トライコンへの旅 パート5

 トラピス著

 

第24章 見守る者達

  船尾、つまり船の後部を見渡せる、また別の展望エリアに入った。コントロールセンターと似てはいるものの、いくつかの面ではかなり違う。一つには、もっと緊迫した雰囲気であること。構造も他のエリアとずいぶん違う。外見だけでいうと、採掘した円い宝石を磨いて船尾にくっつけたような感じだ。船の最端らしきところは、何だか延長されてカーブしながら半円を描いているようだった。展望エリアは他とは離れていて、その一部は外に突き出し、船につながっている防衛本部の上に伸びている。

  防衛本部の天井と床は、大きく透明な張り合わせのクリスタル板で覆われており、測地線 (曲面上の 2 点を結ぶ最短曲線)の模様ができあがっている。全体的には、大きな空飛ぶ円盤が船尾にはめ込まれているように思える。防衛コントロールエリアは最高に神秘的だ。正直なところ、私には内部が何一つハッキリと見えない。見下ろすとそこに何かあるのだが、それが何かよく見えないのだ。

  「ジャマール、中に何があるのかよくわからないね。」

  ジャマールが微笑む。「それは君のためさ。少しは話しても構わないけど、今は下で監視している生き物を見ない方がいいよ。」

  何なんだ一体? 天使の類か、それとも天国の番犬みたいな生き物でもいるのかな? 私は好奇心でいてもたってもいられなくなった!

  もっと詳しく知りたいと熱烈に訴えている私の目を見て、ジャマールが説明し始めた。「これが、ラムダの防衛本部。内部は曲面状の監視画面で完全にびっしりと囲まれていて、周囲の宇宙全体が映っているんだ。」  

  下方にある大きな円形の部屋をよくよく透かし見ると、ジャマールが言った監視画面を何となく判別できた。霊的に高められた宇宙という驚異的な眺めが見えるらしい。星を見上げると、宇宙全体が生き生きとして私たちのまわりで喜んでいる。天はまことに神の栄光を表し、創造主の仕業を告げ知らせる。都に着くまでずっと、丸天井を見上げて宇宙を眺めていてもあきることはなさそうだ。

  真下と、もっと後ろの方にも別の防衛局らしきものがあって、船員達が船の安全と保安を保つのに忙しくしている。何とか頑張ってみたが、中にいる防衛本部を司っているものにどうしても焦点を合わせることができない。光でできた生き物らしきものがいるようなのだが、ハッキリと姿形が見えないのだ。時折、光とエネルギーが脈動している気もする。「あそこにいるのは、いったい何なの?」

  「あれは、見張りだよ! どんな危険信号も敵の動きも見逃さないように、360度すべての方角を見張っている。普通は八つの座席が集まっていて、それぞれの座席に護衛が座って、各々の方角を見張っているんだ。だけど今回は、主が特別に誉れある御自分の護衛を、この船のために送られた。」

  「どんな姿をしているんだい?」

  ジャマールが私の方をちらっと見た。それを私に言っても大丈夫かどうか決めているところらしい。「まあ、『彼ら』というよりは、『それ』と言った方がいいかも。」

  「何だって? 下にいるのは一人か複数かどっちなんだい?」

  「大抵は4人でまとまってくるね。それが最高のチームワークなんだ! だから4人いるはずだよ。」

  「4人の御使達みたいに?」

  「彼らの4分の1はまさに天使みたいだね。」 この謎に包まれた生き物の姿を何とか想像しようと四苦八苦している私を見て、ジャマールがニッコリと微笑んだ。

  「じゃあ4人の内1人が天使のようなら、他の3人はどんな姿をしているんだい?」

  「君は誤解しているね。4人中1人が天使のようだって言ったんじゃなくて、彼ら一人一人が4分の1は天使みたいだって言ったんだ。」

  その言葉の意味を理解するのにしばらくかかった。「つまり…こういうことかい? 下には生き物が1匹いて、それがどうにかして4匹で出来ていて、またその4匹の一体一体がどうにかして4つの異なった生き物で、その内の1種類が天使だってこと?」

  「段々わかってきたじゃないの。」 ザーファが私の腕を遊びっぽくつかみながら、ニッコリして言う。

  「それで、それには腕とか足とか頭とか目とか、そういったものは付いているのかい?」 一体どんな姿なのかてんで見当がつかない。

  「ああ、もちろん! 全部付いてるよ。ある部分は他の部分よりもっと多いし。」

  「一番多く付いている場所はどこだい?」

  「目だね! 全部で32ある!」

  「32?!」 驚きでギョッとなった。この奇怪な生き物が、段々と怪物のように思えてきた。「それで、頭はいくつあるの?」

  「4つだけだよ。」 ジャマールが淡々と答えた。

  「4つも! ということは、一つの頭に8つの目があるってことだよね。…目が頭についているとしての話だけど。」 想像がどんどん暴走していく。 

  「ああ。目は頭のそれぞれの側についているよ。前と後ろと横だ。」

  「でも、天使のような姿は4分の1だけだろう。じゃあ、残りの3つの頭はどうなっているんだい?」

  「大ヒントをあげよう。」 明らかにジャマールはこの謎解きゲームをもう少し続けたいらしい。「第一ヒント、『エゼキエルはこの生き物の一つを見たことがある。』

  ちょっと考えてみる。エゼキエルが見たのはどんな奇怪な生き物だったっけ? 「そうだ! ケルビムだ!」しばらくして感嘆の叫び声をあげる。

  「当たり!」そう言って、ジャマールはそばにあるモニターに触れて、私が読めるようにエゼキエル書の第一章4節から14節までを映し出してくれた。

  「わたしが見ていると、見よ、激しい風と大いなる雲が北から来て、その周囲に輝きがあり、たえず火を吹き出していた。その火の中に青銅のように輝くものがあった。

  またその中から四つの生き物の形が出てきた。その様子はこうである。彼らは人の姿をもっていた。おのおの四つの顔をもち、またそのおのおのに四つの翼があった。その足はまっすぐで、足のうらは子牛のの足のうらのようであり、みがいた青銅のように光っていた。

  その四方に、そのおのおのの翼の下に人の手があった。この四つの者はみな顔と翼をもち、翼は互いに連なり、行くときは回らずに、おのおの顔の向かうところにまっすぐに進んだ。

  顔の形は、おのおのその前方に人の顔をもっていた。四つの者は右の方に、ししの顔をもち、四つの者は左の方に牛の顔をもち、また四つの者は後ろの方に、わしの顔をもっていた。彼らの顔はこのようであった。その翼は高く伸ばされ、その二つは互いに連なり、他の二つをもってからだをおおっていた。彼らはおのおのその顔の向かうとろこへまっすぐに行き、霊の行くところへ彼らも行き、その行くときは回らない。

  この生き物のうちには燃える炭の火のようなものがあり、たいまつのように、生き物の中を行き来している。火は輝いていて、その火から、いなずまが出ていた。生き物は、いなずまのひらめきのように速く行き来していた。」

  「こいつはすごいぞ!」感嘆して叫ぶ。振り返って、下にいる隠れた生き物の姿を判別しようと試みる。部屋の中央に、明るく脈打つ不可解で形の定まらない光の姿があるだけだ。「だけど、どうして4つも顔があるのかな?」

  「彼らに備わった4つの特質を表すためだろうね。全体的には天使の性質と美しさと知恵を備えている。そして牛の顔を持っていることからもわかるように、強靭で、ものすごい重労働にも耐える能力がある。霊の内で非常に高いレベルにまで上昇でき、飛翔中のワシのような鋭い視覚とスピードと優雅さを持つ。戦いにおいては獅子の荒々しさを出し、それに耐えうるものはほとんどない。それに一度に全方角を見られるから、彼らの目から密かに逃れることなどできない。」

  「ねえ、見て!」 私の腕を軽く突いて、ザーファが360度円形画面に映しだされた、点滅する赤い光の方を指さした。「あそこで敵を一人確認したらしいわ。」

  「それに、反対側でもう一人見つかったぞ!」 ジャマールが叫ぶ。「まるで昔のようだ!」

  「何だって?」

  「実はね、都がここに移動してくる前は、この場所とこのあたりの霊的空間を通り抜けるのに苦労したことがよくあったんだ!」

  「ダニエル書の中で何かそんな感じの話を読んだことがあるよ。メッセンジャーが神のメッセージをダニエルに届けるため、敵の一人と組打ちしなくてはならず、随分大変だったって書いてあったな。」(ダニエル10章13節)

  「そう、天使長ミカエルが応援にかけつけた程だったからね。」ジャマールが答える。

  「霊の経路を使ってメッセージを彼に送れなかったのかい? 夢かなんかを使ってさ。」

  「それもできただろうけど、重要なメッセージは、直接届けた方がもっと強烈な印象を残せるんだよ。夢やビジョンといった霊の経路を通してメッセージがたくさん送られるけど、ものすごく重要な事に関しては、天使が現れる事ほど効果的なものはないね。時々、例えば聖ヨハネの時なんかは、彼ごと数段階上の霊の世界に引き上げてメッセージを与えたりもしたよ。

