手段ではないのです。

 

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  できる限り自分を子供の立場に置いてみて、自分だったらどう感じるだろうかと考えてみること。そうすれば、子供をよりよく理解することができる。

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まず子供を信頼してみないことには、子供が信頼するに足るかどうかわからない

 

  アクティブ・リスニングを全く試してみないなら、子供が自分で問題を解決できるかどうかや、自分の感情を建設的に処理できるかどうかが全くわかりません。子供の問題に対して、コミュニケーションの障壁となるような答え方をするなら、子供が自分の問題を自分で解決し、親からの信頼を勝ち取るチャンスを子供から奪ってしまう事になります。意志の疎通の障壁となる反応の仕方は、子供にこう言っているようなものです。「私はおまえが自分で問題を解決できると信頼できない。」(これをしなくてはいけない。これをすべきだ。絶対こうした方がいい。私の解決策を教えてあげよう。忠告しておこう。私の知識や知恵がお前には必要だ。こんな問題を抱えるとは、おまえはどこかおかしいんだ。)

 

障壁となるような反応のしかたをすると、子供は真の問題が何かを知ることができなくなってしまう

 

  アクティブ・リスニングを頼みとしている親は、子供が、症状(「大学へは行かない」、「幼稚園なんか大嫌い」、「こんな家にいたら気が狂いそうだ」)の事にばかりに気をとられるのではなく、最終的に、真の問題、つまり全ての原因となっている問題に焦点をあてて考えるようになるのを見てきました。子供を信頼していない親はすぐに中に入って、真の問題が何かなど全く知らないまま命令したり、脅したり、忠告したり、解決策を示したり、説教したりして、目先の問題を解決しようとします。

 

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  すべての答えを知っているよりも、幾つかの質問をするほうが良い。

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「聞いたよ」の魔法

 

  アクティブ・リスニングをして積極的な聞き手となるなら、相手に、あなたは聞こうとしただけでなく、実際に聞いたということが伝わります。そういうことを相手に伝える効果は抜群で、魔法のような力があります。ある牧師が、15才の息子のアーノルドとの出来事について話してくれましたが、これは、上のポイントを明らかにしています。

  「私達夫婦が最初にアクティブ・リスニングを試みた時、私はたまたま観察する立場にあったのですが、素晴らしい効果がありました。私達がパティオに座っていた時に、妻のリズがアーノルドに何か言うと、アーノルドはリズのほうを見るなり、『母さん、うるさい!』と大声を張り上げました。息子は、興奮して青筋を立てており、私にとって、息子のあんな顔を見るのは初めてでした。牧師の息子で、いわゆる良い子の手本みたいな子だったのですから。ところが、その息子が物凄い剣幕で大声を張り上げたのです。

  リズは息子の方を見て、ただこう言いました。『お母さんはおまえにうるさいことを言うのね。』 その時の息子の表情を見せたかったほどです! 息子は、母親が自分にやり返し、同じぐらいの剣幕で怒鳴って、非難を浴びせてくるものと思っていたのです。ところが、そうじゃなかったので、息子は、物凄い大声から、普通の会話の調子になり、『母さんは、本当にうるさいこと言うよ。』と言いました。そして、大切なのは息子が次に言ったことです。『でも、僕も母さんにうるさいこと言うんだろうな』 私は自分の耳を疑ったほどでした! 2時間に渡って悲惨な状況が繰り広げられ、おまけに丸一日は互いに言葉を交わすこともなくなるという可能性もあったのに、ほんの数分で解決してしまったのです。それというのも、一人があえて、『聞いたよ』と言ったからなのです。−−『おまえが間違ってる』ではなく、『聞いたよ』と。

  「聞いたよ」という内容のことを言うのは、解決策を提案するよりもずっと大切です。3才の子供がか雷の音を怖がっていた時の例があります。

  「娘は、雷の音や稲妻にとてもおびえていました。特に音が怖かったのです。泣きながら私の所にきて、『怖いよう−−かみなりなんて嫌い』と言いました。私は初め、コミュニケーションの障壁となる反応をしました。『ただ、雲がぶつかりあってるだけよ。』 でも彼女は泣きやまず、『怖いの、聞きたくない』と言い続けました。『音だけで、何ともないのよ』 そう言っても、娘はまだ泣いています。その時に、『ああ、アクティブ・リスニングをやってみよう!』と思いついたのです。そこでこう言いました。『雷の事で心配してるんでしょう。怖いから、雷の音がやめばいいって思ってるのね。』すると彼女の表情ががらっと変わり、もうすっかり怖がらなくなり、何も言わずに自分の部屋に行ってしまいました。それでおしまいだったのです! 娘はただ、自分の気持ちを理解してほしかったんです。私が理解してあげたら、それで良かったのです。これは素晴らしい例でした。自分でさっさと部屋に行ってしまい、それでおしまいだったのです!」

  同じようなことは、2才のトミーにも起こりました。トミーの母親はこんなふうに話してくれました。

  「トミーは、ケガをするとわあっと泣く癖がついていました。保育園で他の子供達は、少しでもケガをすると『痛いよう、痛いよう』と泣き叫ぶ癖がついています。そう、そうやって同情を引き、抱き締めてもらおうというわけです。それで、トミーも同じことをするようになったんです。ある日転んだトミーは、『痛いよう、痛いよう』と言ってやってきたのですが、たいしたケガではありませんでした。でも私が、『わあ、本当に痛そうね!』と言うと、何とまあ、トミーはすぐにまた遊びに行ってしまったのです。それでおしまいでした。それ以来、トミーにはその方法を使っています。(編集者注:私達はもちろん、子供の言ったことをちゃんと聞いたこと、子供の気持ちや、言おうとしたことを理解したことを伝えるのを学ぶだけでなく、神の御言葉や祈りによって子供を慰め、励まし、子供達が主を信頼するよう助けてあげることもできます。)

 

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  私達は常に、柔和な落ち着いた霊を持っていなければならない。そういう霊は、回りの人達にも、信仰や、信頼、平安、休息、自信を持たせる。私達の霊は人に影響を与えるのだ。

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感情は一時的なもの

 

  ただ聞いてもらうだけで、子供の感情があっというまに消え去ってしまうのに、親はしばしば驚くものです。とても激しい感情や、深い感情でも同じ事が言えます。3才半のボビーの話をしましょう。ボビーは豆が大嫌いでした。ボビーの父親は最初、アクティブ・リスニングの効果に疑いを抱いており、そんなのはうまくいかないことを証明しようとしたのですが、こう報告してくれました。

  「ある時、ボビーは豆が嫌いだと言いました。そこで、『ボビー、豆を食べなさい』とか『黙りなさい』と言うかわりに、『ボビー、おまえは豆が好きじゃないんだな。』と言うと、ボビーは、『ううん、そんなことない、好きだよ、』と言ったのです。嘘じゃないかと思いましたが、ボビーはしっかり豆を食べたのです。信じられないことでした。初めてこの方法を試してみて、こんなに効果があったのです。」

  もう一つ例をあげましょう。キャシーと友達は、キャシーの母親の盲導犬が、自分達の遊んでいたボールを破裂させてしまったことで意気消沈していました。

  「娘のキャシーの友達は、フットボールに似せた小さなボールをもらいました。でも、私の盲導犬のフランズは、ボールはすべて遊ぶためのものだと思い込んでおり、1回弾んだところで、フランズがそのボールに飛び掛かり、破裂させてしまいました。ボールは、ただのだらっとしたゴムになってしまったのです。その幼い男の子はとても悲しがり、大声で泣いていました。その子供の両親は早速、その子の所に行き、『大丈夫さ。ボールなら、またあした買ってやるから。』と言ったのですが、その子はますます大声を張り上げて泣くばかりでした。そこで私が、『フランズがあなたのボールを破裂させたんで、悲しいんでしょう?』と言うと、彼はそうだと言い、向こうに行って他のもので遊び始めたのでした。ただああ言ってあげただけで、その子がすぐに機嫌を取り戻したのは驚くほどでした!」

 

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  子供達は多くのことを経験していかなければならない。それらは、私達には小さな事に思えるかもしれないが、子供にしてみれば、大きな事に思える事だろう。自分を子供の立場に置いてみるなら、子供を理解するのはそれほど難しいことではない!

