宝 P335-340

 

歴史に見る冒険実話集!

 

エペソの大暴動!

使徒行伝19章からのエキサイティングな実話!

 

  コリントの町でガリオ総督の前で裁判を受けた後、パウロは遠く離れた町をあちこち歴訪して、宣教の旅を続けました。コリントを出てから何か月もたって、パウロと仲間のクリスチャンはローマ帝国の街道を通り、トルコの奥地を抜け、ついにエペソの町に着きました。そこは、当時ローマ帝国アジヤ州と呼ばれていた西トルコの海岸沿いの町でした。

  22万5千もの人口を抱えるエペソの町は、アジヤの商業と宗教の中心地でした。事実、ローマの異教の女神アルテミス(ディアナ)の崇拝の世界の中心地だったのです。最高の大理石を使って建てられ、高さ18メートルもあるギリシャ風の柱が127本も立ち並ぶアルテミス神殿は、ギリシャ建築の中でも最も壮麗で、「古代世界の七不思議」の一つとみなされていました!

  エペソの商業は、ほとんどが、アルテミス崇拝を中心に栄えていました。ローマ帝国の至る所から崇拝にやって来る者や巡礼者や物見高い旅行者が、その有名な神殿を見にきて、魔よけや土産物を買って帰るのでした。ですから、アルテミスの偶像や小型の銀の像を作っていた銀細工人仲間は、商売繁盛で、大儲けをしていました。エペソには、ユダヤ人も大勢住んでいましたが、その多くは、神を信仰していると言いながらも、儲かる銀細工人の仲間に加わっていたのです。

  エペソに到着して最初の3カ月間は、パウロは、安息日ごとにユダヤ人の会堂に行き、ユダヤ人に、イエスこそ、メシヤであり神の御子であると説きましたが、その多くはもっぱら信じるのを拒み、集まった人達の前でイエスのことを悪し様に言う者さえ出る始末でした。そこでパウロは、新しい改宗者達を連れてユダヤ人の会堂を去りましたが、改宗者は誰一人として、全員集まって集会が持てるほど広い家を持っていませんでした。

  エペソの中心には、「アゴラ」と呼ばれる、公共の大広場がありました。パウロがある日、広場の真ん中にある、日時計のわきに立って、群衆に教えを説いていると、気品のあるローマの貴族が、立ち止まって、耳を傾けました。群衆が去ってしまうと、その人はパウロのところにやって来て、こう言いました。「あなたの教えをとても興味深く聞かせていただいた。あなたはなかなか説得力のある話し手ですな。だが、どうしてまた、公共の広場などで教えたりなさるのか?」

  パウロは額の汗をぬぐいながら、笑みを浮かべて言いました。「他に、話をする場所がないのです。」

  するとその貴族は言いました。「それでは、何か私にできることがあるかもしれません。私はツラノといいますが、ここエペソに講堂を持っています。アジヤ州全体でも最も際立った才能の持ち主がそこにやって来て勉強をします。教える場所が必要とあれば、喜んで、毎日私の学校で教えさせましょう。」

  これこそまさに、またとない機会です! パウロとツラノは親しい友人となり、すぐに、少数の信者達が毎日、アジヤ州全体の中でも最も有名な講堂に集まるようになったのでした。その講堂には、哲学者や、議員や、裕福なローマの支配者の息子達が勉強に来たり、教えに来たりしていました。

  その中から数人が、この新しいユダヤ人教師の教えることを聞きにやって来ました。そして、数週間、数カ月とたつうちに、市の幹部役人達が改宗し、イエスに信仰を持つようになりました! そして、エペソだけでなく、遠く離れた町からも、学者やローマ帝国の役人、市の有力者、一般市民がパウロの教えを聞きにくるようになったのです! そして何千という人々が喜んで心にイエスを受け入れ、その人生をイエスに捧げたのでした!

  どちらかといえば疑い深い、市の支配者の多くでさえ、神がパウロを通して、素晴らしい癒しの奇跡を行われるのを目にしたので、驚きをもって見守っていました! エペソの市長であるシルワヌスも、そのような疑い深い者の一人でした。しかし、キリスト教は全く奇妙な宗教だと考えていた彼も、イエス・キリストの名前に大きな力があることは知っており、パウロを深く尊敬していました。エペソの市民全体が、信者ではない人までも、イエスの名を深く尊んでいたのです!

  パウロは、エペソで最悪の部類に入る市民でさえ、劇的にも大勢改宗させました! 以前、妖術や魔術に没頭していた者達が前に出て、自分達の悪しき行いを告白したのです。そして、自分達が悔い改めたことを人々に示すため、ある夜、自分達が持っていたオカルト関係の書物を町の広場に積み上げると、それに火をつけて焼き捨てたのでした。それらの書物は何百万円にも相当し、人々は目を見張りました! シルワヌスは、これに深く感銘しました。

  2年経った頃には、主の御言葉は大きな権威を持ち、多大な影響を及ぼすようになり、ユダヤ人であれ、ローマ人であれ、ギリシャ人であれ、アジヤ州に住む人々は全て、救いの教えを耳にしたのです!