  とにかく、メッセンジャーがダニエルのところに行った時には、ペルシャを支配していた邪悪な堕天使が、バリケードを作って物質界に進入させないようにしたんだ。激しい戦いだったよ! あの時から比べると随分と変わったな。今じゃあ都がそこの門の戸口に駐留しているからね。超最前線だから、メッセージもずっと簡単に届けられるようになった。この境域を支配できるのもあとわずかだと告げられているようなものだから、悪魔はもうカンカンに怒ってるよ。とにかく、敵は主とそのメッセンジャーを、主御自身の敷地内に入れさせまいと戦ってきた。でも今彼らはそこにはまり込んでしまってて、監獄の壁は彼らを封じ込めて閉ろうとしているんだ。」

  「ということは、悪魔は僕たちが今ここに来ているって知ってるんだろう?」

  「さっきまで知らなかったとしても、今は完全に気づいてるね! 敵は今ものすごく怒っていてカリカリきているから、用心した方がいいね。僕たちはこの旅をいつものこととと思って軽くみたりはしない。もちろん楽しくて有意義ではあるけれど、実際には僕たちは戦争中なんだ!」

  下方にある別の部屋には、真剣な顔つきの男がいる。いつもいる監視の一人らしく、椅子から立ち上がると画面を詳しく調べ始めた。職務についている神秘的な光の生き物は、さらに激しく脈動し始めたように思える。

  「何が起こっているんだい?」ジャマールに聞いてみた。いつものんきなザーファでさえ顔つきが変わり、余念なく一心に見守っている。

  「きょうは、戦闘態勢に入らないと思うな。もし交戦するようなことがあれば、防衛局を切り離して単独飛行させるだろうからね。分離して戦闘モードに切り替わると、防衛局は標準の飛行戦艦に早変わりするんだ。」

  「つまり、防衛本部全体が実は戦艦で、本船と切り離せるってことかい?」

  「そうだよ。もし交戦すると決めるなら、この辺り一体はアッという間にホットな状態になる。君が今まで見たこともないような光のショーに変わるよ。」

  突如、あの光の生き物から腕が伸びて、人間と同じような堂々たる手が一つ出てきた。目もくらむばかりの光の波動がその手から放たれ、宇宙にある物体に向けられた。そしてその生き物のもう一方の側からまた別の腕と手が現れ、光の波動をもう一方の敵がいる場所に向けて放った。その直後、モニター上で、侵入者である敵の居場所を示している赤く脈動するもののまわりが、白い光の輪で囲まれた。モニターに情報が現れた。ラムダワンのあちこちで見かける、あの奇妙な言葉で書かれている。

  「背教した浮浪者がふたり!」ジャマールが言う。

  「攻撃してくるかな?」

  「いや、それはなさそうだ! そこまでの覚悟はないだろう! 完全フルパワーのラムダと一戦交えるというのはどうもね。それに、頭を突き出した瞬間にケルビムとご対面なんてことは望んでないと思うよ。奴らは必死だけど、まだそこまで必死にはなってないはずだ。」

  「僕たちのほうからは攻撃をしかけるのかな?」

  「いいや、しないと思うな。まだ定められた時じゃないからね。僕が思うに、奴らは警備態勢を解いて、許可をもらえればさっさと逃げるんじゃないかな。」

  「あの光線は何のためだい?」

  「ケルビムが自分の姿を宇宙に映し出して、敵に立ち向かっていたんだよ。霊の内ではいろんな事が起きているけど、このレベルからでは見えない。」それから付け足して言った。「何が決着の口火を切ることになるかは、わかんないもんだよ。」

  「ケルビムは同時に2つの場所に現れることができるのかい?」

  「遍在(常にどこにもいること)できるのは、神とイエスと聖霊だけ。でも霊的な存在で、一度に二つ以上の場所にいられるのもたくさんいるみたいだよ。彼らの賜物や能力に応じて、少なくとも一度に二つの場所に現れたり、違うことを違う場所で同じ時にしたりさえもする。天使の中にはどんな大きさにでもなって現れたり、太陽の上や海の中、その他許可をもらう範囲内ならどんな場所にもいたり現れたりできるのもいる。ケルビムは出現に関する賜物に恵まれていて、一時に複数の場所にいられるよ。こういったことを理解する上で覚えておかなくちゃならないのは、霊の内に深くなればなる程、時間や場所といったものはますます重要じゃなくなるってことだ。主が地球を再生され、僕たちが新しい体をもらう時には、もっと多くのことができるようになるよ。」

  「天使と同じようなことまでできちゃうのかな?」

  「きっとね! ああ、待ちきれないよ!」

  突然画面の赤い部分が真っ赤に燃えたかと思うと、そのまま消えてしまい、それを囲んでいた白い円が解除された。どうやら対決は終わったようだ。

  「すごい! もしこの出来事を見ていなかったら、自分が危険にさらされていることすら気づかなかったよ。」

  「僕たちは戦争中だから、こういった対決はしょっちゅう周りで起きている。」 ジャマールが説明してくれた。「だけどね、起こっていることの多くは霊の内でのことで、霊の内でしか見分けることができないんだ。天使はその面で秀でている。どんな機械類やレーダーや防御システムよりも優れているよ。命を持っていて、忠信で、やる気があって、完全に主に献身しているからね。」

  「天使は無口なように思えるんだけど。」

  「うん、でも何か言わなくちゃいけない重要な事柄があるときは話すよ!」ジャマールが私に正しい認識を与えようとする。「天使達は常時話し合ってるけど、僕たちがあまり気が付かないだけだ。というのも、彼らはあまり口を使わないからね。霊的につながっていて、霊の内で話し合うんだ。そっちの方が速くて直接的だし、言葉を交わすよりももっと明瞭で正確でもある。」

  ザーファが言った。「そろそろ船首に戻る時間よ。もうすぐ都を目で見られるところまできているわ!」

  私たちはさっそく輸送チューブに乗り込み、素速く船頭にある展望デッキまで連れて行ってくれるようラムダに頼んだ。チューブの中で、私はクリスマスを迎える子供のようになり、期待と興奮で胸がわくわくしていた。この瞬間をずっと待ちこがれてきたんだ。文字通りあっという間に、船の最先首にある展望デッキに着いた。透明な船首部分に入ったが、そこは360度完全なパノラマだった。上下左右、無色透明のドームと床を通しての景観だ。

  遠くの方に、金色に輝く小さな星か宇宙の信号灯のような光が見える。

  「あれが天の都だよ!」ジャマールが言う。

  その光を見ると、胸は踊り、心が温まり、とても心地よい気分だ。あたかも都自身に話しかけるかのように、私は叫ばすにはおられなかった。「ああ、どうかあなたの光を人々の前に輝かし、人々があなたのよいおこないを見て、天にいます神をあがめますように!」(マタイ5章16節)

 

第25章 月の光

  「僕たちは、月の暗い側から都に近づいてるんだ。」ジャマールの口がニヤッとした笑いになる。ジャマールの見え見えの冗談に私たち3人は、ドッと笑った。

  「こっちの側はどう見ても暗くなんかないよ! 絶対にこっち側が月の明るい面だと思うね!」

  「このレベルで近づくと、実際に月を見ることはなく、都だけが見えるんだ。遠くの方に地球が見えるけど、このレベルからだとまた違って見える。だけど霊的に少し下った物質的境域に入ると、普通の肉的な目では、ここからは陰になった側が見えるんだよ。」ジャマールが説明してくれた。

  「でも、どうやったら都は月と同じ場所にいられるんだい?」

  「二つの物質が同じ時に同じ場所を占有することはできないのは常識だよね。でも、霊的物体や霊的存在は、簡単に物質的物体に入ることができるんだ。ちょうど、人の霊がその肉体にやすやすと宿れるのと同じようにね。都も、月の中に入れるだけ十分に高い霊的レベルにいるんだ。」

  まだ相当な距離があったものの、近づいていくにつれ、巨大な黄金の正方形が見え始めた。まわりを青いクリスタルの球体が取り囲んでいる。「都はものすごく大きい正方形だ! でも、本当はピラミッドのはずじゃなかったっけ?」ちょっと気になって聞いてみた。

  「そう、ピラミッド型だよ。だけど、この距離と角度からだと正方形に見えるんだ。この角度から入ると、都を真上から見下ろす形になるんだ。都の底面は地球を向いている。ちょうど超大型レーダーディッシュ、つまり空に浮かぶ巨大な耳のようなもので、絶えず地球にいる人たちのことを聞いたり、無数のメッセージを伝達したり、受け取ったりしているんだ。」

  「それなのに、神が本当に聞いてくれてるのかといぶかしむ人達もいるんだね!」 ニッコリと微笑んでジャマールの言葉に付け足す。天の都そのものが、霊的な通信装置の役割を担っているとは思いもしなかった。恐るべき超巨大ドデカ送受信機だ。このばかでかい、透き通った黄金の三角形クリスタルシティーは、ジャイアントアンテナ、レーダーディッシュ、ラジオのような受信整調装置の役割をしていて、全創造物からのメッセージを受け取っているのか。まるで地球にぴったりと照準を合わせている、巨大な耳かメガホンの働きをする大きなアイスクリームコーンだ。ということは、底面にある沢山の宝石の層は、多分チューニング機能かフィルター機能として働くのだろう。都は外見や住むために豪勢なだけでなく、地球や他の場所との天国的な通信をするという非常に重要な役割を果たすために、完璧に実用的に計画されている。

  私は頭の中で、宇宙のどこに何があるのか、何とか理解しようとがんばっていた。ここでは上下の方向感覚がまるで違うみたいなのだ。「もし都のてっぺんが上を向いていると考えるなら、僕たちは今、都に向けて空から落ちて来てるってことになるよね?」

