宝 P.741-747

 

歴史に見る冒険実話集!

イスカリオテのユダ!−−裏切り者の話!

  (この話は、次に挙げる聖書の節にもとづいています。マタイ26:1-25、45-50、27:1-10,57、マルコ14:1-45、ルカ22:1-22,47-48、ヨハネ6:64-71、12:1-7、13:1-2、18-30、18:5、20:19,24。 時の設定は、ヨハネ20:19の初めの部分です。 「その日、すなわち、一週の初めの日の夕方、弟子たちはユダヤ人を恐れて、自分達のおる所の戸をみな閉めきっていました。」)

  日も沈みかかり、エルサレムの町に長い影を落としていました。外套で顔をおおい隠した二人が、暗くなった細い道をこちらに向かって歩いてくるのが見えました。大きな家の前に来ると、二人はあたりを見回して後をつけられていないことを確認し、その家の扉をたたきました。

  扉がほんの少しだけ開いて、誰かがささやきました。「どなたですか?!」

  「私よ、ヨハンナ! それからサロメよ!」

  素早く扉が開き、二人の女は急いで家の中に入りました。女たちがつけられていないことを確かめてから、マタイは錠を掛けました。

  「トマスがどこにいるか、わかったかい? 私たちが園から散らされて以来、誰も彼を見ていないんだ!」

  「彼は大丈夫よ!」と言って、サロメは使徒たちを安心させました。「ただ、彼が町を歩いてここに来るのはまだ安全じゃないのよ。」

  「ああ、みんなに大ニュースがあるの!」と、ヨハンナは外套を脱ぎながら口をはさみました。「ちょっと前にアリマタヤのヨセフに会ったんだけど、信じられないようなことを教えてくれたのよ!」

  「今日はたくさん、信じがたい話を聞いたよ!」とバルトロマイが言いました。「今朝は、君とマリヤが、イエスが生きておられるのを見たと言うし! イエスが死からよみがえって生きておられるのを見たそうじゃないか!」

  マグダラのマリヤが興奮した様子で言いました、「そうなのよ、見たのよ! イエスは生きておられるわ! イエスを見たのよ!」

  「マリヤ、マリヤ! 聞きなさい!」と、年上のヨハンナが戒めました。「ユダがイエスを裏切って、祭司長の兵士たちをイエスのところに連れて来たのを覚えているでしょう?」

  「ユダはどうしているんだい?! 今度は僕達の所に兵士達を連れて来ようとしているのかい?」と、若いほうのヤコブが心配そうに尋ねました。

  「いいえ!」と、ヨハンナは言いました。「ユダは死んだわ!」

  「死んだ?! ユダが死んだ? どうして?!」

  ヨハンナは驚いているみんなを見回し、小声で言いました、「首を吊ったの! 自殺したのよ!」 みんなはショックで息をのみ、しばらく沈黙が続きました!−−「みんな、座って。私が聞いてきたことを話すわ!」

  みんなが座ると、ヨハンナはひと息ついて、話し始めました。「何もかも本当に信じがたいわ! ユダがこんなことをするなんて、夢にも思わなかった!−−イエスを裏切るなんて! 彼を信頼していたんだもの! 彼はみんなのためにお金の面倒を見ていて、私が献金を手渡すと、いつもとても感謝していて、感じのいい人だったわ!」(ルカ8:3)

  すると、マタイがため息をつき、言いました、「だが、私はいつも、毎月多額のお金がなくなっているのではないかと怪しんでいたんだ!」

  「まあ! まさか、ユダが‥‥?!」

  「そうさ! 私は前は取税人で、会計専門だったんだよ。少なくとも、金の数え方や、会計簿のつけ方くらいは、知っているさ! (マタイ9:9) だから言うが、何度も、経費以上に金がなくなっていたことは確かだ!」

  「だけど彼は、お金を貧しい人たちにあげていたんじゃなかったの?」

  「いいや! 彼はイエスがそうするようにと命じられた時にしか、貧しい者たちに与えていなかった!残りは自分のふところに入れていたんだ! 彼は盗人だった! いつも貧しい人々のことを気にかけていると見せかけていただけなんだ。先週、らい病人シモンの家で食事をした時みたいに。覚えているかい?」

  「ああ!」とヨハネが答えました。「マリヤとマルタとラザロもそこにいた! マリヤは、すごく高価な香水が1ポンドも入った石膏のつぼを持って来た‥‥あれは何だったんだい?」

  「純粋なナルドの香油だ!」と、マタイは答えました。「あれは300デナリ以上の価値がある。普通の人の一年分の賃金に相当するんだよ!」

  ヨハネが言いました。「そうだ! マリヤがそれをイエスの頭と足に注ぐと、誰が彼女を非難したか、覚えているかい? そして彼女をたしなめなかったことで、イエスを責めたのは誰だったのか?」