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問題の核心に迫る

 

  子供が最初から、自分の悩みの種になっていることを打ち明けることはまずありません。子供というのは、表面的なこと、表立ったことについて話すものです。カウンセラーはこれを、「問題呈示」と呼びます。しかし、親は普通、子供のこうした特徴を理解しないで、コミュニケーションの障壁となる反応をします。質問したり、忠告を与えたり、教訓を教えたり、説教したり、非難したりするのです。そうすると、子供は、表面化した問題に焦点をあてるだけに終わってしまい、問題の真の原因であるより深い問題まで探っていくことができません。

  言い換えると、訓練されていない親は、本当の問題が何かも知らないままに、中に入って子供を助けようとするわけです。そういう親たちは、自分が問題だと考えることを解決しようと躍起になるあまり、子供が自分の悩みの真の原因について打ち明けるのを邪魔してしまいます。

  けれども、親のほうがアクティブ・リスニングをするなら、問題の核心に取り組む事ができます。ある離婚した母親は、これをやって功を奏しました。4才の息子のマークはある時、弟にひどく腹を立てました。

  「マークは12月の終わり頃からひどい悪夢を見るようになり、おまけに、ひどいぜん息にかかりました。小児科医は息子に薬を飲ませ、幾つものアレルギー検査をしなければならないと言いました。けれども薬を飲んでもあまり良くなりませんでした。2月に私はPETコースに出席しました。週末にマークと共に過ごしたのですが、マークは息をするのも苦しく、とても悪い状態でした。マークを寝かしつける前に、そこに一緒に座り、話し始めました。『何かのことでとても心配してるみたいね。』 マークはその日、マークの絵とか何かを引き裂いた弟のティミーに対して物凄く腹を立てました。マークは弟を怒鳴りつけ、ヒステリックになり、自分の部屋に駆け込んでしまったのです。

  『ティミーを怒鳴りつけると、その後で、気持ちがひっくり返るみたいね。』と私が言うと、マークは『そうなんだ』と言いました。それで、『気にしなくていいわよ』と言ったのですが、何の助けにもならなかったので、また、アクティブ・リスニングに戻りました。するとマークは、『僕、大声をあげると、骨が折れるんだ。」と言い、あばら骨をさし、ぜん息の咳をしながら、『聞こえる? 骨が折れる音だよ。それに家も壊れそうだ。』と言ったのです。彼が言っていたのは、父親と一緒に住んでいる家のことでした。それから息が苦しくなり、ぜん息の発作が悪化しました。

  そこで私は言いました。『家が壊れてしまうって思うのね。』 マークが言うには、夢を見てその夢の中では、家が壊れ、何もかもが壊れたのだそうです。『僕は自分の部屋にいて、おもちゃと一緒だったけど、パパはそこにいなくて、僕の骨が壊れてた。』 そこで私が思い切って、『家族が別れ別れになっちゃったからとても悲しいんでしょう。』と言うと、マークは泣き出しました。私は彼を抱いてやり、泣くままにさせていました。泣き終えると、マークの呼吸は百万倍も楽になっていました。

  それからマークは、夫と私がどうして別れたのかについて話したがりました。でも私が、『家族が別れ別れになって、そのことであなたは怒っているのね。』と言うと、マークは繰り返し、『怒ってるんじゃなくて、悲しいんだ。』と言いました。『そうね、何もかもが壊れちゃって、一人ぼっちになっちゃうと思うのね。』と言ってから、私は、マークがどこで暮らすかについての決断のいきさつを話してやりました。彼はそれを聞くのが大好きで、その夜、2度も3度も聞きたがりました。

  パパと私はどちらもマークと一緒にいたかったけれども、パパと住むなら、大きな家の同じ部屋に住むことができるけれど、私とだと、アパートの小さな部屋しかないことを説明し、夫と私がそのことを話し合っている様子を演じて見せました。『私がマークを引き取りたい』と夫がいうと、私が、『いいえ、私よ』と言うのです。そうすると、マークは顔いっぱいに笑みを浮かべ、呼吸が正常になりました。まさに奇跡でした! その週に1度か2度、またその話をしてやり、全部を演じてあげたりしました。彼はそれを聞くのが好きで、また泣きました。それは本当に彼の心の奥底からで、毎回、ぜん息がだんだん治っていくようでした。そして今ではすっかりいやされました! もう咳も出ないし、呼吸も正常で、何も問題ないのです! 信じられないほどです!」

  別の母親は、登校拒否だった娘についてこう報告しています。

  「1月に学校に行くのをいやがるようになりました。私達は本当のところ、どうしていいかわかりませんでした。朝起きると、気分が良くないと言い、他の子供にうつるといけないから、学校を休んだほうがいいと言うのです。ある朝は、首の寝違えだと言ったので、私は、『着替えをしなさい。お母さんと一緒に学校に行くのよ。学校にいたくないなら、家に連れて帰ってあげるから。』と言いました。子供達が並んで教室に入る時間が来ました。ジョアンに、教室に行く時間よと言うと、彼女は『いやだ』と叫び、わっと泣き出して、車に走っていきました。それで家に連れ帰ったのですが、私はアクティブ・リスニングをしてみようと心に決めていました。

  『ジョアン、学校がひどく嫌いみたいね。学校に行くと楽しそうじゃないし。』と言うと、ジョアンは、『気分が良くないの。気分が良くないの。』と言うばかりでした。最初は、何が彼女の気持ちを煩わせているのか言おうとせず、同じことを繰り返し言うだけでした。ところが突然、学校で一度も褒美をもらったことがないことについて話し始めたのです。

  それでわかったのですが、先生は、子供が特定の点数をとると褒美を与えていたんです。読みに関係した事でした。そういうのが2週間ぐらい続き、それがきっかけになって、彼女は学校嫌いになったのでした。それは子供達にやる気を起こさせるためのものだったのですが、ジョアンは一生懸命頑張っていたものの、彼女はクラスで一番年下で、他の子供達は高い得点を取る子ばかりでした。そして彼女は知覚能力に問題があったので、クラスでも彼女と他の2、3人の子供だけが、アルファベットを読むことができなかったのです。ジョアンは自分があまり良くやっていないと思いました。どうしても褒美をもらうことができなかったのです。」

  ジョアンの両親はそのことについて学校と相談をし、彼女を他のクラスに入れました。すると彼女は学校が好きになり、今では本当に良くやっています! 同じ母親は、アクティブ・リスニングをしたことが、4才の息子の問題の源を知る助けにもなったと話してくれました。

  『ティムの大の仲良しの子供の面倒を見ていたのですが、少しするとティムは、その子に対する敵対心を剥き出しにするようになり、喧嘩ばかりしていました。『メアリーは、悪口を言われるのが好きじゃないのよ。』とか、『メアリーをたたいたら、痛いでしょう。』とか、『ティムが、他の子供をたたくのを放っていくわけにはいかないわ。』と私は言いました。」

  私のこういうコミュニケーションの障壁となる反応は、ティムの問題を解決する助けにはならず、その問題は2カ月ほど続きました。ある日、ティムがメアリーの髪の毛を引っ張ったので、母親は、ティムを自分の部屋に行かせましたが、ティムはかんしゃくを起こしました。「それまでで一番物凄いかんしゃく」だったそうです。ようやくティムをなだめると、母親は言いました。「叫び声をあげるのはやめて、話すことにしましょう。」 そして次のような会話が交わされたのです。

  母親:ママに怒ってるんでしょう?