  それまでは、神殿の模型や偶像の売上は好調でエペソの多くの細工人は忙しく仕事をしていました。けれども、エペソ人がどんどんキリスト教に改宗するにつれ、銀細工人達は売上が目だって減ってきている事に気づき始めました。大勢の職人を雇っている、銀細工人の頭はデメテリオという男で、デメテリオは、パウロの教えがどんどん広まっていくのを見て、嫉妬と不安を募らせていたのでした!

  ついに彼は、職人全員、それに同類の仕事をしていた者達を呼び集めました。そして、皆が彼の店に集まると、こう言ったのです。「諸君、われわれがこの銀細工の仕事で金儲けをしていることは、ご承知の通りだ! だが、諸君の見聞きしているように、あのパウロという男が、エペソばかりか、ほとんどアジヤ全体に渡って、大勢の人々を説きつけて邪道に導き、まんまと改宗させてしまった!」

  細工を凝らした、小さな神殿の模型や偶像がぎっしり並んだ棚を指して、彼は腹立たしげに言いました。「パウロは全ての者に、人の手で造られたものは、神ではないなどと説いている! 奴がそれを続けるならば、我々の仕事全体に悪評が立つ恐れがある!

  勿論私は、我々の儲けがなくなる事だけを言っているのではない。大女神アルテミスの宮も軽んじられ、ひいては、全ローマ帝国が拝んでいるこの大女神のご威光さえも、消えてしまいそうである!」

  集まった職人達は、これを聞くと、怒りと宗教的な憤りに燃え、口を揃えて、大声で「大いなるかな、エペソ人のアルテミス!」と叫び続けました。

  この混乱はすぐに、通りにも広がり、まもなく、エペソの町全体が大混乱に陥りました! 大理石が敷き詰められた町の大通りを暴徒が押し進み、すぐに、パウロとその友人らが泊まっていた家まで押し寄せて来たのでした! しかし、暴徒がその家になだれこむと、パウロはおらず、彼の友人のクリスチャンである、ギリシャから来たガイオとアリスタルコしかいないことがわかりました!

  そこでその二人を捕らえると、狂ったような暴徒は、二人をひきずりながら通りを進み、町の北東の一角にある劇場へと向かったのです! この頃には、エペソの役人や政府のお偉方は皆、パウロの事で町中が大騒動になり、暴徒がパウロの二人の友人を捕らえたということを耳にしていました! この知らせがパウロの耳に届いた時、彼は、オネシポロという名の裕福なクリスチャンの商人の家で、少数の信者達に教えを説いている最中で、暴徒の怒号は耳をつんざくほどで、町中にこだましていました!

  即座にパウロは、劇場に行って前に出て、話をしようとしましたが、オネシポロや他の兄弟達は、彼を行かせようとはしませんでした。そんなことをしたら彼の命にかかわると知っていたからです!

  彼らが、そんな危険な事はしないようにとパウロを説き伏せようとしていると、突然使いが、はあはあ息を切らせながら、部屋に飛び込んでくるや、パウロに手紙を渡しました。「友人からだ。」パウロはそう言って手紙を読み、こう言いました。「ここエペソにあるローマ帝国の要塞の司令官であるフォルツナタスを始め、十人のアジヤの政府の高官が、私に、劇場に入って行かないよう懇願している!」

  一方、町の反対側にある劇場に集まった者達は、全くの混乱状態、無秩序状態にありました! 何か叫ぶ者がいたかと思えば、別のことを叫ぶ者もおり、大半の人々は、自分がどうしてそこに集まってきたのかさえわかっていなかったのです。そして、事態はさらにひどい狂乱状態に陥ろうとしていました。かつては信者であったものの、後にパウロやイエスに背いた、アレキサンデルというユダヤ人の銅細工人は、デメテリオや他の銀細工人に習って、パウロを攻撃することにしました。そして、ユダヤ人のリーダー達はアレキサンデルに、みんなの前に出てパウロを非難するようにと勧めました。

  そこで、アレキサンデルは、人波を押しわけやっとのことで前に出ると、群衆に向かって、静まるようにと手を振ったのですが、暴徒の中には、彼がユダヤ人であることに気づいた者がいて、彼らは、アレキサンデルがアルテミスのことを悪く言うのだと考えたのです。それで彼らは、宗教的情熱に駆り立てられて、全くの狂気に走り、声を限りに、「大いなるかな、エペソ人のアルテミス! 大いなるかな、エペソ人のアルテミス!」と叫び出したのでした。2時間もの間、群衆はそう叫び続け、2万5千人近くの人々の、耳をつんざくような怒号で、町全体が揺れるほどでした!