  「もちろん覚えているよ! ユダさ!」と、ヤコブが興奮した様子で言いました。「今思い出した! 彼は、『この香油を300デナリで売って、貧しい人たちに施すことができたのに』と言ったんだ!」

  それに対して、マタイはこう言いました。「それは、ユダが貧しい人々の事を気にかけていたからではないんだ! ただ、財布から金を盗んで、自分のものにしたかっただけなのさ!」

  アンデレが付け加えました、「そしたら、僕たちは、ユダが貧しい人々のことを気にかけていたからではないんだ! ただ、財布から金を盗んで、自分のもも何人かそれに加わって、『何のためにこんなむだ使いをするのか?』って言い始めたね。」

  「そうだ!」と、ヨハネが答えました。「だが、その後、イエスが僕たちにこう言われたんだ。『するままにさせておきなさい! マリヤは私に良い事をしてくれたのだ! 貧しい人たちはいつもあなたがたと一緒にいるから、したい時にはいつでも良い事をしてやれる。しかし、私はあなたがたといつも一緒にいるわけではない。この女はできる限りの事をしたのだ。すなわち、私の体に油を注いで、あらかじめ葬りの用意をしてくれたのだ!』」

  「イエスがそう言われた時のユダの目を見たかい?」と、ヨハネが尋ねました。「誓ってもいいが、ユダが荒々しく家から出て行った時、彼の目の中に悪魔そのものを見たよ! そしてまる一日、戻って来なかった‥‥」

  「そう! その時だわ!」と、ヨハンナが興奮して言いました。「それはヨセフが言っていたのと全く同じ日だわ。彼も昨日になってやっとそのことを知ったんだけど、ちょうどその日に、ユダは祭司長たちのところへ行って聞いたの。『イエスを裏切ってあなたがたに引き渡せば、いくら下さいますか?』って。ユダが来たので祭司長たちと長老たちはすごく喜んで、もしそうするならお金をやると約束したのよ!」

  「いくらだい?」と、マタイは尋ねました。

  「ほんのはした金よ! 主を裏切った報いとして、銀貨を30枚与えただけよ!」

  「ユダは、他にも何か考えていることがあったんだろう。」と、熱心党のシモンが言いました。「祭司長たちや長老たちが、かなり長い間、イエスを殺そうとたくらんでいたことは、私達みんなが知っていた。(マタイ26:2-5、ヨハネ11:7-8) 私達全員の命が危うくなってきていたから、利口なユダは、すぐに抜け出さなければ、イエスと共に投獄されるか、殺されるだろうと悟ったわけだ!」

  「そうだね」、とヨハネが言いました。「彼は、万事がうまく行っていて、イエスに人気があった時は、喜んで弟子でいようとしていたけど、状況が厳しくなってきて、自分の立場をはっきりさせなければならなくなると、本性を現して、信仰を捨てたんだ! 僕たちは皆よく知れ渡っていたから、ユダがイエスに背いて裏切ったことを証明でもしなければ、パリサイ人たちは決して、彼が本当にイエスを捨てたなんて信じなかっただろう!」

  バルトロマイが問いただしました。「つまり、先週ユダは、僕たちを裏切ろうとして、ずっと機会を狙っていたと言うのかい?」

  「そんなこと全然気づかなかったわ!」と、スザンナは言いました。「だって‥‥彼、とてもいい人のように思えたもの!」

  「それさ!」と、マタイが言いました。「彼はとても優しく、とても好ましい人間のように振る舞っていた。だが、私のように、本当に彼のことを知るなら、彼の別の暗い面を見ることができただろう。彼は、イエスの言われたことや、なさったことに対して、疑い深く批判的だった! 覚えているだろう。」

  ピリポが付け加えました。「彼が私達みんなにどれだけ悪い影響を及ぼしていたかは、神にしかわからないことだろう!」

  シモン・ペテロが打ち明けて言いました。「確かに私はユダのせいでとんだ見当違いをしたんだ! 主と最後の晩餐をした時のことを覚えているかい‥‥」そう言いながら、大柄の漁師の目には涙が溢れ、声もかすれました。「イエスが、『特にあなたがたに言っておくが、あなたがたの中の一人で、わたしと一緒に食事をしている者が、わたしを裏切ろうとしている。』と言われた時‥‥イエスがそう言われた時、私は‥‥それが自分のことだと思ったんだ!‥‥」

  ペテロはこらえきれずに、わっと泣き出しました。ヨハネはその肩を抱いて言いました。「僕たちみんなが心配し、悲しんださ! みんな、誰のことなんだろうと思って、次々に、『主よ、私なのでしょうか? 私なのでしょうか?』と尋ねた。」

