宝 P.551-553

 

牧師の枕!

 

  「でも」、「だけど」、「しかし」が口癖のようになっている人達がいます。自分が受け入れたくないことを聞くたびに、「でも」と言うのです。たとえ真実を話しても、「それはそうでしょうが」とか何とか言い始めます。「あなたのしていることは好きだけど、でも‥‥」とか、「確かにあの人はいい人ですが、しかし‥‥」とか、「ええ、あなたが正しいことはわかっています、けれども‥‥」というふうに。

  ある所に、「でも、だけど」と言ってばかりいる女の人がいました。彼女は、信仰の厚い老牧師の言うことが気に入りませんでした。そしてある日彼女は、牧師の言葉にもう我慢できなくなってしまいました。牧師は真実を告げたのに、「でもですね。」と言って彼女は怒り、猛烈に言い返し始めたのです。そして行く先々で、みんなにその牧師のことで嘘をついたり、ひどい作り話をしたりしました。みんながあの牧師はひどい牧師だと思うようにと、一生懸命でっちあげやゴシップを話したのです。けれども嘘をつけばつくほど、彼女は悲しくなってきました。そして惨めな思いでいっぱいになり、自分が嘘をついたことを後悔し始めました。

  ついに、その女の人は牧師の家に行き、涙ながらに許してくれるようにと頼みました。「あなたのことで、とても沢山の嘘をついてしまいました。どうか、許して下さい。」

  その老牧師はしばらくの間、返事をしませんでした。何か深く考え、祈っているようでした。そしてとうとうこう言ったのです。「わかりました。許しましょう。でもまず、私のためにしなければならないことがあります。」

  「何をしてほしいんですか?」と、彼女は少しびっくりして言いました。

  「私と一緒に鐘楼にのぼって下さい。そうしたら教えましょう。」 牧師は彼女の目を真っすぐ見つめながら言いました。「しかしまず、私の部屋から取ってこなければならないものがあります。」

  少しして、牧師は、大きな羽毛のまくらを抱えて戻ってきました。その女の人は、驚きと好奇心がつのるのを隠し切れないほどでした。

  面くらったその女性は、まくらが何のためであり、またなぜ鐘楼に登るのか尋ねたい気持ちを何とか抑え、黙っていました。そして二人は息を切らしながら、とうとう教会の鐘つき塔のてっぺんにまで登りました。

  鐘楼の大きな開いた窓を、風がゆるやかに吹き抜けていきます。そこからは、村の向こうの田園の方まで、ずっと見渡すことができました。

  すると突然、その牧師は無言のままでまくらを引き裂き、中の羽をみんな、窓から外に飛ばしてしまいました。

  羽はそよ風に乗って、四方八方に飛んで行きました。屋根の上、通りの上、自動車の下、木々の上、子供達の遊んでいる庭、さらには大通りへと、どんどん遠くにまで飛んで行ったのです。

  牧師とその女の人は、暫くの間、羽がひらひらと飛んで行くのを見つめていました。そしてとうとう、その老牧師は彼女の方を向いてこう言ったのです「さあ、出て行って、あの羽を全部集めてきて下さい。」

  「あの羽を全部集めてくるですって? でも、そんなこと、できるわけありません!」と、彼女はあっけに取られながら言いました。

  「ええ、わかっています。」と牧師は言いました。「あの羽は、私の事であなたがついた嘘のようなものです。一度始めたものは、たとえ後悔しても止めることはできません。あなたは、私の事で嘘をついていたと何人かの人達に言うことはできるかもしれませんが、ゴシップの風はあなたの嘘を、あらゆる所に運んでしまいました。マッチの火は吹き消すことができますが、一本のマッチが引き起こした大きな山火事は、吹き消すことができません! 『それと同じく、舌は小さな器官ではあるが、見よ、ごく小さな火でも非常に大きな森を燃やす』のです。」(ヤコブ3:5)