  「うん、そうだね。そう考えていいと思うよ。一旦都に入ったら、方向感覚としては都の頂部が上で底辺が下になるからね。下にあるのが地球で、地球の地殻の下には地獄がある。そういう意味では、地球や地獄に行くには下に下りるってことだ。そして天国に行くには上に上がるはずだけど、今のところは、天国に行くために下に降りてると言えるね。天国の上に降りてるとも言えるし、とにかく何でも一番わかりやすい向きで考えればいいよ。」 ジャマールは物事に対して、いつも大らかで固定観念にしばられない。

  「天国へ降りていくなんて今まで考えたことなかったよ!」と言って私は笑った。

  「それから、君は都が霊的にまだ少し上のレベルにいる間に訪問することになる。天国はこれからもっと下って行って、最終的には地球の表面まで降りていく。神はみんなにとって物事が簡単で楽になるのを好まれ、ほしいものをみんなの手の届く所に置いて楽しめるようにして下さるんだ。神はみんなが楽しめるようにと、天国を地球にまで降ろしてきてくださるよ!(黙示録21章2,3節) もちろん、同時に神はすべてのものを霊の内にもっと高くまで引き上げられるけどね。」

  この霊の高さとレベルから神御自身の都に近づいていくことは、何とも言えずすごい経験だった。目もくらむ程にキラキラ輝く床と壁、宝石で出来た土台、球状の蒼い海にすっぽりと包まれたこの黄金クリスタルの都は、たとえ話の中でイエスが語られた『高価な真珠』を思い出させてくれる。私たちを取り囲む天空は栄光に満ち溢れて輝き、無数の星のカーテンと光の点がちらちらとゆらめく。こうして霊的に高められた状態から見た創造物は、人間の目から見た時とはまるで異なっている。

  都を覆う、蒼い色をしたクリスタルのような保護バリヤは、とても美しく信じがたいほど大きい。あの巨大なクリスタルの保護バリヤという蒼い壁の向こう側には、過去に生きたすべての聖徒たちが勢揃いしているのか。すべての時代に生きた聖徒たちが、あの都を包む膨大なガラスの海の内側で勝利に満ちた踊りを踊るのか。(黙示録15章2節) 彼らはそこにイエスの花嫁として、大いなる勝利の婚宴のために集まり、都に入って、王の王、主の主と永遠に結婚するのだ! その日、イエスと主の花嫁との敵共はおののき、震えながらそれを見、私たちが共に天国に入るのを見て、深く後悔するだろう。天国が目の前に、こんなに地球の近くにあったなんて、まったく信じがたかった。御自身の御言葉通り、神は敵の目の前で私たちのために喜びの宴を設けられたのだ。

  遠くからみると、都はだいたい月と同じくらいの大きさに見えた。だが接近していく内に、それが途方もなく大きいことに気が付く。つまり、間近で見る月はきっとこんなに大きいに違いない! いつも遠くから見ているので月が大きいとは思わないが、月とほぼ同じサイズである都に近づきながら、実際にそれがどんなに大きいかに圧倒された。霊の領域で少し上のレベルにいたおかげで、月の暗い側だけでなく都をはっきりと見ることができる。私たちは今、大いなる球体に到達しようとしており、その後はピラミッドの先端近くの保護バリア膜を通り抜けることになる。ピラミッドの先端は、私たちの目の前に伸びる巨大な三角滑走路のようだ。

  その大きさには目を見張る。「聖書では、『都の高さは一万二千丁、幅は一万二千丁』とある。1マイル(約1.6Km)が8丁に値するから、都はだいたい高さ1500マイル(約2400Km)、幅1500マイル(2400Km)という計算になるかな。」

  「そんなとこだね。」ジャマールが言う。「実際には、霊的なものは物的な単位では測れないんだ。聖書の中では、主は人にだいたいの大きさがわかるように物質的な単位で寸法を与えられたけど、都の正確なサイズは、神が物質界に都を降ろすときに明かされるだろうね。」

  地球は丸くなっているから、地球上で2400Kmも見渡せるものはない。海面でも、30キロ以上は見通せないものだ。そのあたりから、何でも水平線のかなたに消えて見えなくなってしまう。そんなわけで、私にとっては都の側面という巨大な表面を見るだけでもものすごいことだった。

  保護バリアを通って入った瞬間、何千もの美しいトランペットの音色が、高らかに船の到着を告げる! 都を囲んでいる蒼いドーム保護バリアを通るとき、体中に変わった感じの波のような波動を感じていた。今私たちはピラミッドの頂点の真上を飛んでおり、都の北正面に沿って底面に向かっている。『北正面』と言ったのは、地球に当てはめるなら北方だったからで、その地球は前方かなたにある。船の両側に光が幾つも現れて、まるで小型船か光の生き物がドックまで船を誘導しているみたいだった。

  「どこでドック入りするんだい?」

  「中央ゲートの一つから入っていく。各ゲートには都の底面に沿って明かりが灯っているからわかるはずだよ。」 ジャマールはそう答えてえてから、遠くの方を指さした。四つの輝く円い光の標識が見えた。都の底正面に均等に並んでいる。両端の各コーナーに一つずつと、その間に同じ間隔を開けて二つある。

  『あれが天国の門か。』 ドック入りを見るには、この場所が船で最高だとジャマールが言ったが、その言葉に間違いはなかった。展望台全部が、前も上も足の下も透けて見えるので、下を向けば、都の内部をありのまま眺めることができると言うわけだ。身体と都との位置関係をいえば、なんだか空中を落下しているような感じで、顔は地面の方を向き、足は都の壁に最も近い場所にあって、言うなれば側面を歩いて降りているような感じでもある。私にしてみれば、都が逆さになっているという感じだ。

  ザーファが助け船を出してくれる。「私は時々振り返って反対向きになって都を眺めるの。そうしたら上向きで見られるってわけ!」

  「そいつはいい!」私はさっそくピラミッドの頂点に顔を向けるようにして、振り返った。これで今は後ろ向きに進んでいることになる。

  いかにラムダが大きいといえども、このジャイアントシティーの側にいるとちっぽけに見えてしまう。下にある都の北正面は、底に近づくにつれて段々と幅が広がっていく。都の内部を見ていると、立派な家々や邸宅からなる階層が次々に現れ、無数の層が見えた。都市と文明全体が都の光の中に完全にしまい込まれている。あらゆる時代の何百万という神の子供達が、念願叶ってついにそこで共に暮らしているのか。下には無数の素晴らしく幻想的な環境とコミュニティーの中で、建築上の驚異がバラエティーに事欠くことなく並んでいる。

  外壁と内部各階の床は、清められ、透き通った純金でできている。地球ではまだ知られていないものだ。この物質は、どうやらカットクリスタルやファイバーオプティックス(光を自由に曲がりくねらせて伝えるためのガラス繊維などの束)のように、都の頂点から放射されている温かく素晴らしい、喜びに溢れ活気を与えてくれる光を、都の至る所に行きめぐらせているようだった。それは光と安らぎであって、主の存在の愛情深い温かさである。この都に夜はなく、人工の光も太陽の光もいらない。主の存在が都を照らしているからだ。ここはまさしく偉大なる王、イエスの都なのだ!

  船が降りている都の壁は、大規模な超特大三角型滑走路のようで、着陸が近づくにつれどんどん広がっていく。左右を見ると今では外壁が何百キロにも渡って続いているが、普通これ程の距離をいっぺんには見られない。でも、この霊の段階にいると遙かかなたまでよく見渡せる上に、空気の汚染もゼロときている。ラムダは、向かって右方向に見える都底面沿いの真珠の門の一つに向かっている。ラムダの両端にあるゲートは、都を取り囲んでいる蒼い球体の内側に今にも触れそうだ。でも内側にある二つのゲートは、保護バリアからかなり離れている。そこの部分のバリアは、大きな弧を描いた円形状で、都の正方形の底からだいぶ離れているからだ。

  都の透き通った壁を通して下を見ながら、『今自分は宇宙一大きい建造物を見下ろしているんだ』とふと思った。それは、全時代から神の子供達全員を一カ所に住まわせてゆとりがあるように設計されている。ここに街全体がある。いや、実際は、神だけが建てることのできる一つの巨大建造物の中に、多くの街があり、それぞれに住民が住んでいるのだった。

 

第26章 天国の計算

  ジャマールは計算にものすごく長けているので、尋ねてみた。「都の各階はどれくらいの高さがあるのかな?」

  「どの階も少しずつ違うと思うよ。例えば一階はかなり高くなっている。実はあまり階層については考えたことがないんだ。ある意味ではみんな同じ階層にあると言えるし、また別の意味では、各場所はそれぞれわずかに違う階にあるともいえるからね。だけど、都をパッと見て推測するなら、約150のレベルに分かれているように見える。つまり各階の平均的な高さを出すには、都の高さを150で割ればいいということになるね。どの単位で出したい?」

  「個人的には簡単な数にしたいな。だから、都は高さ1500マイル(約2400Km)としよう!」(1マイルは約1.6Km)

  「いいよ。じゃあ、各階はまったく同じではないけど、1500を150階分で割ってみると、10マイル(約16Km)になる。ということは、各階の高さは平均10マイル。これは地球で一番高い山のだいたい2倍だね。」