  ティム:怒ってなんかいない。

  母親:ティム、メアリーは何か、ティムを怒らせるようなことをしたの?

  ティム:してない。

  母親:メアリーが好きじゃないのね。

  ティム:そんなことない。

  母親:ママがメアリーとばかり時間を取ってるって思うんでしょう。

  ティム:そうだ。ママは、僕のことより、メアリーのことを愛してるんだ。

  母親:ママがティムよりもメアリーのほうをもっと愛していると本当に思っているのね。ママにはあなたよりもメアリーのほうがもっと大切で、あなたよりもメアリーのほうが好きだって。それは、時々私があなたに怒るけれど、メアリーが怒られているのを見たことがあまりないからでしょう。

  ティム:そうだよ。

 

  それから母親は、ティムはパパとママの息子だから彼らにとってとても特別な存在で、ティムの妹は彼らの娘だからとても特別な存在であり、メアリーは彼女の両親の娘だから彼女の両親にとってとても特別な存在なんだと説明しました。それからティムは落ち着き、自分の特別な友達の名前をあげ始めました。その子供達も彼らの両親のものだから、両親にとってとても大切な存在なんだと言いながら。

 

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  できるだけ子供の立場に立って考えるように努力しなさい。理解するように努め、できるだけ説明し、できるだけ優しくあるようにしなさい。

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自分のことは自分で責任を持つ子供にする

 

  親が子供に対してアクティブ・リスニングを使うことで得られる最も満足のゆく報酬の一つは、子供が自分で責任を持てるようになってくる事です。熱心に耳を傾けることは、子供にこちらの意志を幾通りも伝えることになります。

  ・私はおまえに代わっておまえの問題を解決しようとしているのではない。

  ・しかし、おまえが解決策を見つけるのを助けることはする。

  ・おまえには、この問題を建設的に扱う能力があると私は信じている。

  ・おまえが問題があるからと言って、今までのように愛されないということはない。それは正常ですべての人に問題は付き物なんだ。

  子供に、子供が自分なりの方法で問題を解決するチャンスを与えると、その能力と可能性に驚かされることがしばしばあります。ある母親は、今10歳の娘との間であったことを記しています。

  「アリスは学校ではとても行儀の良い子供ですが、先生が彼女をいつも面倒を引き起こす男の子たちばかりいる所に席替えさせていました。先日アリスは泣きながら帰宅し、15分くらい涙がとまりませんでした。『不公平だわ。先生なんか大嫌いよ。ひどい人だわ。誰の言う事にも耳を貸さないの。』先生が彼女の席を移したことに、ひどく腹を立てていたのです。先生に言おうとしたが、聞いてくれないということでした。怒りが収まると、娘は平静になってきました。

  私は言いました。『先生が聞いてくれないなら、どうしたら先生の注意をひくことができるかしら。』 すると彼女は、『手紙を書くわ』と言いました。それで手紙を書き始めたのですが、それにはこう書いてありました。『席を変えさせることで、先生は私に罰を与えているのだと思います。』 娘がそんなことを書けるなど思っていなかったので、私は驚いてしまいました。とにかく手紙に、そのことで娘は怒っていて、良い子にしていたのに公平な扱いではないし、しばらくはどこに座るか自分で選択させてほしい。また、沢山の生徒が教室にいるので先生が全員の言う事に耳を傾けるのは難しいのだという事にも気がついたと書きました。彼女はそれを提出し、それを読んだ先生は彼女に座りたい席を選ばせました! 私は信じられない思いでした!」

  別の10歳の少女の母親も、娘の自分で決断する能力に驚かされました。

  「以前は、娘の問題を自分で解決させようとはしていませんでした。いつも私が何らかの方法で助けようとしましたから。娘と友達は一緒にミーティングに行ったのですが、娘はバーバラのことと、バーバラがしたことについて、ひどいことを沢山話してくれました。『バーバラは私をばか呼ばわりしたり、彼女の妹を殴り倒したのよ。』 私はたまに何か言うだけで、アクティブ・リスニングはしていませんでした。けれども、いつものようにいろいろ口を出す事もしませんでした。ところが、バーバラについてさんざんひどい事を言っている真っ最中に、娘は電話の所に行って、バーバラに電話をかけ、こう言ったのです。『バーバラ、私悪い事をしたわ。ごめんなさい。謝りたいの』 私は、すべてバーバラが悪く、何もかも彼女のせいだと思っていたので、驚いてしまいました。」

  別の親も、息子の問題に対する解決策を教えていた時のことをこう話しています。

  「息子が私にとても怒ったのは、いつも私が息子に、『これとこれをしなさい』という具合に答えや自分の見方を押しつけるばかりだったからだと思います。」 そして、うまくいかないなら、息子は私のせいにすることができたのですが、うまくいっても息子は何の手柄も得ることはありません。けれども、息子は思いきって自分で決断したがっていたわけではないと思います。今振り返ってみると、子供達はこの2ヵ月くらいに、目覚ましい進歩を遂げていると思います。今までにないほど沢山の決断を自分で下しているのです。」

  子供はよく親に、自分に答えを与えたり、何をすべきかを指図してくれるようにうまくそそのかしたり、圧力をかけるので、親は、スーパーペアレントになって、子供の問題を全部解決してやりたいという誘惑に駆られやすいのは理解できます。しかし、子供は自分だけになれば、たいていうまく決断を下すものです。下の例でもわかる通り。

  「もうすぐ8歳になるケンは、タンバリンのレッスンを受けていました。そのコースが始まった1週間か2週間後に、そのレッスンのことで怒っていました。先生が好きでないし、いろいろ体を使ってやらなくてはいけないこともあるからです。そのレッスンを続けるかどうか決めかねていた息子は私のところにきて、タンバリンレッスンをやめるべきかどうか尋ねました。私達の子供達のうちで私が代わりに決断してやるのは、この息子が一番多かったのです。だから、この子が私の所にきて尋ねるのは当たり前のことでした。

  けれど、その時は今までやってきたように私が決断してやるのではなく、こう尋ねました。『レッスンを続けるべきかどうか決めかねているのでしょう。』 私はアクティブ・リスニングをし始めましたが、息子は決断できませんでした。自分で決断するのに全く慣れていなかったのです。私が『タンバリンのクラスが楽しくないのでしょう。』と言うと、息子は、『先生がいやなんだ。僕たちをいろいろせきたてるし、意地悪だ。先生にどうやって話したらいいか僕にはわからない。そして、僕がやめたら、ママやパパが怒るんじゃないかと思って。』 息子は私にいらいらしてきて、私が息子にどうするか指図するようにと言い張りました。『僕にどうしたらいいか言ったらどう? そしたらそれをするから。』 私は息子に何もしてやらないことに抵抗はあったものの、息子のために自分が決断してやることはしませんでした。

  1週間後、またタンバリン・クラスの日がきて、息子はやめようと自分で決断しました。私には息子にレッスンを続けさせようとするひそかな心づもりがないことを知るとすぐに、自分でやめることにしたのです。自分で決断を下したのでした。

 

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  人に責任を持たせ、自分がその人を信用しているのだと知らせること以上にその人に助けになることは、ほとんどない。