  ヤコブが言いました。「そしてとうとう、一番最後に、ユダも尋ねて言った。『先生、まさか私ではないでしょう?』 そしてイエスは言われた。『いや、あなただ!』と。」

  熱心党のシモンが言いました。「それからイエスが言われたんだ。『わたしと一緒に同じ鉢にパンをひたしている者が、それである。』 その時に、誰がパンをひたしていたか、気づいたかい? どうだい? ユダだよ!」

  再びわっと泣き出しながら、ペテロは嘆きました。「だが、私もイエスを否定してしまった! だから、ユダと同じくらい悪い! 何のちがいもないんだ。」

  「全然違うよ、ペテロ!」と、マタイが慰めました。「君はただ恐れから、一時的に、イエスを知っているということを否定しただけだ。だがユダは、イエスを敵に売り渡したじゃないか! 君はただ弱かったに過ぎないよ! 私達はみな弱かった! あの夜、私達みんながイエスを見捨てたんだ! だけどペテロ、君はイエスを愛していた! 君は本当に彼を信じていた! だがユダは、疑っていたんだ。彼は、イエスを本当に心から愛したことが一度もなかった! それが大きな違いだよ!」

  「そうだよ!」と、ヨハネが言いました、「最初から、ユダは疑いを抱いていた! そして、イエスはそのことを知っておられたんだ! 何か月も何か月も前に、イエスに従っていた者たちが大勢、イエスを見捨てて行ってしまった時のことを覚えているかい? その時イエスは僕たちに尋ねられた。『あなたがたも去ろうとするのか?』 そしてペテロ、君はこう答えたじゃないか。『主よ、わたしたちは、だれのところに行きましょう。永遠の命の言(ことば)をもっているのはあなたです! わたしたちは、あなたが救い主であり、神の御子であることを信じ、また知っています!』と。

  するとイエスは言われた、『だがあなたがたのうちのある者はいまだに信じていない! あなたがた十二人を選んだのは、わたしではなかったか? それだのに、あなたがたのうちの一人は悪魔である!』 そして彼は真っすぐにユダを見つめられた! 状況が苦しくなってきたり、何か理解できないことがあると、ユダには、それでもなおイエスを信じ続けるだけの信仰がなかったんだ! 彼はイエスを完全には信頼していなかった。だから、信仰によって物事を受け入れることができなかったんだ!」

  マタイが尋ねました。「最後の晩餐で、イエスがユダに言われたことを覚えているかい? 『しようとしていることを、今すぐするがよい!』と言われただろう?」

  「覚えている!」と、ピリポが言いました。「でもその時には何のことだかわからなかった! イエスは、『貧しい者たちに何か施しなさい。』という意味でそう言われたんだと思っていた。」

  「僕は、翌日の祭りのために必要なものを買いに行きなさい、店が全部閉まってしまう前に早く行きなさい、と言っておられるのだと思っていた。」とアンデレは言いました。

  「違うんだ、ユダはイエスを裏切る為に出て行ったんだ!」と、ヨハネが声をあげました。「ユダの目に恐れがあったのを覚えているよ。まさにその時に、サタンが彼の中に入って、一時的に彼に乗り移ったんだ!」

  「僕はよっぽど間抜けに違いない!」と、小ヤコブが言いました。「そんなこと、全然わからなかった! ユダはたいがい、とても優しくて、感じのいい奴だった!」

  「だが、それは彼の疑いを隠すための見せかけに過ぎなかったんだ!」と、ヨハネが言いました。「覚えているだろう。園で、イエスのところに兵士の一隊を引き連れてやって来た時、彼は走って来てイエスにキスをしてこう言った、『先生、いかがですか!』 するとイエスは言われた、『ユダ、あなたは接吻をもって私を裏切るのか?』」

  ヨハンナが叫んで言いました。「それよ! それだったのよ! ヨセフは、それがユダの宮守がしらへの合図だったと言っていたわ! ユダは彼らに、『わたしの接吻する者が、その人だ。その人を、逃げないようにしっかりつかまえなさい!』と言っておいたのよ。」

  「何という裏切り者なんだろう!」と、ピリポはつぶやきました。

  「でも、彼はその代価を払ったんだわ!」と、ヨハンナは言いました。「ヨセフが言うには、後でユダはイエスの裁判の成り行きを見て、祭司長たちのところに戻って行ったということよ。ユダは、自責の念にかられ、深い苦悩にさいなまれ、頭も混乱していて、すっかり参ってしまっているようだったとヨセフが言っていたわ! 気も狂わんばかりになっていたって! 彼は宮に戻って来て、長老たちに言ったのよ、『わたしは罪のない人の血を売って、罪を犯しました!』」