  「もし150階がそれぞれ山二つ分あるとすれば、都全体は、エベレスト山を300個積み重ねたのと同じ高さになるじゃないか!」感嘆して叫ぶ。

  「いや、僕はだいたい2個分といったんだ。」ジャマールが言葉をはさむ。「エベレスト山はおよそ6マイル(9000mくらい)だから、エベレスト約250個分くらいになると思うよ。」

  「それでも、主の家は地球で一番高い山と比べても桁外れにでかいよ! もし都が地球の表面に着陸したとしても、大気圏内に収まらないだろうね。地球の大気圏外に突き出てしまうんじゃない?」

  「そう、突き出ちゃうね。保護バリアがなくても、都自体、今の地球の対流圏 (成層圏の下にある地表から約 10-20 km の間の大気圏)の約30倍もの高さになる。対流圏というのは、人類が生き呼吸している大気圏の一部で、天候がつくり出される所でもある。対流圏の一番厚いところが赤道で、だいたい10マイルくらいだから、せいぜい都の一階程までしかこないってことだね! 大気圏中の空気は地球から約1000マイル(1600Km)でなくなってしまうけど、都はそれよりももっと高い。」

  「前に一度読んだことがあるんだけど、地球の陸地面積は約1億5千万平方kmあるらしいんだ。もし各階の床面積を合わせて、都の土地面積を合計して比べたら、どのくらい違う?」

  しばらく考えてからジャマールが答える。「それは難題だね。かなり本格的な計算をしないと、大ざっぱな見積もりしかできないな。各階にある空洞の分を差し引かなくちゃならないから。都の中央には垂直に大きな空洞がぽっかりとあるんだよ。僕はそれを『大聖堂エリア』と呼んでいるけどね。」

  「大聖堂? 何のため?」

  「実際に中に入って見たらもっとよくわかるよ。様々な役割をしているんだ。ざっと言っても、洗浄、風通し、霊感、照明、通信、それに当たり前だけど運搬、がある。」

  見るからにジャマールは私の投げかけた質問に答えるのを楽しんでいるようだ。「大聖堂」と呼ばれるところは、何か非常に深遠で神秘的な場所らしいな。

  「それじゃあ、ええとね。」ちょっと一息置いて考えているジャマール。「多分ね、都の総床面積は、だいたい2億6千万平方Kmといったところかな。」

  「すごい! ということは、都内部の陸地面積は、現在の地球の陸地面積を上回るってことか。」

  「宇宙都市はでっかーい!」両手を広げてジェスチャーしながら話すジャマール。

  彼の数字の強さにはまいった。「僕はあんまり数字に強くないんだ。都の陸地面積をどうやって出したんだい?」

  「聞いてもムダよ!」 冗談まじりにザーファが言う。「ジャマールは歩いて話せる計算機なんだから!」

  「暗算という特別な賜物があるのは確かだよ。もし本当に知りたいなら教えてもいいけど?」

  「もちろん、教えてくれたまえ。」なんてカッコよく言ってはみたものの、彼が言うことを一つでも理解できるかどうかは、はっきり言って定かでない。

  ジャマールが説明し始める。「ます始めに、この問題を解くために都を大きな立方体の建物だと考えてみよう。たて2400Km、横2400Kmの、150階建てだ。それを掛けると、864,000,000平方Kmの床面積の総計が出てくる。でも都は立方体ではなくてピラミッド型だから、実際の大きさはその3分の1だ。そこで864,000,000を3で割ると、288,000,000平方Kmという、高さと底面は立方体の時と同じの、ピラミッド型にしたときの面積が出てくる。それで、次がちょっとややこしいんだ。」

  「今の説明だけでも、僕には結構ややこしいと思うけど。」そう言って笑う。

  「都の各階の中央が空洞になっていて、それが各床面積の9分の1に当たることをたまたま思い出したんだ。」

  「それが、さっき言った大聖堂の部分だろう?」

  「そう。それで、床を均等に九つに区切ったと考えてみよう。四辺が、三つの同じ大きさの正方形で区切られた正方形ができあがるだろう。それで、真ん中の一枚を取り除いて残ったのが、各階の床面積ということになる。とにかく計算してみようか。288,000,000平方Kmを9で割ると32,000,000平方Kmになって、288,000,000平方Kmから32,000,000平方Kmを引くと 、ぴったり256,000,000平方Kmになるってわけだ!」

  「すごい!」

  「でも、これはおおざっぱな数値だから、正確ではないけどね。どこかで計算違いしているかも知れないし。」ジャマールが言い足す。「でも要は、天の都の中にはみんなが住む場所が豊富にあるって事だよ。それに、地球から海がなくなるなら、都の外にも人が住むための場所がたくさんできるしね。」

  「都についてのあなたの意見も話してあげたら!」ザーファがジャマールをせき立てる。ジャマール独自の理論を引き合いに出そうとしているのがありありとわかったが、彼はあまり言いたくないらしい。

  「これはただ僕の考えにすぎないから! 正しいかどうかは、主が示されるかそれが本当に起こるまでは証明できないし。」とジャマール。

  「わかってるわよ。でも色々思案してみるのは楽しいし、それに本当にそうなっても全然おかしくないわ! 主は結構いろんなものをお楽しみにとっておかれるでしょ。ここにいるからといって、私達は何でも知っているってわけじゃないのよ。天使だって引き続き学んでいる最中なんだから。」

  ザーファがジャマールに彼の理論を話すようしきりにせかしている。ついにジャマールは折れたが、まだ少し気が進まないようだ。「真相がはっきりしていないことを言うのは好きじゃないんだけど、もしこれが純粋に僕だけのワイルドなアイデアであるとはっきり理解してもらえてるなら話してもいいよ。」

  「理解してるよ。」彼が話を続けるように励ます。

  「それじゃあ、話すよ。物質的なものというのは、見たところ特定の決まった大きさがあるよね。でも、霊の内では大きさをずっと簡単に変えられる。そうだよね?」

  「ああ。」彼の話を興味津々で耳を傾ける。

  「それに霊のものは、物質的法則にそれほど従わなくてもいいことももうわかっているよね。」

  「うん。」彼の理論がどこに行き着こうとしているのかが何となくわかってきた。「もしかして、『針の先に天使が何人座れるか』っていう類の質問でも始めるんじゃないだろう?」

  「まあね。」ジャマールがそう言って笑った。「物質的な見え方と霊の内での見え方はかなり違っていることもあり得る。神は不可能と思われるようなことでも可能にされることを知っているだろう。そこで僕の質問は、都はとても霊的な場所だから、『本当に都の内部の大きさを物理的に測ることができるのか?』 もしくは『都はいつも同じサイズであり続けるのか?』ということなんだ。神は、都の物理的な外側のサイズを変えることなく、都内部のサイズを自由自在に変える能力を持っておられる。神は都を今まで見たことも想像したこともないような、複合的な次元や宇宙や果てしなき霊的空間で満たすことがお出来になるんだ! それに、都の内部に入り口かドアを開いて、霊的にも物質的にも今だかつて考えられたことのない新世界や不思議な場所、見たことのない邸宅へとつなげることだってお出来になる。もし望まれるなら、神は都に住む者達と神の王国の市民にだけ、こういった場所へアクセス可能にすることだってお出来になるんだ。

  僕が言いたいのは、神は御自分が必要か望まれるもの、もしくは僕たちが必要か望むものは、何でも創造することがお出来になるということなんだ! 神には、何でも可能だ。聖書の中にさえ、『目がまだ見たことがなく、耳がまだ聞いたことがないものを、神は御自身を愛する者達のために備えておられる』とある。(1コリント2章9節) 神はいつでも、とっておきの贈り物をいっぱい用意しておられると思うんだ。僕たちが自分はもう知り尽くしたと思う頃にやってきて、まだほんの知り始めたばかりだってことを示されるんだ。それから君にもすぐにわかるだろうけど、都に住んでいる僕たちにとってさえも、大きなミステリーとなって残っている部分はたくさんあるんだ。この上さらに神が何を示されるかなんて知る由もないよ。」

  「つまり、このすべてを合わせたよりももっと何かあるかも知れないってことかい?」これよりすごい、途方もないものを神がひそかに用意しておられるかもしれないなんて、まったく想像もつかない。

  「これは、ただの始まりにすぎないと思うんだ。」ジャマールが言う。「神が僕たちのために用意しておられるものの表面にすら、まだ触れていないと思うんだよ。この都は、」下に見える巨大な黄金のピラミッドを指さしながら、ジャマールが芝居がかって言う。「やがて訪れようとしている、神の驚異的な氷山の一角のようなものなんだ!」

  3人ともドッと笑った! ジャマールはそうしようと思えばかなり面白い人にもなれる。たった今目の前に見えるこの信じがたい程の美しい都。この偉大さを越えた、更なるものを神がお持ちだなんて、私の想像の域を遥かに超えていた。

 

第27章 帰郷

  上を見上げると、保護バリアのドームであるクリスタルブルーの空が、栄光ある美しい新未来の夜明けのように光り輝いている。都から放たれる温かい黄金の光にすっぽり包まれて、船全体が照り輝く。偉大な船ラムダの素晴らしさも、霊の世界の不思議さも、この瞬間には及ばない! この光の都、神の都、小羊の指令本部、神の創造という王冠についた宝石かつ値の付けようがないほど尊い宝、ご自分の花嫁のために宇宙の王が建てられたこの秘宝の都を目の当たりにすることは、私の今までのどんな経験も遥かにしのいでいる。ザーファは、透き通った黄金の壁から都の中をじっと眺めている。「美しいわ! 言葉にならないほど美しい!」