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親は自分達について新しい見方を持つようになる

 

  親がアクティブ・リスニングをし始めて、子供から気持ちやアイデアなどを聞くようになると、自分自身の振る舞いについて今まで気がつかなかったことに気付かされるようになります。以下の出来事では、歯科医の父が自分の高い期待のせいで上の娘が気落ちしていることを知りました。

  「私の12歳の娘サリーは、学校で全部の学科で100点満点を取らないと失敗者だという強迫感にかられました。学校から帰った娘が89点しか取れなかったと言うと、以前の私なら、「残念だったな。今度はもう少し一生懸命勉強して、もうちょっと良くやったらいいな。」と言ったものでした。

  最近のPTA会合の前に、サリーはとても動揺していました。なぜなら、英語で2点下がったからです。それで私は言いました。『どうもおまえは動揺しているようだな。』 すると娘はこう答えたのです。『だって、お父さんはとても失望するでしょう。この学期は、あんまり一生懸命勉強しなかったから。』 それで辛うじて、私はこう言いました。『きっとおまえにとって辛いことだろうな。』 それから娘は30分くらい話し続けました。娘の目には涙があふれ、私が怒り出すと思っているかのようでした。それで私は言いました。『お前は本当にお前のしたい事をすればいいんだよ。お前が自分が満足できる事をするのを私は願っている。お前の成績がどんなでも、私はお前を愛しているよ。』

  泣き始めた娘を抱き締めると、娘は私を愛していると言いました。その30分の会話で、娘がある先生が好きではないこととその理由を知りました。そしてどの女友達と議論をするかも。私達はすべてのことに触れ、それは本物のディスカッションに進展しました。私はあまり話す必要はなく、時々彼女に自分が聞いていることを知らせるだけでした。

  彼女は感情的にひどく落ち込んでいたので、私は座って娘を抱き締め、学校で物凄く良い成績を収めることは期待していないし、何があろうと娘を愛していると言いました。娘が学校に行き始めた時から、私達は彼女がスーパーマンのようになって、立派な成績を収めることを期待していたのです。そして娘がしくじると、まるで私達が娘を嫌っているように思わせてしまったのだと思います。でもそれ以来、とてもうまくいっています。

 

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  子供は感情的また霊的な世話を必要としている! 子供達は自分達が重要であり、愛されていて、誰かに尊敬されていると知る必要がある。それは大人と全く変わらない!

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「あなた」対「私」

 

  「あなた−メッセージ」(「あなた」、「おまえ」などを主語とする話し方)の子供に対する効果は、それが意図されるところと全く正反対になってしまうことがしばしばあります。子供はこのようなメッセージに抵抗します。「あなたったら、そんなにうるさくするのをやめなさい。」とか「お前がやめないなら、お仕置きしますよ。」「あなた−メッセージ」には高い可能性をもって、一つかそれ以上の反応が現われます。

  1.子供達は命令されたり、しないとこれこれをするぞと威かされると、振舞いを改めることに抵抗する。

  2.子供はしょっちゅうお説教したり、くどくど教えこもうとする両親に対して嫌気を起こす。

  3.「あなた−メッセージ」は「あなたに私を助けられる方法を見付けられるなんて信じてないわ」という暗黙のメッセージを伝える。

  4.「あなた−メッセージ」は、子供が、両親が何かの必要を抱えている時に、それについて思いやりをもって自発的に行動するチャンスを取り上げてしまう。

  5.子供は、自分が悪いとか劣っているとか言われたり、ののしられると、自分について罪悪感を抱くようになる。

  6.批判的で責めるメッセージは子供の自己評価を下げる。

  7.子供は、自分がいかに「悪く」、「ばか」で「思慮深くなく」「軽率」であるかを聞くとき、受け入れられておらず、愛されてもいないかのように感じてしまう。

  8.「あなた−メッセージ」は、親にも跳ね返ってくる。 「お母さんはいつも疲れている!」「自分の服も片付けないじゃないのか!」「お父さんは、なんて不機嫌なんだ!」

  あまりこういった影響が出ないようにするメッセージとは、子供の振る舞いをあなたがどう思うか、そのことでどんな結果をあなたに及ぼすかを子供に伝達する事のできるメッセージです。

  −−沢山の騒音のする家では、お母さんは昼寝できない。

  −−私のきれいなキッチンがまたすぐに汚くなると、がっかりしてしまう。

  −−電話で話をしなくてはいけないとき、まわりがうるさいと聞けないのでいやになってしまう。

  4才の子供が遊びたいのに、親は休みたいとします。このような場合、「私−メッセージ」を使うといいでしょう。たとえば、「私は疲れている。」 「あなた−メッセージ」はこうなるでしょう。「お前はうるさい。」 これは親の感情をあまり正しく伝えておらず、子供の気を害してしまうだけです。親よりも子供のことを言っているからです。

 

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  子供というのは沢山の面において大人よりも傷つきやすい。時々子供は理解できないので、あなたは子供をもっと注意深く、優しく、思いやりをもって扱わなければいけない。

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子供になぜか教える!

 

  完全な「私−メッセージ」は、次の要素を含む。1)良くない行動の描写、2)その事で親が何を感じているかを子供に教える、3)それが親にもたらす具体的な結果。例えば、ある母親の「私−メッセージ」は、「お前が弟をにらむ時(良くない行動)、私はそれがいやで、楽しくありません(感情)。弟が叫んだり、泣いたりするなら、お前たちの為に料理ができなくなってしまうからよ(具体的結果)。」その子の良くない行動は何なのかを教えるだけではなく、親がどう感じているかを教えるし、またそれと等しく重要で、どうしてその行動が母親に問題を起こすことになるかの全貌を教えることになります。

 

  子供の立場に立って考えてみて下さい。自分のしたい何かをしようと思っているか、好きでないことを避けるために何かをしようと思っているのですが、たとえ父親か母親が「おまえのしたことで怒っています」と言ったとしても、あなたは振る舞いを改めようという気になりますか? 多分、そうでないでしょう。−−なぜなら、振る舞いを改めるための納得のゆく理由を聞く必要があるからです。また時には、「パパが言ったからそうするんだ!」などと言われることが。

  だからこそ、両親は子供の行動の結果が親にどんな影響をもたらすかを明確に言わなければなりません。これを伝えないと、子供に変わるための良い理由を何も明らかにすることになりません。

 

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  コミュニケーションは非常に重要である! 子供が無作法なことをしたとき、ただスパンクし始めるのではなく、まず話し合い、子供に説明するチャンスを与えるほうがもっと良い!

