宝 P.528-529

 

 歴史に見る冒険実話集!

 

赤い溝の谷(列王紀下3章)

 

  ユダの善良なる王であるヨシャパテと、イスラエルの若い邪悪な王ヨラムは、非常に困った事態に直面していました。彼らの軍勢は、イスラエルに背いたモアブ人と戦うべく出陣し、モアブ人の不意をついて東から攻撃をかけようと、砂漠を横切る長い迂回路を通っていましたが、兵隊や家畜の飲み水が底をついてしまったのです。彼らの命はモアブ人の前で風前の灯となっていました。一体どうしたらよいのでしょうか?

  預言者エリシャに助けを求めるのが良いと判断したヨシャパテは、「主の言葉がエリシャにはあります。」と言いました。

  二人の王はエリシャに会うと、この緊急事態について話しに来た旨を告げました。

  しかし、エリシャは突然ヨラムの方を向いて、ヨラムが主の預言者の所に来るとは一体どういうことなのかと尋ね、こう言いました。「あなた自身の預言者たち、すなわち、あなたの父上や母上の預言者たちの所に行けばよい!」

  ところで、ヨラムは、イスラエルの王の中でも最も邪悪な王、アハブの子でした。アハブは、神の預言者たちを迫害したり殺したりした邪悪なイゼベルと結婚したばかりか、バアルを拝む祭壇を築き、また、イゼベル女王の食卓についたバアルの何百人もの預言者たちに、家や食物などをあてがうことまでしたのです。(列王紀上16:30-33、18:18,19)

  王に話すのに、これは賢明な話し方とは言えませんでしたが、勇敢なエリシャは、ヨラムの邪悪な偶像崇拝に強く反対していることをヨラムに示したかったのです。

  「もしこれが、ユダの王、ヨシャパテのためでなかったなら、私はあなたに会うことも話すこともなかったでしょう!」とエリシャは言いました。善良なる王であるヨシャパテが一緒にいたので、エリシャは、彼らの話に耳を傾けることにしたのです。

  彼らの窮状を聞いた後で、エリシャは、自分が助けるのは、善良なる王のヨシャパテのためだけだと改めて念を押したのでした。

  エリシャの求めで楽人が呼ばれ、穏やかな音楽が奏でられる間に、主の御手(みて)が臨み、エリシャはこう告げました。「主はこう仰せられる、『この谷に沢山の溝を掘りなさい。』 これは主がこう仰せられるからである。『あなたがたは風も雨も見ないのに、この谷には水が満ち、あなたがたとその家畜、及び獣はそれを飲むであろう。』 これは、主の目には小さい事である。主はまたモアブ人をあなたがたの手に渡されるであろう。」

  「乾いた谷に溝を掘れだと! 何とばかげたことだ!」と、ヨラムがあざ笑う様子が目に浮かぶようです。しかし、ヨシャパテは神の預言者の言葉を信じ、溝を掘らせました。

  疲れて喉もからからの歩兵たちに、乾いた土地に溝を掘らせるというのは、ヨシャパテが信仰を持っていることの現れでした! そして、全く素晴らしいことが起ころうとしていたのです‥‥

  翌朝早くのことです。雲一つない晴れ渡った空には太陽が輝いていました。風もなく、雨の降る様子は全くありませんでした。ところが全く突然に、峡谷の一つ、「エドムの方」から、水の流れがどっと押し寄せて来たのです。そして、その水は谷の低地に広がり、溝を溢れんばかりに満たしました。兵士たちや馬やその他の家畜は、心ゆくまで水を飲み、力を取り戻したのでした。

  この頃までにはもちろん、モアブ人は目を覚まし、戦いの準備ができていました。そして東の方を見ると、イスラエルの兵士たちは実に奇妙な振る舞いをしているではありませんか。立っている者達もいれば、ひざまずいている者もおり、さらには、すっかりうつ伏せになって横たわっている者までいるのです。そして、その周りには至る所に血が流れていました。溝を満たしている水に朝日が反射して、血のように見えたのでした。

  「見ろ! きっと王たちが互いに戦って殺し合ったのだ!」とモアブ人は叫びました。そして、自分達の国に侵入してきた者達の息の音を止めようと、山腹を急いで駆け降りて行ったのでした。

  もちろん、彼らは恐ろしい間違いを犯していました。溝に降りて行くと、彼らは、そこを流れていたのは水であって、血ではなかったことを知りました。そして、モアブ人が降りて来るのを見たイスラエル人はすっかり戦闘準備ができており、立ち上がってモアブ人を撃ったので、モアブ人はイスラエル人の前から逃げ去り、イスラエルの軍勢はそのまま進軍を続けてモアブ人の国に入り、彼らを完全に撃ち滅ぼしたのです。

  預言者が主から受け取った、一見して奇妙な指示によって、また、王がそれに従ったために、敵に対して大勝利を収めることができたのでした。

  主に従うなら、あなたは決して失敗することはありません。神があなたに示される事は、何であれ、必ずうまく行くからです!