  「都は外と内の創造物に対しては通じているのかい?」

  ジャマールが微笑む「もちろん! 神の偉大な創造物とはすっかり通じているよ。そしてすべての力は神の小羊に与えられているんだ。」

  ついに都の底面に着いた。そこは驚異的であり、いくつもの宝石の層を積み重ねてできた壁には、大きなボールのような門がある。その一つ一つが巨大で、透明で、虹色にきらめき輝く真珠の門だ。まるで私たちを港へと導く、輝く光の標識であるかのようだ。いったいどうやってこんなものが出来たのか、想像もつかない。こんな場所にこんなものを造るなんて、神の力にしか出来ないわざだ。どんなに賢い人でも、天使でも、職人でも、この都の門の一つほど素晴らしくすごいものをこんなに完璧に造れないだろう。門は都の各コーナーに一つずつと、コーナーとコーナーの間に等間隔で二つずつある。全部あわせると12の門があるということだ。

  都の北正面にそって進んでいると、都の底辺が地平線のようになって現れてきて、地球の姿を再び見ることができた。青緑の惑星で、ふわふわした白い雲にふんわりと覆われている。ここから見るとなんとも平和だ。それでも、そこに住む私のような者達の心を永遠の平和が支配するようになるまでには、まず多くのことが起こらなければならない。だが、今地球は自分の故郷でないことがわかった。それはただ故郷へ帰る途中の停留所にすぎないのだ。私はわが神の都、神が私の魂のために、そして王国の数え切れない市民の魂のために用意してくださった場所へ帰るのであり、そこで私たちは主と永遠に暮らすのだ。

  この広大な宇宙の中でどこに行って探検しようと、ここがいつも私たちの生まれ故郷であり、永遠に霊のふるさとなんだ。ここには一千世代にわたる神の子供達の宮殿と信徒の集りがある。これこそがアブラハムが生まれ故郷を捨てて探し求めた都であり、このためにモーゼがエジプトの王室という地位を捨てたのであり、すべての信仰の子供達が求め、霊の内で目前に置かれているのを見た都であった。霊界というとてつもない故郷の中にある、ありとあらゆる素晴らしい都市や邸宅や建物の内でも、イエスが花嫁のために備えられたこの平和の君の王宮が最も素晴らしい!

  ラムダは大いなる真珠の門に着岸中だ。まだ船は門よりかなり上空にあるものの、輸送出入り口の一つを門に接続するべく向きを変えた。それから船が真ん中を軸にして180度回転し始め、船首が都の頂上を向き、防御センターのある船尾が地球の方を指す形となった。黄金のピラミッドの頂上が、今私たちの前に見える。頂点ははるか遠く向こうだ。ジャマールもザーファも私も、船が旋回している間そのすごさに圧倒されて静まり返っていた。

  「着いたぞ!」 船が完全に止まると同時にジャマールが言った。「出口の母さん達の所へ行こう。父さんは馬がいるから、きっと別行動だよ。」

  「馬を下ろすとき、お父さんと一緒にいたくないの?」ザーファが言った。「私がトラビスを案内して回るから、手伝ってらっしゃいよ。そうしたいんでしょう。」 彼女の朗らかな主張と私の心からの同意を受けて、ジャマールはすぐにそうすることにした。「フェスティバルで会いましょう。」 輸送チューブに飛び乗るジャマールに向かってザーファが言うと、彼は手を振って馬屋の方へサッと運ばれていった。

  「馬の世話はジャマールの大好きなことの一つなのよね。」 手を振りながらザーファが言う。

  私はまわりで起こっている不可思議な出来事にまだ少しぼうっとしていた。ザーファが私の手を引っ張る。「さあ、出口に行って、都に入りましょうよ。」

  数秒後にラムダの輸送チューブを通ってふわふわと降りていき、すぐに船底から出てきた。目の前には真珠の門がある。都の入り口だ。私たちは浮遊し続けていた。いや、そよ風にのって漂う羽根のように、しなやかに空中を舞っていったと言うべきか。前よりももっと上手に飛べるようになった気がする。心で願うことによって、行き先が決まっているのを感じ取ったからだ。他のたくさんの事柄と同じように、飛ぶことも、機会を得る度に練習していかなくてはならないことらしい。

  目前にせまる大いなる門だが、幾分透けては見えるものの、頑丈な物質でできているらしい。私はまったく場違いに感じてしまった。私なんて、イエスの約束と救いの力を信じただけの、本当に取るに足らないただのお粗末な罪人にすぎないのに。それでも主は私をこよなく愛してくださり、破滅から私の魂を救って下さっただけでないばかりか、こうして一時帰郷までさせてくださった。言うに言われぬ美しさを持つ、真珠のような物質で出来た門を通ったとき、ぞくぞくするものすごい喜びが満ちあふれた。天国への門の中にいるんだ! 何だか、身も心も洗われ、清められ、浄化されたように感じる。驚くべき平安が私の内に来た。今までと何かが違うぞ。この平和の都には平安が、大いなる不変の平安が、みなぎっている!

  この素晴らしき新世界と新しい人生は、地球から手の届く所で静かに、開演の幕があがって全世界の前で舞台に登場するときを辛抱強く待っている。天国が現れるときには、地球上での混乱と騒動と心配とあせりはやみ、世界中の人々が一人残らずこの神の神秘を見上げることになるのだ。

  ここでは方向感覚が変わると言っていたジャマールの言った通りになった。ラムダから下りて真珠の門に向かい始めたとたん、ピラミッドの頂上の方角が「上」になり、地球の方角が「下」になった。都の中にいったん入ってしまうと、この方向感覚はすぐに自分の身についた。都の透明な壁と門と底面を通して、ラムダワンの方を振り返る。入港した非常にへんてこりんな姿のラムダが想像できる。空中にある目に見えない何かに船首を引っかけてぶら下がっているか、発射準備のロケットみたいに、船尾を下にして立っているような格好をしているに違いない。

  「馬が出てきたわよ!」ラムダの裏面にある大きな出口から早駆けして出てくる白い二つの列を指差して、ザーファが言った。

  「ジャマールがいるわ。お父さんのとなりよ。それぞれが馬の列を導いてる!」 すごい馬の群れが二つの縦列をなしてラムダから繰り出し、都に向かって空を勢いよく進んでいく光景は、完全にドキドキのわくわくだ! 馬の群れは入り口に直行する代わりに、横に並んで都の門に近づいてくると、先頭の馬達が右と左にそれぞれ方向転換し、馬達は疾駆したまま2つの輪になった。それからそれぞれの列が交差し、同時に動く大きな8の字をつくりだした。中心を門に合わせ、門の外側で完璧なタイミングで動き、交差している。それから8の字が分かれて二つの輪になった。ちょうどお互いに反対方向に回っている白い大きな車輪のようだ。

  ジャマールが先導する左の輪は時計回りで、ジャマールの父親が導く右の輪は時計と反対回りに回っている。次に馬達は二重の輪になって一周した。それからジャマールと父親が隣り合い、肩を並べて一緒に門に直行していくが、二人はそれぞれの馬の列を先導している。二組の完璧な縦列は、勇ましく都に向かう。この時点で、ジャマールとその父親は急に上を見上げて顔いっぱいに微笑み、目に見えない『観客』に向かって感謝を込めて手を振った。きっと都の外で彼らに現れられたのだろう。王ご自身が上から彼らの入場パレードを御覧になっておられ、感謝と激励を示すためにそうやって出向かれたに違いない。

  満面に笑みを浮かべて、ジャマールは私とザーファに向かって手を振り、父親と共に都の中心に向かって馬達を引き連れて行った。

  「ショーの準備をするために、スタジアムに向かっているのよ。」 群れが大きな音をたてて都の中央広場に向かって通り過ぎるのを見て、ザーファが教えてくれる。『この場所のものすごい大きさからすれば、そこにたどり着くだけでも800Kmはゆうにあるだろうな!』

  天国は、私の期待以上に素晴らしかった。しかもこれはただの見本にすぎないのだ。この体験は主として霊の内に起きていることであり、私はこの途方もなくすごい境域の一旅行者にすぎない。観察者のようなもので、まだ完全にここに存在しているわけじゃないから、帰郷して実際に住む時に経験するであろう、本物の悦楽的衝撃を体験してはいない。その時には、新しく造られたスーパーボディーを身につけて、大いなる勝利と小羊の婚宴に参加するために、喜びに溢れてこの門をくぐることだろう。その日はまだ少し先のようだが、今現在のレベルの至福と幸福感だけでも、永遠に過ごすに足るものと感じられるくらいだ。

  一度中に入ると、何もかも不思議なくらい開放的で広々としている。都は温かく愛情深い光にすっぽりと包まれており、門に足を踏み入れたとたんに、愛の霊そのものに抱擁されているように感じてしまう。ちょうど、子供か恋人が帰宅したときに、玄関で抱きしめられ温かく出迎えられるときのような感じだ。

  すべての中に流れている大いなる愛の光がある。どうやら都の上のどこかから出ているようだった。次の階が上空に見えてそれが天井になっている。はるか十数キロ上だ。都を造っているクリスタルゴールドの物質が、内側の豊かな光で輝いている。それに加えて、頭上にある天井は保護バリアが発する青い光を受けて反射しているらしく、青と白と金が混じった何とも言えない色の空を作っているのだった。

  都内部が一番興味をそそられ、理解するだけでもかなり勉強しなければならないよううだ。どんな構造なのかすらそう簡単には判断できない。ほとんどの場合、ケタはずれの大きさと、想像しがたいほどの距離がからんでくるからだ。いったん中に入ると、外から見た多数の階層と、てっきり別々になっていると思っていた床は、大いなるビラミッドシティーをグルグル回りながらずーっとずーっと上へつながっている、らせん状になった一つの床ではないかという気がした。外から見る限り各階はほぼ平らに見えたが、ほんの数度の斜面でも2400Kmもの距離に渡ると、天井は8〜16Kmの高さに十分なり得る。もし私のカンが当たっているなら、各階のへりに沿って壁づたいに都の一階から最上階まで歩くと、その道のりは途方もなくすごい距離になる! 宇宙一長い道路になることは明白だ。48万Kmかなんかの! ほとんど、地球から月まで往復するくらいの距離になる!