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  時折、理由を説明しないと子供を傷つけてしまい、自分が受け入れられていないかのように感じさせてしまいます。どうして自分のしている事がいけないかを説明されない子供は、「パパはぼくのこと愛していないんだ」「ママはぼくのことなんて見たくもないんだ」といったような自分勝手な理由を考え出してしまうことがあります。

  先にあげた「私−メッセージ」の3つの要素は、両親にも影響をもたらします。多くの場合、両親が「私−メッセージ」の「具体的な結果」をコミュニケートしようとすると、そこにはなんの具体的な結果もないことに気づきます! ある母親はこの事をこう説明してくれました。

  「『私−メッセージ』は、いかに自分が子供に対して勝手であったか気づくのに非常に役立つことを発見しました。『私−メッセージ』の3つの要素を伝えようとして、子供の行動が自分にどんな具体的な結果をもたらしたかを説明しようとすると、私は時々こう考えます。『あら、私にはいい理由がないわ』 もし私が、『お前が家でうるさい時、がまんできないのよ。』と言うなら、『なぜなら』と言おうとして、『どうして私は不愉快に感じているのかしら?』と思うわけです。ですから、もし子供のしたことが私に何の影響もないようなら、子供にこう言うようになってきました。『今言ったこと忘れて。』 なぜなら、私が子供に対して勝手な態度を取っていたからです。たいていの場合、その理由が見つからなかったのです。そう知ると気持ちがさっぱりします。」

  どうしてこの母親の学んだことが「さっぱり」させたかというと、彼女の以下の説明の通りです。

  「私はいつも子供たちを統制していました。沢山の子供を抱えている場合それが便利な良い方法だと思ってきたからです−−全てコントロールすることです。でも今から考えると、『どうしてそんなことができたのかしら?』と思います。それをしたことで、かえって忙しくなったからです。私は子供のするありとあらゆる小さいことに思い煩っていました。今は一歩下がって、『そんなにたいしたことじゃないわ』と言えることがよくあります。

  彼女がある出来事について、この新しい態度をどのように適用したかを報告してくれました。

  「キャロラインはお風呂の水で遊ぶのが好きです。私は、『私−メッセージ』を送って、私に影響がある、つまり『ママは片付けたくない』と言うつもりでしたが、『ちょっと待て、どうして私が片付けなくちゃいけないの?』と考え直し、『もしお風呂の水で遊びたいなら、ちゃんと片付けますか?』と娘に聞きました。そして娘は『もちろん!』と答えました。それでよかったのです。−−娘が自分で片付けました。そして私達両方とも満足しました!」

 

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  どの場合もそれぞれの状況に応じて判断し、神の聖霊の導きに応じて対処するべきである。

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子供があなたの「私−メッセージ」を無視するとき。

 

  「私−メッセージ」を使えば、いつでもうまくいうという考え方は、PETの方法をあまり理解していないからでしょう。「私−メッセージ」は、誰かの行動があなたに迷惑をかけているのを伝えるための方法に過ぎません。また、その人がやりこめられ、罪悪感を持ち、憤慨するという可能性が低くなります。でも、「私−メッセージ」を使っても、その人が、あなたが困っていることを思いやりをもって助けるために、すぐにか、または喜んで行動を改めるという保証はありません。

  それと、子供が問題があるのにあまり耳を貸さない親の家庭では、「私−メッセージ」は役立ちません。この理由は単純です。つまり、子供が(子供が問題がある時には)あなたが心から耳を傾けてくれると感じていないなら、あなたは、(あなたが問題のある時)子供に耳を傾けてもらうのは期待できないからです。

 

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子供は親の鏡!

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  「私−メッセージ」は、助けてもらう為の直接的なアピールと見られなければなりません。「お前達がうるさくて、テレビの音があまり聞こえない。私はこの番組を見るのをとても楽しみにしていたんだけど。」このようなメッセージは子供があなたを助ける気持ちがあるかどうかを尋ねているわけです。でも子供が問題を抱え込んでいる時に、あなたが喜んで助けないなら、子供だって、あなたの問題を助ける気にはならないでしょう。

  あなた−メッセージの影響は、後々長い間、子供に罪悪感や悪影響をもたらしかねません。良い「私−メッセージ」はめったに罪悪感を生みません。子供の振る舞いに対してあなたがどう感じているかだけを告げているのであって、子供がしたことで子供を非難しているのでないからです。子供にとって、これは非常に重要な相違なのです。

 

「私−メッセージ」に関する両親の為のガイドライン

 

  1.両親が「私−メッセージ」をどれだけ効果的に使うかは、子供との関係にかかっています。子供達が問題のある時、親が良く耳を傾けるなら、親が問題のある時、子供は良い反応を示す可能性が高くなります。助けることは相互作用でなければなりません。一方的にやるのは不可能です。少なくとも、長続きはしないことでしょう。

  2.自分の真の感情を理解するように努めること。もしあなたの「私−メッセージ」がたいていの場合怒りっぽいなら、子供が迷惑をかけると、あなたは自分の真の感情が何なのかわからない事でしょう。自分自身にこう尋ねてみてください。「自分は何を恐れているのか?」 子供の行為が自分の価値観を脅かしているために、自分はその行為が好きではないという場合がほとんどだからです。

  3.もしあなたが子供のした事でどんな結果が生じるかを説明していないなら、子供が振る舞いを改めると期待することはできません。子供に本当の理由を教えてください。子供は自分の振る舞いを改めるべき良い理由があると納得させられなければなりません。

  4.「私−メッセージ」がいつもうまくいくと期待しないように。あなただって友達や配偶者に注意を与えられる度にいつも改めたいと思わないでしょう。

  5.子供があまりにももろく繊細だと考えないように。もし最初の「私−メッセージ」がうまくいかないのなら、自分が無視されたら、どのように感じるかがはっきりわかるより強力な2番目のメッセージを送ってください。

  6.子供に対処していて、子供が自分を弁護しようとしたら、注意深く耳を傾けなさい。そして必要なら、アクティブ・リスニングをするのです。

  7.子供にどうすべきではなく、子供がどのようにあなたに迷惑をかけているかを説明しなさい。子供に、あなたを助ける人となるチャンスを与えるのです。

  8.「私−メッセージ」は、自分のする必要のあることを押しつけるための方法ではありません。ですから、この強力な技術を命令、肉体的強制、罰をするという脅かしで台無しにしないでください。

  しつけのための法則:愛は敗れず!

 

「私−メッセージ」がどのように役立つか

 

  ある母親は「私−メッセージ」によって、とても良い成果がありました。

  「『私−メッセージ』を使い始めてからすぐに、以前には絶対に無理だと思っていたことを改善できるようになりました。5人の子供を連れていろいろな用事などに出掛けることが多いのですが、車の中で子供達が大騒ぎするので、私はいつもいらいらしていました。特に大変だったのは、何十キロも車を運転して9歳の子をピアノのお稽古に連れていく事でした。夕方のラッシュアワーに繁華街や学校地域などを通って行かなければならないからです。母親がよくするように、かっとなって子供達を怒鳴りつけたりすることもありますが、それによって混乱状態はひどくなるだけでした。しかしその記念すべき日に、私は、怒鳴るのではなく、ただ私の本当の気持ちを子供達に話してみようと思いました。そこで道路の端に車を寄せてエンジンを切り、鍵を抜きました。はっとした子供達が停車した理由を聞いてきたので、私は冷静に話しました。『ママは、怖くてしようがないのよ。そんなにワイワイガヤガヤしているから、とってもイライラするの。だからこのままで運転したくないの。事故を起こすかも知れないから。だから、落ち着いて運転できるようになるまで、待つつもりよ。』 言うまでもなく子供達は即座に静かになり、目的地に着くまでずっと静かにしていました。今でも運転にさしつかえるほど子供達がうるさくする時に、ただ車を道路の端に停めさえするなら、その魔法が効力を発揮します。他の時にも無言で、「私−メッセージ」を伝えました。そうすると、赤ちゃんにも私の気持ちが分かるようです!」

  もちろん子供達が忘れてしまったら、もう一つの「私−メッセージ」を伝えるべきで、これは大して珍しいことではありません。子供はすぐ物事を忘れるものです。

 

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  最終的なゴールとは、子供が愛のゆえに心から従い、何が正しく何が誤ったことか自分自身で確信を持ち、その確信のゆえに正しいことを選んで行うよう教えることである。

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 子供はお手伝いが大好き

 

  子供は愛を与えられると、愛を返してきます。良い「私−メッセージ」を伝えさえするなら、子供がそれに答えてくれるのを目のあたりにするでしょう。親の必要や気持ちを本当に気にかけてくれているかのように振る舞うでしょう。