  市長の宮殿の中では、フォルツナタス将軍がせわしく行ったり来たりしていました。そして市長の方を向くと、強くこう言いました。「君があそこに行って、パウロの友人が殺されない内に、暴徒を鎮めたまえ!」 そして「さもないと、私の軍隊を送り込むことにする! そうすれば、誰が傷を負おうと、それは君の責任だ。そればかりか、君に、公の場で、この暴動に対する釈明をするよう要求する!」と脅しました。シルワヌスはたじろぎ、こう言いました。「将軍、私がこれらのクリスチャンに対して好意的なのはご存じでしょう。パウロは私達の町で偉大なる事をしたと思います。しかし私には‥‥」

  「よろしい、それなら。」と答えると、将軍は扉の方に向かいました。

  「いや、待って下さい!」とシルワヌスは大声をあげました。「私が行きます!」と言ったのです。そして彼は劇場に姿を現しました。何分もたってようやく、暴徒は自分達の市長が演壇のところに立って、必死に手を振っているのに気づきました。その頃には、わめき続けたせいで、声もしゃがれており、疲れ切っていたので、皆、静かになりました。

  「エペソの諸君、エペソ市が大女神アルテミスと、天くだったご神体との守護役であることを知らない者が、この世界に一人でもいるだろうか! これは否定のできない事実であるから、諸君はよろしく静かにしているべきで、乱暴な行動は、いっさいしてはならない!」

  そして、縛り上げられていたガイオとアリスタルコを指さして言いました。「見なさい! 諸君はこの人達をここに引っ張ってきたが、彼らは何も悪いことはしていないし、諸君もそのことを知っている! 彼らは、宮を荒らす者でも、われわれの女神をそしる者でもない! 彼らはただ、自分達のイエスに対する信仰について語っただけである。」

  彼の口調はだんだん厳しくなってきました。「デメテリオなりその職人仲間なりが、誰かに対して不平があり、訴えたいのなら、法廷は開かれており、裁判を行なっているし、裁判官もいるのだから、彼らがその主張を聞いてくれるであろう。何か訴えたいことがあるなら、法的な集まりにおいて、合法的な手段を通して解決すべきである! 法廷で解決しなさい!

  この様では、今日の事件のゆえに、我々は暴動罪に問われる恐れがある。ローマ当局が私に、今日の騒ぎについて釈明を求めるなら、私は説明のしようがないであろう。これを正当に弁護できるような理由は全くないのだから。」

  こう言い終えると、シルワヌスは集会を解散させ、皆を家に帰らせました。パウロとその二人の友人は無事で、エペソのクリスチャン達はその後も引き続き栄えました。

 

考えてみるべき課題:

  (1)疑い深い人や、不信者でさえも、パウロが、人々を助ける上で大いなる働きをし、人々の人生を素晴らしく変え、以前よりもはるかに良いものにしたということは誰も否定できませんでした! ですから、彼の敵とは誰だったのでしょう? それは、パウロが「競争相手」になったために、追従者も、儲かる商売も失いそうになっていた、嫉妬深く、貪欲で、金儲け第一の人達でした。

  (2)エペソで起こった、パウロを始めとするクリスチャンに対する迫害の大きな要因の一つは、パウロに従う者の一人であったアレキサンデルというユダヤ人がすっかり信仰の道からはずれ、パウロのことや、自分が以前に信じていたもののことを悪く言い始めたことにあると、聖書に書かれています。その頃、パウロがアレキサンデルを、その神を汚す行いのゆえに、教会から破門にしたため(第一テモテ1:19,20)、彼は、町の人々をパウロに敵対するよう扇動することで、復讐を試みたのでした。(使徒行伝19:33)

  (3)この出来事から数年たって、パウロがローマで囚人となった時、この同じ邪悪な背信者が、はるばるエペソからローマまでやってきて、皇帝の前でパウロを非難しました。パウロは言いました。「銅細工人のアレキサンデルが、わたしを大いに苦しめた。」 そして、エペソの霊的なリーダーとなったテモテに、エペソでもアレキサンデルを警戒するようにと言いました。(第二テモテ4:14,15)

  (4)多くのクリスチャンのグループが、これと同じような問題を抱えました。不満を抱いた「ユダ」が背教し、グループを出て、あらゆる嘘偽りを広め、自分のいたグループの評判を落とし、友人や好意的な役人達がグループに敵対するよう仕向けようとするのです。そして、人々はよく、そうした作り話を信じます。「何といっても、彼らは、もとメンバーだったのだから!」と考えるわけです。

  (5)悲しいことに、銀細工人のアレキサンデルは、最終的に、アジヤの人々をまんまとパウロに敵対させてしまいました。その中には、パウロの最も近い友人であった、フゲロとヘルモゲネもいました。(第二テモテ1:15) けれども、そうした中にあって、明るい希望の光もあります! パウロの友人の多くは、次から次へと立てられた悪評にもかかわらず、最後まで忠実にパウロの側につき、何年もたってパウロがローマで囚人となった時でさえ、彼を助け、援助し続けたのです! 貴族のオネシポロもその一人でした!(第二テモテ1:16-18)

  (6)あなたなら、その時、劇場において、公にどのような態度を取ったでしょうか?

  (7)ほとんど誰もがついにアレキサンデルの嘘に影響されて、パウロに敵対するようになった時に、あなただったら、オネシポロのように忠実であり続けたでしょうか?

  ───────────────────── 

  祈り:主イエス様、どうか私が、真理であるあなたの御言葉のために立ち上がっているクリスチャンの友人を弁護するため、勇気をもって発言できるよう助けて下さい!−−イエスの御名で祈ります。アァメン。