  ジャマールの話では、都の中心部は空洞になっているということだ。都中心部から内部の軸を一目見るなら、私の持論が正しいか間違っているかがわかることだろう。ただ簡単にザーファに聞くこともできたが、今は彼女にドッと質問を浴びせる時ではないように思った。

  私に言えるのは、一階の大部分は大規模な公園のようだったということだ。もしこの巨大な場所の各辺が2400Kmなら、この階だけでも、6百万平方メートルもの公園とレクリエーション広場を都の住人に提供していることになる。大きな黄金の遊歩道が、門から頂点の真下にある中枢部に向かって伸びている。この他にもよく似た遊歩道が、中枢点から各12のゲートに向けて広がっていて、多分上の各階でも同じ様に中枢点から公道が広がっているものと思われる。ゲートからも、都の最高地点に向かって直立高速道路がはしっているようだった。上から惜しみなく降り注がれる明るい光の中を上がったり下がったりしているのは、飛び交い浮動して自分の務めにせっせと取り組んでいる幸福な魂達だ。まさに天に昇った気分だった! 信じられないほどだ! 神の都には外からの明かりはいらないというのは真実だった。最高点近くに住まわれる小羊の存在と御霊の栄光が、実際に都を照らしているようなのだ。

  私のまわりではどこにいても主の存在を感じた。至る所に主の栄光がある。主の存在である光と栄光は都の上部から流れ出てはいるものの、もっと謙遜で人間的な姿になったイエスが、自由に人々と交わっておられるように感じた。それはまるで、主は御自身が望まれる所どこでも余すところなく存在され、どんな姿にでもなられ、主が一緒に過ごしたい人達や主と過ごしたいと思っている人達誰とでも全員と一緒におられるようだった。

 

第28章 金の大通り

  「上に昇る準備はできてる?」 ザーファが私の手を取りながら尋ねる。「お父さんのために用意している場所に、ジェリーおじさん達がどんな手を加えたか見てみたいの。フランクと私は出来る時に手伝ってるのよ。」

  空中に浮かび、どんどん上昇していくにつれ、広々とした公園地帯がもっともっと見渡せた。はるか彼方、ユダという角の門の辺りに、驚くばかりの建築物とレセプションやレクリエーションエリアが一望できた。預言者ダビデの著作の中で描写され、図解され印刷されて、何百万もの数で世界中に配られたものである。高く高く、目もくらむ程の高さにまで昇っていく。地上高く飛ぶワシのような気分だ。空を飛ぶことは実にすばらしく、ほんの少しの練習でもっと上達して宙返りかなんかできそうだったが、今のところはただ空中を浮かび上がって次の階まで行けるだけで満足しよう。

  はるか下方には見事な川が流れていて、とても大きな果物の木々がほとりに植えられてあった。街の中心部近くには、すごい公園と庭園があり、公園の中には巨大な木があった! 私は地上でずっと眼が悪い方だったのだが、不思議なことに、この都にいるとものすごく遠くの方まで楽に見える。

  「あれがエデンの園にはえていた本物の命の木よ。今ではみんな自由にそこから食べられるの。」

  「すごい! 神が創られた中でも最高級の木じゃないか。」

  「アダムとイブがエデンの園から追い出された後は、ケルビムがかなり厳重に守っていたわ。そして最終的には神が移されたの。ノアと彼の家族と、ひとつがいと七つがいの動物を箱船に残して、最初にできた世界を洪水で滅ぼす前にね。」とザーファが説明してくれた。

  私は都の壁と門と保護バリアを見渡してから、気づいたことを付け加えた。「でも実際考えてみると、命の木は今も結構厳重に守られているみたいだね?」

  「それがとっても大切な象徴になっているのよ。神の不滅の愛と約束の数々、希望といやしと永遠の命という贈り物を表しているの! 命の木は、神が御自身の子供達に贈られた、最初の超自然的な愛の贈り物だったのね。ずっと昔、エデンの園があった時のことよ。一番大切なポイントは、それが神の最も高価で重要な贈り物である、イエスを表しているということなの。イエスは、恐ろしい十字架の死にかかって御自分の命を捧げることによって、私たちの罪をつぐなわれ、罪に定められていた私たちの魂を滅亡から救出して下さったのよ。」

  命の木は、滝から流れ出ている美しい湖や大きな川に囲まれた島に生えているようだ。「上の階から滝のように落ちてきている、あのきれいな虹に覆われた泉はなんだい?」

  「あれは命の川の清水(せいすい)よ。水源はずっと上にある神の王座にあるわ。川は全階層を流れ通ってきて、上階の内側のへりからここにある泉のような美しい滝壺にザブンと落ちてくるの。そして命の木に水をやってから、曲がりくねった川となって公園地帯全体を潤していく。そして私が思うに、最終的に水は都の頂上に戻って、そこで神によって祝福され新たにされてから、また同じ行程をたどって都を流れて落ちていくんじゃないかしら。」

  ザーファと私は上の階を目指して更に上空へと登っていく。門の上から中心部に向かって走っている長い金の大通りらしきものを通り抜けて第二階に出てきた。その金の大通りで一休みしたのだが、足が燦然(さんぜん)たる透き通った黄金の表面に降り立ったとき、さっき通り抜けたはずの通りが再び堅いしっかりとした足場になったのを感じた。二階は壮大で素晴らしく、私としては全くの畏れと驚嘆のうちに、残された時間ずっと金の通りを散歩して回っても一向に構わなかったが、ザーファが父親の住まいを見ることで頭がいっぱいだった。そこで私たちはまた宙に浮かんで内部の方へと向かっていった。

  各階の基盤、つまり床は、都の外壁と同じ金で出来ている。この金の床の上に土の層があり、草木を育成している。だが地球にある土とは構成物も構造も違う。こっちのは完全に清潔でもっと生き生きとした色彩に溢れている。地形は完全な平地ではなく、至る所で川床やなだらかな丘や緑の牧草地といったような、地球とよく似た場所が見られるのだ。とはいっても、通りはほとんど水平で、都の基本素材と同じ透明な金が使われている。

  上からみると、地球の通りとは違って、光っているように見える。どちらかといえば、遊歩道みたいな感じだ。車などの乗り物は一つも見あたらない。ほとんどの人はあちこちへ飛んで行ったり来たりする時の道しるべとして、道路を利用しているのではないかと思う。また、別の階に行くのに道路をすり抜けて上に行ったり下に降りたりするのはごく普通のことで、その人が歩きたいか別の階に通り抜けたいかに道路が感応するらしい。

  「道路は黄金で出来てるぞ!」私は感激して叫んだ。

  「そうよ。全階に金の通りがあって、都の中心部に向かって一点に集まっているわ。他の道は同心円に連なっているの。」

  ザーファと飛ぶのはとても楽しい。彼女はとても上手だ。私たちは数え切れないほどたくさんの素敵な家々と整然と並んだ町や村を通り過ぎ、やがて静かな田園風の地域に着いた。一階建ての変わった形をした農場風の家のそばに降り立つ。敷地内にはすてきな中庭と池と庭園があって、裏庭には作業場もある。

  「お父さんは物を作ったり建てたりするのが好きなのかい?」作業場の方を指しながら尋ねてみた。

  「ええ、そうなの。ただ地球にいたときには、そういった才能を生かすチャンスにあんまり恵まれなかったけどね。」

  通り過ぎた家の中には、びっくりするような設計や透けて見える壁など、とても近代的でユニークなものがあったが、この家はどちらかと言えば地球にある田舎の家にもっと近い気がする。

  「すごくいいところだね!」私が感想を述べる。

  「ええ、きっと気に入ると思うわ。」ザーファが答える。

  「都のどこに誰がどんな家に住むかとかは、どうやって決めるんだい?」

  「ええとね、まずどこに住むかを指定されるの。大抵は他の人達と一緒か、誰か顔見知りの人達の近くよ。」

  「一旦場所を決められたら、そこにずっと住まなくちゃいけないのかい?」

  「まあ、そんなこと全然ないわよ!」ザーファが答えるが、少し驚いた感じだ。「ただそこから始めるのよ。学んだり順応する期間中に落ち着ける場所よ。子供だったら、よく先に他界した親類達と一緒になるわね。私の場合はジャマールの家族と一緒になったわ。彼らはいつも新しく到着する人や旅人を好んで助けてくれるのよ。最初ここについたときには随分と助けてくれたわ。私の父みたいな年輩の人達は、身内に近い場所になるんだけど、父さんの場合は彼の兄弟のそばになるわ。家族や親類や友人達がもっとここに到着するにつれ、他のアレンジメントも可能になるのよ。実際、都の家というのは、人が行って住むことができる数多くの場所や住居の一つに過ぎないの。他にも王国内の霊界にはとってもすてきな場所がたくさんあるわ。都の外や地方に住まいを持つのはよくあることよ。特にその人のミニストリーが都以外の場所で行われているならなおさらそうなるでしょうね。」