  ある母親が12歳の娘キャシーに「私−メッセージ」を伝えた時の事を話してくれました。夜、勤務先の学校から帰ってきて、家がきちんと整理されていたらとっても助かるという事を話したのです。

  「私がこの『私−メッセージ』を言った時、娘は珍しく黙っていました。しかし、その長い沈黙の後でこう言いました。『私の助けが必要だったなんて知らなかったわ』と。」

  キャシーのように、親の必要を知らない子供達は沢山います。大抵ただ、「何々をしなければいけません」とか、「何々をするべきよ」とか、「何々をした方がいいぞ」とだけ告げられているのです。

  「私−メッセージ」の三つの要素が効果を持っているのは、自分が問題をかかえていると認め、それを解決する為に助けが必要だということをそれとなく相手に知らせるからです。これは、どんな人間関係にも言えることです。−−友人が自分の問題を打ち明けてくれたら、人はたいていそれに耳を傾けるものです。しかし、その友人が非難的で、しかも「こうこうこうすべきだ」というような命令的なものの言い方をするなら、殆どの人はかっとなって反抗的な態度をとるようになります。誰も命令されることは好きではありません。どんな年代の子供達もまた然りです。

  親に、喜んで欲しいと言う子供達の願望を、私達は全くもって過小評価しがちです。 子供達は親の手伝いをするのが大好きなのです。両親の生活がもっと楽しいものになるように助けたくてうずうずしています。そして自分が親の助けになることができるのなら大喜びです。しかし親は子供達がそのような願望をもっていることにほとんど気がついていません。なぜなら、親の必要が子供達に伝わるような会話をすることがほとんどないからです。また、子供が助けになるような振る舞いを率先してするように励ますこともめったにありません。

 

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子供達は世界で最も誠実な人々である。

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子供は巧妙な解決法を思いつく

 

  「これこれをしなくちゃいけませんよ。それをしなさい。あれをしてみたら。」−−などと親が言わないようにして、良い「私−メッセージ」を伝えるなら、こどもに、その問題の解決法を自分で考えるチャンスを与えることになります。そして子供が思いつく解決方法が驚くほど巧妙で独創的なものであることがよくあります。親が思いもしなかったようなことを子供は思いつきます。2、3歳の子供でさえ、かなり賢いアイデアを思いつくことが出来ます。ある父親の報告を引用してみましょう。

  「帰宅したら、ギャリーのホッケーネットが植えたばかりの芝の上に置きっぱなしになっていることに気がつきました。芽を出し始めたばかりの芝の上に多くの足跡がついていました。だから私は、新しい芝がめちゃめちゃにされて非常にがっかりしたという「私−メッセージ」をかなり強烈に息子に伝えました。また時間をかけて芝を植え変えたくはないと。息子はぶつぶつとわかったよと言いましたが、そのままテレビを見続けていました。

  数日後私が帰宅すると、息子と4、5人の近所の子供達がホッケーをしているではありませんか。しかし今度は、芝の生えていない所にゴールをつけ、新しい芝を踏み付けないように芝を飛び越えながらゲームをしていました。私がそのことを褒めてあげると、子供の一人がこう言ったのです。『足跡をつけたら、ペナルティーになるんだ。』 このアイデアがどこから出てきたのか全くわかりませんでしたが、とてもうまく行っていました。私だったら決してそんなことを思いつかなかったでしょう。」

  子供達はとても独創的な解決法を思いつきます。なぜなら、自分のしたいことができるようにしたいからです。両親の要求を満たすと同時に、自分のしたいことをするには、どうしたらいいか思いつこうとして子供が小さな頭を素早く回転させている姿が目に浮かぶようです。次に紹介するティムもそうしていたのでしょう。

  「来客に備えて若い母親がステレオのキャビネットをピカピカに磨きました。7歳と4歳の息子達がレコードを聞きたがりましたが、母親は指紋がキャビネットに付くのを心配していました。『お母さんがレコードをかけてあげるわ。』と言いたい思いにかられましたが、それをぐっと抑えて、代わりに「私−メッセージ」を子供達に伝えることにしました。『あなたが蓋を開ける時に手の跡がつくんじゃないかと心配しているのよ。そうしたらお客さんが来る前に、お母さんがまたきれいにしなくっちゃでしょう。』 すると7歳の子は独自の解決法を見付けました。自分の袖を引き伸ばし、素手でさわらずにステレオを開けたのです。」

 

正直であるのはとてもいい気分

 

  親が「私−メッセージ」を子供に伝え始めると、子供の行動に変化が見られるだけではなく、自分自身にも素晴らしい変化が生じることに気づきます。この変化は色々な言葉で言い表せますが、すべて結局は、より正直になるという変化のことを言っているようです。

  「あなたは自分の行動するままの人となる。」という言葉がありますが、この場合、確かに当てはまります。「私−メッセージ」という新しい意志疎通の方法を取り入れることによって、親達は自分の気持ちをもっと正直に伝えられると感じるようになります。そしてそれは、自分が本当に心の中で感じていることを理解する助けとなるのです。「あなた−メッセージ」は、それとは正反対です。

 

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自分自身に対して正直でない者は、他の誰に対しても正直になる事は出来ない。

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怒りをどう処理するか

 

  自分の気持ちを正しい方法で伝えて下さい! 私達は皆、かっとなる事があるものです。しかし、自分の気持ちを正しく伝えるなら良い結果が生じ、抵抗や反抗にあうことはありません。その例として、ある母親の体験をお話ししましょう。

  「ある日私は、気がめいっていたのですが、子供達は家の内外を駆け回っていました。このままの状態を続けるのは全く馬鹿げていると思ったので、とうとう子供達に言いました。『お母さんは今いらいらしてて、あまり忍耐がないの。こんな時にあなた達に話したくないわ。一人になりたいんだけど。』 子供達はただ私を見つめてこう言いました。『それじゃ、二階で遊ぶわ。』 全く簡単なことでした−−本当に素晴らしかったんです!」

  この母親は子供達に怒っている理由(一人になりたいこと)をある程度言いましたが、この例は、怒りは必ずしも、戸を力いっぱい閉めたり、人の気を害したりすることにつながらないということを示しています。−−たいていの場合、このように自分の感情を表すことは良い結果を招くし、怒りを内にためたままにして子供達に恨みを抱いてしまうよりも、はるかに健康的なことです。

 

感謝の念を伝える「私−メッセージ」

 

感謝の気持を適度にそえて、建設的な「私−メッセージ」を伝える方法:

 

学校の帰りに友達の家に寄ったと、8歳の娘が電話してくる。      

 「どこに行ったのか知らせてくれると安心するわ。あなたの事を心配しなくてもいいものね。」

 

12歳の息子がもっと頻繁に髪を洗うようになった。          

  「髪がきれいだと、あなたを見てて気持がいいわ。」

 

忙しい時に、6歳の息子が食卓の準備を助けてくれた。         

  「手伝ってくれて本当に嬉しかったわ。手伝ってくれなかったら、夕食が遅れていたもの。」

 

  「私−メッセージ」を伝えるなら問題を未然に防ぐ事にもなります。子供達にあなたの気持ちや考えていることを知らせるのは、子供達が、あなたに何が必要なのかも知らないままにあなたの気にさわるような振る舞いをしてしまってからではなく、ちゃんと前もって知らせておいたほうが、ずっといいのです。

 

「私−メッセージ」がどのようにして問題解決に導くか

 

  「私−メッセージ」によって子供が即座に自分の行動を変えないと、あきらめ、失望したり、憤る親たちがいます。「私−メッセージ」は問題解決の糸口にすぎない事を忘れているのです。「私−メッセージ」を伝えられる事で、子供はどうして自分の行動が親に受け入れてもらえないかを知りますが、それでも子供は、その時には親にはわからない理由から、どうしても同じ行動を続けていく必要があるのかもしれません。そして子供が振る舞いを改めないと、二人の間に衝突が起こります。親は子供の行動がいやでも、子供はその行動が好きなのです!