  「ユダがそう言ったって?! 本当かい?」

  「ええ、でも長老たちはユダに、『われわれの知ったことか。自分で始末するがよい!』と言ったの。だからユダはお金を聖所に投げ込んで出て行き、首をつったのよ!」

  「何ていう死にざまなんだろう!」と、ヨハネは言いました。「彼は何一つ得ることなく、すべてを失ってしまった! 30枚の銀貨さえも!」

 

考えてみるべき課題:

  (1) ユダはおそらく、自分の信仰の欠如と疑いが、最終的には主に対する裏切り行為にまで発展するとは、夢にも思っていなかったことでしょう。けれども、幾つかの小さな疑いは、ひどい不信仰へとつながるのです。そして不信仰は不従順につながり、ついには裏切り行為へとつながります! 裏切り行為というのは普通、突然の決断でとっさに行われることではありません。心の中で、長い間、疑いが積もりに積もって、その結果、裏切り行為へとつながるのです!(ヘブル3:12,13)

  (2) 私達は皆、わからないことがあると、それについて疑問を抱きますし、イエスの弟子達でさえ、時々、イエスに問いかけました。けれども、悪魔の嘘に聞き入って、それらの嘘を他の人達に広め、公然とイエスを批判することまでしたのは、ユダだけだったようです! ですから、どっちつかずの態度でいたり、疑問が頭から離れないなら、用心しなさい!わからないことについて心から理解したいと思って質問するのなら大丈夫ですが、ひどい疑いをずっと心に抱いていたり、それを絶えず他の人達にしゃべるようなことはしてはいけないということを、忘れないで下さい!

  (3) 幾つかの疑問は、信仰によって主に任せ、主に託してしまうことができないなら(箴言3:5)、悪魔はそれにつけ込んで、ついには、それらの疑いを極端に大きなものとし、あなたの思いを悩まし支配してしまうことでしょう! ですから悪魔があなたに嘘をささやきかけてきたら、それに耳を傾けることさえしてはいけません! 「悪魔に機会を与えてはいけない! 悪魔に立ちむかいなさい。そうすれば、悪魔はあなたがたから逃げ去るであろう!」(エペソ4:27、ヤコブ4:7)

  (4) ユダは明らかに「弱い兄弟」でした。けれどもひとたび真理を聞いて、それを拒絶したなら、その人は、弱いだけではなく、罪ある者です! もはや、無知な弱い兄弟であるだけではなく、罪ある者となるのです! けれども、もし御言葉にある真理を喜んで受け入れたいという気持ちがあるなら、御言葉はあなたの持っているどんな疑いをも取り去ることができます!

  (5) 疑いに対する最善の解決策は、神の御言葉を読むことです! あなたの人生を愛で満たし、あなたの思いと心を神の真理で満たしなさい。そうすれば、悪魔の嘘が入るすきなどなくなるでしょう! 神のために忙しくし続け、あなたの思いと心を、建設的で励ましに満ち、信仰を強めてくれる神の御言葉からの約束で満たし、それらを暗記し、自分自身に向かって言い、さらには、敵が邪悪な思いや疑いで攻撃してくる時には、敵に対してさえも、その御言葉を聞かしてやりなさい!

  (6) 悪魔は、弟子の一人であるユダを使って疑いと不和と混乱を引き起こし、真理に対するみんなの確信を内部から破壊し、それによって他の人達も疑うようにさせようとしました。それは全て、不和をもたらして神の仕事を破壊しようとする悪魔の企てでした。しかし、それがうまく行かないとなると、ユダは最後には、背教の道を選んだのです! 現代のユダ達も、彼と全く同じ経過をたどっています!

  (7) ユダはとうとう、何のためらいもなく、公然とイエスを批判するまでになり、そのため、他の人達までが疑い始めるようになってしまいました。神のリーダーを批判したりしないように用心しなさい! 批判的な態度は、兄弟達の間に混乱や不和や争いを引き起こし、神はそれを憎んでおられます!(箴言6:19)

  (8) 裏切り者を愛する者は誰もいません! イエスの敵達は、汚い仕事をさせるためにユダに金を払い、しばらくの間は彼をたたえました。けれども、事が片付くと、もう彼とはかかわりを持ちたがらなかったのです! 裏切り者など、誰が信頼するでしょうか?

  (9) 万が一、疑惑や批判的な思いに捕らわれそうになったら、それらを声に出して言う前に、さらには自分の心に受け入れる前に、ユダの話を思い出しなさい! それはすべての人に対する厳しい警告です! あなたは、どちらになるでしょうか? 疑う者、不従順な者、そして否定する者ですか? それとも、死んでも信じる者、従う者、真理の証し人ですか? あなたは、どうですか?