  「都から離れて住みたいなんて思う人がいるの?」

  「都はとってもすばらしく、住むのにものすごく楽しい所よ。でもね、主の御仕事のためにしょっちゅう離れなくてはならないの。多分あなたは、都を離れるというのは主の御前から離れるといった印象を受けるかもしれないけど、霊の内では決してそうじゃないのよ。」

  「そうか。」ちょっと驚いたが、そう聞けて嬉しかった。

  「霊の内でなら、神の大王国のどこにいたとしても、いつでも好きな時に自分が望むだけ主と近くなれるわ。」

  家と庭をザーファと見て回った。中に入るやどういうことか、彼女は小さな母親と室内装飾職人に早変わりだ。ちょっとした詳細に至るまでよく気にかけているし、きちっとしていることを確かめたがった。彼女の愛の小さなタッチがあちこちに溢れている。こんな思いやりのある娘を持てて、この父親はなんと祝福されていることだろう。天国的にみるなら家は簡素なものだが、あの哀れな父親の期待や想像をはるかに越えたものであることは間違いない。『天国って、大勢の人々にとってはびっくり仰天の玉手箱になるだろうな。』私は思った。

  「僕がここにくる時には、どんな場所に住むのかな?」自分の思いが言葉になって出てくる。

  「あっ、それはまだダメよ!」ザーファが答えるが、ほとんどたしなめているようにとれた。「今知ってしまったら楽しみが台無しになってしまうわ! それはあなたがここに来たときのためにとっておくのよ。誕生日プレゼントみたいなものよ。この旅では、あなたはただざっと見てまわるだけで、ここにいるあなたの親しかった人達に会うこともないわ。愛する人達に会うことは、あなたのように仕事でここに来た人達にとっては感情をかき乱されてしまって、かなり抗しがたい経験にもなり得るのよ。不満を抱いて帰って欲しくないから。」

  今回はここ天国にいる親しい人達に会うことがないと聞いて、少しがっかりしてしまった。だが、この想像を絶する体験に案内してくれている人達が、自分に最善のことをしてくれると信頼しなくてはいけない。多分、もしここに余りにも深入りしてしまうと、帰る時が来たときに、地球と自分の身体に戻るだけの恵みがなくなるのかもしれない。地球から出発した霊界への旅で、霊の世界に留まったり完全にその中に入り込むことはできず、直接的な衝撃をもろに受けることはない、ということは何となくわかっていた。ある意味では、私はまだ少しおぼろげな窓を通して見ていた。歯医者や外科医が痛みを感じさせないように麻酔を打つのとは正反対に、私は天国にいることからくる完全な喜びの究極的な衝撃からまもられているのだった。そうでないと、私にとって刺激が強すぎただろうし、離れるのが非常に困難になってしまったことだろう。

 

第29章 平和の君の祭典

  間もなく都の中心部へ向かう時間となった。そこにジャマールと彼の父親が馬の群れと共にいて、都全体が平和の君の祭典を祝うために集まろうとしていた。ザーファが私の手を取り空中に上っていく。ジャマールが大聖堂と呼んでいた場所の中にある、都中心部の競技場に向かって出発し始めている人達をあちこちに見かける。私たちはまだ二階、都の底の上の階にいる。どうやら何百キロという距離を瞬く間に飛んできたらしい。10Km以上は絶対あったと思うが、ザーファがもすごい高さまで私の手を引いて飛び上がった。まさに思わず息をのむ出来事だった! まもなく、2階の真ん中を切り取ったような大きなまるい部分に近づいてきた。ジャマールが言っていた通りだ。下には、命の川がまるい穴の縁から一階にどっと流れ落ちているのが見える。その高さは悠に15Km以上はあるだろう。

  まるい穴の部分を通して、命の木が見える。都の底の、もう二度と壊されることのない栄光ある新しいエデンの園に生えているのだ。それはもう堂々として立派だった! まだ275Kmくらいは中心部よりだと思うが、遠くに巨大な美しくきらめく白い競技場が見えてきた。『競技場』という言葉は、この聖徒たちのための大『屋外』円形集会場を的確には表していない。今日集まってくる人達の中には、過去にローマの競技場で殉教死した人もきっといるだろうから、この荘厳な場所を競技場と呼ぶのは気が引けるな。これを描写する言葉として私の頭に浮かんだのが『ユーフォリアム』だった! 辞書には載ってないと思うよ。その言葉を定義付けできる場所はここだけで、完全な喜びと、完全なユーフォリア(幸福感)を体験できる。

  大聖堂に近づいて行くにつれ、都の真ん中の空洞からずっと上まで見上げられるようになってきた。各階にある内側の縁が予想通りらせん状になっているので、傾いた黄金の輪か光輪のように見える。大聖堂に入ってからは、真上を見上げることができた。圧倒されたのは何と言ってもその美しさだ。美しさのあまり、飛びながら酔っぱらいみたいにふらふらしてきた程だ。

  「あっ、まだ見ちゃダメよ!」とザーファ。「席に着いた時のためにとっておいて。」私は今見たすごい光景のことで頭がいっぱいで、彼女が言っている事などほとんど耳に入らない。大聖堂に到着し、ふわりと降り立って変わった座席にすわったが、そのことにほとんど気が付かなかった。天国は完璧に清潔で、ほこりは一切なく、座席を覆っている柔らかい光を放つカバーにはシミ一つない。もっとも、外観は屋外で大公園の真ん中に座っているようではあったが。

  「いつ見られるんだい?」見るのをじれったく待っている少年のように、ザーファに尋ねる。

  「あともう少しよ。たくさん人が集まってきたらもっとよく見えるから。」とザーファが励ます。

  輝くゴッサマー(ベールなどの透き通った薄物)の服をきた人達が何千という単位でどっと降りてきた。黄金と青の円錐の空から注がれて、つゆが草の上に降り立つように。その場所全体は神の光輝(こうき)によって明るい。ものすごい集会だ! すごい天国のパーティーだ! これが平和の君の祭典か。きらめく幸福な人々の顔が、何キロにも渡って重なっている円形の座列にすわって、私たちを取り囲む。この大中央競技場の建築様式は、まるでトライコンの街とそっくりの花びらの形だ。ただ一つ異なっているのは、花びらが建物ではなくて、同心円を描いて中心を囲んだほのかに輝く白色の座席だということだ。各座席はすわり心地がいいように、ふわふわして体の線に合わせてカーブを描いている。

  突然、全会衆が上から生ける光のシャワーを浴びせられ、私たちはみんな上を向いた。壮大なトランペットのファンファーレが鳴り響き、座席が水平にリクラインしていく。誰もが楽に、都の中心部を突き抜けている円すい形の大聖堂を見上げられるようにだ。これはどんなプラネタリウムよりもすごい。私が見たものときたら息が止まるほどだった!

  鮮やかで見事な紺青の空を見上げる。そこには、堂々とした黄金の円すい形の柱がある。それは、大聖堂の空洞をふち取り、都のてっぺんまでうねり上がっている金色のらせん通路が、そういった形をつくり出しているらしい。幅は数百キロ、長さは2000キロを超す、黄金に輝く光のトンネルを見通しているようなものだった。大聖堂は、金色と青色の帯で線を引いたようだ。帯は栄光ある讃美のらせんとなって、イエスの王座にまで昇りつめているのだった。

  大聖堂の頂上付近には、契約の箱に置かれたシェキーナの栄光同様、主の栄光が留まっている。上にある部屋からくる光があまりにも輝いていたので、圧倒されて一時たりとも見上げられないほどだった。私は霊的状態にあったものの、まだ部分的には人間的な目でこれを見ているのであり、今栄光をもって都を覆い尽くしている、すべてを焼き尽くすほどの大いなる光、燃える芝、永遠で喜びに満ちた命の炎は、私には耐えられないくらいだった。

  一瞬見上げたとき、すべての時代にわたる聖徒たちが住む、神のタイムトンネルの中を見たような気がした。全都市と文明が頭上にそびえ立ち、至る所にこの命のトンネルの中を上がったり下がったり並んだりしているものがいる。その天国的な光であふれんばかりの一条の光線とは、幸せな永遠の魂たちだった。完全なる喜びの絶頂! 私が体験したどんなものをも超越していた。

  突如として、天国の音楽、天界のシンフォニーとハーモニーがどっと辺り一面をおおった。神の聴衆席に備えられた音響効果は信じられないくらいすごい。まるで都そのものが一つの巨大な楽器になったようで、この大規模なピラミッドの各階が、それぞれ独自の音調とハーモニーを響かせているようなのだ。

  光のショーに添えられたこの序曲は、この日のイベントのために特別に作曲されたようだった。どんな地球のオーケストラも、歌と器楽とがうまく調和した美しい混成曲を演奏している、この天使たちと千世代に渡る音楽家たちの一団とは比較にならない。その後歌に移り、天使の言葉、霊の言葉で歌い、全聴衆が讃美の内に加わった。みんな両腕を高く上げ、顔は喜びが噴き出してきらきら輝いている!