  でもここで、あきらめたり、譲歩したりする必要はありません。あなたの必要はなお満たされておらず、問題は以前として存在しています。だからあなたの仕事は、問題解決に乗り出し、あなたと子供の双方が受け入れられるような解決策を見いだすようにすることです。だから「私−メッセージ」がうまくいかない時には、親は自分の必要と共に子供の必要も満たす問題解決策を探し出すようにしなければならないでしょう。

 

衝突を解決するための3つの手段

 

  ほぼ例外なく、親は子供との避けられない衝突を、二つの方法のどちらかによって扱います。つまり厳しくするか、甘くするかです。これを方法1、方法2と呼びましょう。この方法はどちらも、勝つか負けるかのやり方で、誰かが勝ち、誰かが負けます。衝突はしばしば権力争いや意志の戦いや真剣勝負となります。両方の方法をよく探ってみれば、読者の皆さんはその理由がよくわかることでしょう。

 

方法1:

  親子の衝突が生じると、親が解決策はこれだと決めつけ、子供がそれを受け入れるのを願う。もし子供が抵抗するなら、親は子供に力と権威を行使すると脅して(または実際に行使して)無理矢理服従させる。(親の勝ち、子供の負け)

 

方法2:

  親子の衝突が生じると、たいてい親は最初に子供が親の解決策を受け入れるよう何とか説得しようとする。しかし子供が抵抗すると、親はあきらめるか譲歩し、子供が自分の好きな通りにするのを許す。(子供の勝ち、親の負け)

 

  どちらの方法においても、親子の態度は、「自分の思う通りにしたいんだ。力を使ってでもそれを得るぞ」か、「相手の必要が満たされなくとも、自分の必要を満たすぞ」というものです。どちらの場合も、一方が敗北感を覚え、勝った方に対して恨みや反感を抱くものです。しかし、もう一つ方法があります。それは方法3で、「敗者なしの方法」と呼べるでしょう。

 

方法3:

  親子の衝突が生じると、親は子供に両者が受け入れられるような解決策を一緒に探さないかと言います。どちらも、考えられる解決策を提案し、それを検討します。そして最善の解決策に決定します。それからそれをどうやって実行するかを決めるのです。強制も力も行使しません。(敗者なし)

  確かに子供には制限が必要ですが、それを押し付けるのではなく、子供の行動について定める制限を子供が自分で選ぶか、親子が同意して定めるようにすべきです。方法1をやめても、全く制限を定めないということではありません。たいていは、さらに多くの制限と規則が設けられます。そして、子供はもっとそれらに従うことでしょう。親も、これを理解してしまえば、自分の権力と考えるものにさほど強く固執することはなくなります。

 

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  規則は少ないほど良い。厳しすぎて子供が守れないような規則は作ってはいけない。厳しすぎる規則を作ると、子供は反抗的になって、それを全く無視するようになる!

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「敗者なし」の方法を使う

 

  「今にも」激しい衝突が起こりそうというのではなく、怒りやいらいらや反感といった強い感情がからんでいないなら、敗者なしの方法を使ってみましょう。例:今週の週末は、家族一緒にどうやって過ごしましょうか?」、「あなたのお友達のエイミーが来週やってくる時に、あなた達にとっても、私達にとっても、全てがうまくいくようにするには、どんな規則を定める必要があるかしら?」、「朝あなたを学校に遅刻させないために3回も4回もあなたを起こさなくてはいけない問題は、どうしたら解決できるかしら?」

  このような「予防的問題解決」をするなら、その方法はさほど複雑ではないようだし、親は、親に助けとなる解決法を子供がどんなに快く受け入れてくれるかがわかります。(ただし、子供たちの必要も満たされていなくてはいけないことは言うまでもありません。)

  第二に、自分の必要が満たされずに子供が不満に思っている問題を選ぶ。そのような問題には、子供も問題解決に参加させることで何らかの益が得られるものです。例えばこうです。「あなたはパパやママに毎晩寝なさいと言われるのがいやみたいね。あなたと私達の両方にとって受け入れられるような解決策を探しましょうか。」、「あなたは卵があんまり好きじゃないけれど、私が毎朝そのことをガミガミ言わなくてはいけないのはいやだわ。あなたもママも満足するような解決策を探しましょう。」

  子供が何度か、問題解決から大きな益を受けるという経験をしたなら、子供は、親の必要が満たされていない時にも、喜んで問題解決のための話し合いに応じようとすることでしょう。

  学校教師でもある母親は、子供と問題を解決することの重要性について感じたことを以下のように要約しています。

  「これは夫婦関係のようなものです。と言うのも、良い関係でいようとするなら、いつも努力を重ねていなくてはいけないのです。そして、良い状態でいたいなら、常に正直になり、障壁をそのままにしておいてはいけないのです。何かが生じて、誰かが自分の気持ちを正直に言わないためにそれに取り組むことができない場合を除けば、このような問題解決の努力は必ず成功します。

 

子供からの非現実的な解決策

 

  幼い子供は、経験不足のせいで物事の困難さや容易さを理解できないことがよくあるということを心に留めておいて下さい。だから、最初に子供がやると決めたことを守らせようとするのに固執してはいけません。

  以下は、毎晩9時か9時半に寝るのに慣れていた5歳の子供が7時半に寝ると決めた時の話です。

  「私が朝ジァンを起こすと、ジァンはとても疲れていて幼稚園に行きたくないと言いました。私は言いました。『ママは、度々やってきてはあなたが着替えるのを手伝ったりしなくてはいけないのはたまらないわ。私が着替える時間がなくなるし、あなたも朝食を食べる時間がなくなるから。』 とにかく娘はそれを理解し、私達は座って一緒に話をしました。娘は朝はいつも疲れていると言いました。そして、かわいらしい事に、書く事もまだ覚えてもいないのに、『じゃあ、私が自分の提案を書くわ』と言ったのです。その後で言いました。『私、ママがお話を読んでくれたら、すぐに寝ようと思うの。』 それなら7時半です。今までは9時か9時半に寝ていたので、それに変更するのはどうも不可能のようでした。とても非現実的な解決策です。娘はその夜7時半にベッドに行ったものの、5分後には部屋から出てきて、『あんまりいいアイデアじゃなかったみたい』と言ったのでした。だから、別の解決策を考え出すチャンスを与えてあげたのでした。」

 

必要がはっきりしているなら解決策が生まれる

 

  もう一つ、問題解決の例をあげましょう。それは、4歳のスタンと父親の場合です。子供の必要を理解し、切迫した問題を、うやむやにしてしまうことがないようにすることの、重要性がよくわかります。母と2歳の弟は週末遠くに行っていて、スタンと父親は、家に二人きりでした。最初の日、スタンと父親は一緒に沢山の時間を過ごしました。けれども父親は、自分が家に持ち帰った仕事をやっていないことで、だんだんいらいらし始めたのです。

 

  スタン:パパ、僕と一緒に家を作ってくれる?

  父:残念だが、もう仕事をしなくてはいけないんだよ。

  スタン:ねえ、もう一つだけ。いい?

  父:もう大きいのに一人で遊べないのか?

  スタン:(ふくれっつらで)ううん。

  父:どうしてもパパと一緒にいたいのか?

  スタン:そう。

  父:でも今遊ぶのは気が進まないんだ。また後で遊ぼう。

  スタン:じゃあ、僕の部屋で仕事をしたらいいよ。

  父:でも、本や書類や、パパのお気にいりの椅子は、全部このリビングルームにあるから、ここで仕事をしなくてはいけないんだ。

  スタン:(短い沈黙)僕の積み木をここに持ってくるのを手伝ってくれる?

  父:パパが仕事をする間、同じ部屋にいたいんだね?

  スタン:そう。

  父:いいよ。積み木を取りに行こう。

  スタンはたっぷり1時間くらい静かに積み木で遊んでいました。父親も仕事がはかどり、両方とも、後で良い雰囲気で一緒に遊ぶことができました。

 

問題にはたいてい複数の解決策がある

 

  私は何度も何度も、子供が見事な解決策を考え出す能力があることに驚かされたという親の報告を耳にします。私達は子供にこの能力を生かすチャンスをほとんど与えないために、この面において子供を過小評価しています。あなたも以下の出来事で母親の驚きようを察することができるのではないでしょうか。

  「私達の問題の一つは子供が泥で汚れた足のまま裏玄関からあがってくることでした。最初、家の外の反対側まで回らせて、車庫を通って入るようにさせていました。それが私の解決策だったのです。けれども子供達は、その方法では冷たく濡れた靴を履いたままで長い道のりを回らなくてはいけないので、裏のポーチで靴を脱ぎ、その靴を泥で汚れてもいい下駄箱まで持って行ってもいいかと尋ねてきました。それは私が考えつくような解決策とは違いました。一度私が解決策を言い渡したら、それが絶対的な律法となっていました。けれども、子供の解決策は、私がこれが絶対に解決策だと感じていたものとは違っていても、私の望んでいた通りの結果を生んだのです。子供達はかなり良いアイデアを思いついたわけで、子供達も私も満足しました。もうそのことで問題はありません。」

 

 真の問題を突き止める

 

  以下は、表面に出た問題に対して親がアクティブ・リスニングをすることで、幼児が真の問題を発見するのを助けたという良い例です。

  「それは好ましくない行為でした。メルは午前3時半頃に起きては、両親のベッドに入ってくるのです。それはやめなくてはいけません。メルは私達にこう言いました。『僕は自分のベッドで寝るのがいやなんだ。』 けれども、前は自分のベッドが好きで、それを購入した時にはとても喜んでいました。だから、私達はアクティブ・リスニングをすると、実はベッドが嫌いなのではなく、弟のグレッグが起こすからだということがわかりました。メルは言いました。『グレッグを1階のベビーベッドに寝せたら大丈夫と思うよ。』 そこで私達は答えました。『でもグレッグが目を覚まして、おむつがびしょぬれで寒くても、私達に泣き声が聞こえなかったらどうする?』 メルはそれは問題だとわかり、とうとう私達はメルが別の部屋のベッドに寝ることで意見が一致しました。」

 

定期的にミーティングをする

 

  組織の定例会議のように、家族が定期的に集まって問題解決のミーティングをする家庭もあります。ある母親はそのことをこう語っています。

  「もう何年も前から、私達の家では、どんな問題を解決しようとするのかが家族全員にわかるよう、食器棚のドアに議題を書いた紙が貼ってあります。私達は週に1回集まります。そしてみんながその問題について考えられるよう、私は前もってそのリストを書いておくのです。また、子供にリストに書き加えさせることもするので、子供も一員であると感じることができます。そして私達はいつも解決策を記録しておき、それをフォールダーに保存し、後で見返してちゃんとそれがうまくいっているか見るのです。それは子供の記憶を新たにする助けになりましたし、強化することができました。」

  定期的にミーティングを開くことの利点は明らかですが、以下はそれをさらに効果的にするためのガイドラインです。

  1.あまりにも長い時間しない。子供はすぐに疲れてしまい、落ち着かなくなることは忘れてはいけない。

  2.その場で解決しなくてはならない衝突もある。だから、定期的なミーティングがあるからといって、すぐに解決する必要のある衝突についての話し合いを定期的なミーティングの時まで延ばすべきではない。

  3.ファミリー・ミーティングでは子供達全員がかかわっている事柄や衝突だけを取り上げる。親と一人の子供との間だけの衝突について話し合うと、他の子供達が退屈する。

  4.議題が沢山あるなら、家族でどの問題が一番優先して話し合われるべきかを決める。優先順位の低いものは、次回のミーティングに持ち越せる。

 

良きコンサルタントとなる

 

  親が子供の価値観や信念や振る舞いに良き影響を与えたいなら、成功しているコンサルタントたちに見習うべきです。以下のようにしてはどうでしょう。

  事実や情報を準備しておく。優れたコンサルタントは納得のいく事柄を十分準備した上で仕事に取り組みます。「依頼人」にどうすべきかや、いかに行動すべきかを話したいなら、それをする前にまず、その人に自分の行動などを変えたほうがいいと確信を抱かせるような証拠材料や知識を並べることです。

  親はよく子供に十分な事実を述べることなしに影響を与えようとします。ですから、経験豊富で、人を納得させるような事実を十分知っているのでない限り、コンサルタントの役目はしないようにというのがアドバイスです。(編集者:最も重要な「事実」とは、神の言葉はそれについて何と言っているかです。) 人々は自分で納得しない限り、変わることはありません。もう一度思い出して下さい。子供達も人間なのです!

  最初に、コンサルタントとして雇われること。優れたコンサルタントは、依頼人に、自分をコンサルタントとしてぜひ雇いたいという気にさせます。つまり相手の話をしっかり聞くムードでいて、そのための時間も作ります。

  1.子供に、あなたの知っている事実や意見を聞きたいと思うかどうか聞くこと。

  2.あなただけでなく、子供にとって都合の良い時間を聞く。

  3.子供に役に立つと思われる貴重な情報があると子供に言う。

  あくまでも最終責任は依頼人のものとする。優れたコンサルタントは、自分の経験や専門知識を提供するだけで、それを採用するか却下するかの決定は依頼人に任せます。優れたコンサルタントは意見を伝えるだけで、説教はしません。自分の意見を押しつけるのではなく、提供するのです。要求するのではなく、提案にとどめます。子供が大きくなると、幼かった頃には有効だった親としての権威も突然効果がなくなってしまいます。それは、親が主の力を持っていないなら、力がなくなってしまうからです。ティーンエージャーになると、子供は命令されたり、押しつけられるのを望みません。親は自分の武器の弾薬が尽きたことを知ってがっかりするのです。

 

どうして親には訓練が必要なのか?

 

  他のいろいろな分野においては、上手になりたいならレッスンを受けたり、コーチしてもらったり、訓練プログラムを受けるという考えに喜んで賛成しておきながら、良き親になるための訓練を受けるという考えかたとなるとそれを拒絶する人達がいるのは不思議です。テニスが上達したいなら、プロからテニスレッスンを受けますし、上手なブリッジのプレイヤーはほとんどみんなブリッジのレッスンを受けたことがあります。また、ほとんどの人はスキーコーチから何回かレッスンを受けてから、スロープで滑り始めます。運転や洋裁や油絵、グルメクッキング、インテリア・デコレーティング、水泳、飛行機の操縦を覚えるにはプロの人からの助けを得るという考えかたには、たいていの人が賛成します。

  しかし子育てとなると話が違います。人々は子供ができると自分は自然と良き親になるものと信じこんでいるのです。または、良き親になるには何を要するのかを自分に教えるほどそれについてよく知っている人がいることを受け入れられないのかもしれません。何にせよ、幾らかの訓練は確かに親にとって助けになりますし、「子を行くべき道に従って訓練する」助けになるのです!