  「祭典が始まるわよ!」 興奮してザーファが叫ぶ。

  天使の軍勢が紙吹雪のように王座から降ってくる。降りてきながら、それはもう美しいハーモニーで歌い、都全体に彼らの声が響きわたっていた。これはもう、天国的としか言い表しようがない。流れ落ちてきながら天使たちの軍勢は、巨大な天国のコンサートホールに集まった群衆の頭上で、主に対する喜びと讃美の大きな輪を作っていた。

  上に見える黄金のらせん歩道に沿って、別の天使たちや聖徒たちが集まっている。彼らはみんな各階からの幸せな大群衆で、ゆっくりと歩いている者もいれば飛んでいる者もおり、下に降り始めている。やがて何千という神の子供達が雨つぶのように降ってきて、笑い歌いながら舞い降りた。距離にすると数百キロも何千キロもあっただろうが、途方もない天国での視覚効果によって、見上げれば見たいものを何でも見られるのだ。しかもすべてがクローズアップされているように見える。どうやってそれが可能なのかは見当もつかないが、これも大聖堂と呼ばれる場所の奇跡の一つにすぎないのだ。

  最上階の方では、金の大通りはまるで、天国の心臓部に渦巻きながら上る巨大な黄金の階段に見えた。大勢の人がまだ黄金のらせん道路にずらりと並んだり、内側のドームの側面に向かって宙を飛んでいる。一瞬、大きな映画館とかオペラ劇場にみられるような、いくつもの階層や席列や高いバルコニーを思い出した。最上階近くになると円すいはかなり狭くなって、通りは実際に、小羊の王座と部屋と聖域に続く黄金の階段になるらしい。上階の部屋に入ったり、宮廷に入れることができたら、どんなにすごいことだろう。きっと感激の一言に尽きるだろうな。

  その後イエス御自身が姿を見せられ、上の方から降りて来始められた。下って来られるにつれて段々と御姿が大きくなる。主はただ並外れた大きさで目にも美しくあられるばかりでなく、何かが非常に奇跡的だった。どんな高さや角度から見ても、主は正面からただ自分だけを見ておられるように見えるのだ。それでいて、同時に主は他のみんなにも必ずあいさつしておられる。何という主の愛の大いなる奇跡だろう。ここに集まっている人たちがどんなに大勢でも、その人にだけ会いに来られたかのように、全くもって完全に個人的に一人一人と親密でいてくださるのだ。ここ天国でも、群衆の中でも、イエスはそれほど一人一人を気にかけて下さる。群衆の波は各階の大黄金階段と道路に行列をつくり、喝采し手を振っている。その中を、主は何百万という人々一人一人を祝福しキスして通りすぎていかれる。

  ここに来ると与えられる超自然的な視力によって、とても高い所でイエスからハグとキスをもらっている最も祝福された人々を何人か識別したような気がした。それと同じ瞬間に、主が私にもハグとキスをして下さっているのを感じた。説明するのは難しいのだが、何らかの方法を使って、主は一人一人の心と魂に直接話しかけておられ、それでいて同時に群衆全体にも語りかけておられたのだ。

  みんなで一斉に祈り讃美している間に、主が来たるべき事柄についてお語りになられた。その場の雰囲気は、光と愛の波と祝福の雨で満たされた。それは愛の祭典だった。これより優れた祭典があるとは思えないが、小羊が私たちを花嫁として迎えに来られ、敵に対する大勝利を祝うとき、これよりも大いなる日がやってくるのだ。それこそ最高の祝祭、最高の祝宴、主に愛された者たちに注がれる、永遠の喜びと楽しみの杯となることだろう。

  ああ、主が地上に再び戻られる日がどれほど待ち遠しいことか! その日、主は今私たちの目の前に降りて来ておられるのと同様に、この上ない栄光と輝きをもって戻られるのだ。われらの至上の救い主! 主はものすごく大きい姿で現れられたので、誰でもはっきりと見ることができた。それから繰り返すけれど、奇跡というのは、誰でもどの角度にいても主の御顔が自分の方を向いていて、いつでも好きな時に直接話せることだった。

  何百万という魂が飛び交っているこの円すい形の大聖堂は、ミツバチの巣みたいだと思った。主の愛という甘い蜜を大いに楽しみ、イエスに仕えることで幸せな魂が住む神の天国的なハチの巣である。主は両手を喜びに満ちた人々の海にむかってかざし、天国の大群衆を祝福された。主を見ているだけで、ラプチャーの日を想像できる。御自身の子供達を天国の故郷に呼ぶために、主が帰還される地上の勝利の日だ! 信仰を持って死んだ者たちが彼らの新しい体を受けるために戻り、墓から出るように呼びかける優しい主の声を待つ。「さあ、来なさい子供達! 闇は過ぎ去った。夜明けは訪れたのだ。眠りの床から起き上がり、喜びに満ちあふれる時がきた!」その時、ついに平和が地球と全惑星を治めるようになり、創造物は休息に入るのだ。

  イエスはゆっくりと降りて来られ、やがて中央にお立ちになった。私たちの座っている座席が真っすぐに起きあがる。まだまだイエスは大きく、地球で言うと何階建ての建物になるだろうか。私たちの真ん中に立ち、それでも個人個人のためにそこにいてくださり、腕を前に差し出している。私が主の目をのぞき込むと、主が心に語りかけて来られた。「あなたはもう地球の生活に戻らなければならない。だが、あなたをこの上なく愛していることを知って欲しい。それから、地上にいるわたしの子供達全員に必ず伝えてほしいんだ。わたしが言葉に尽くせないほど彼らを愛していることをね。まもなくみんな一緒になれる。最後の最後まで忠実でいなさい。そうすれば、あなたがたに命の冠を与えよう!」

  私は上に向かって浮かび始めた。別れを告げるザーファの手が、優しく私の手を握りしめるのを感じた。イエスは自らの身を低くされ、等身大の大きさになって、御自分のために用意された王座に腰掛けられた。まわりの物事が少しおぼろげになり始めている。ものすごいトランペットの音が聞こえる。オープニングショーの始まりだ。雷鳴のような馬のひずめの音がするな。突然、ジャマールが目の前に現れた。

  「君が出発する前に一目会いたいと思ってね。」そう言うと、ギュッと私を抱き締めた。

  「色々ありがとう、ジャマール。君の父さんと母さんにもそう伝えてくれよな。後はまた会える日を楽しみに待つだけだよ。」

  「その日は君が考えているより早いかもよ。」ジャマールがにんまりと笑ってみせる。

  「えっ? まさか僕がすぐに死ぬんじゃ?」

  「いや、まだだよ。まだまだだ!」

  楽しそうなキラキラした目が見える。まだ私に話せない秘密を知っているかのようだ。まだ明かされていない冒険の数々が待ち受けているとでも言いたそうだった。段々とその場から離れ始めた。向こうの方で馬たちが芸当をしているのが見える。ぐるぐる走りながら幾つもの同心円を作り出していて、隣り合った円はそれぞれ逆方向に回転している。それから馬達は上昇し始め、ずっと上の神の王座に向かって上って行った。天国の空気は甘い香りと天使の歌声でいっぱいだ。

  しばし目を閉じて、最後に天国の芳香を胸いっぱいに吸い込んだ。次に目を開いたときには、自分がそこを去りつつあるのがわかった。私は何らかの輸送トンネルにいて、地球に向かっていたのだ。下へ、更に下へと長い光のトンネルを降りて行き、ついに停止した。

  不思議な光と喜ばしい歌声が影のように消えていき、ひんやりとした夜の空気を肌に感じた。もとの体、もとのベッドに戻ったんだ。私はそこに長いことじっと横になっていた。目を開けようか、どうしようか…。やっとまばたきをして目を開けてみる。夜だった。窓は開いていて部屋の中は暗い。私を照らすように差し込んでいる、ぼんやりとした青っぽい満月の光だけが唯一の明かりだった。私は自分の手を見た。しわしわで張りのない手、確かに私のだ。今度は白髪混じりのあごひげをなでてみる。まさしく、自分の体に再び戻ったのだ。もはや天国を歩き回る少年ではない。私は窓から澄み切った夜空を見、満月を見た。ずいぶん長い間、夜空を照らすあの霊的で神秘的な球体をじっと見つめていた。自分が今まで見てきた月と何ら変わらない。だが今は、そこに隠されたものすごい秘密をもっと理解している。

  これはすべてただの年老いた男の夢だったのか? もしそうなら、是非とも夢を見続けていたいものだ。あるいは、もしかしたら、たった今私が体験したことが現実であり、この人生こそが本当は夢なのかもしれない。私は、また突如として未知の領域へと連れて行かれることを期待してもう一度目を閉じたが、何も起こらなかった! 遠くで犬の吠える声がし、怒った声が「静かにしろ」と怒鳴っている。私はひんやりとした夜の空気を深く吸ってから、今ある現実を受け入れることに決めた。私は地球に戻り、自分のベッドの上で自分の肉体の中にいる。遠くに見える輝く月の表面をもう一度見ながら、微笑んでささやきかけた。「おやすみ、みんな! またすぐに会えるといいね!」 それから私は目を閉じ、感謝の祈りを捧げてから、眠りにおちていった。  (完)