ヘブンズ・ライブラリー Vol.72-2

 子供から大人まで楽しめる

 天国の図書館からのストーリー集

 

ザジーとバジーとマジー

 

「ザジー、バジー、マジー、どこに いるの?」

 お母さんリスが いそがしそうに 枝の 間を かけ回りながら、三びきの 子どもたちを さがしています。

「一体 どうしたんだい?」と お父さんリスは、まだ ねむそうに 目を こすりながら、あくびを しています。

「まぁ、お昼ねの じゃまを して ごめんなさいね。もうすぐ フクロウじいさんが 来るの。みんなに 大切な お知らせが あるんですって。小さな 動物たちは みんな、集まってほしいそうなのよ。」

「そうか そうか、じゃあ、急いで 行かんとな。それで、どこに 集まるんだい?」

「穴あきツリーの 下よ。」と お母さんリスは 答えると、また 子どもたちを 呼び始めました。

「ザジー、バジー、マジー、今すぐ 帰ってきて ちょうだい。」

 やがて、お母さんリスが 子どもたちを さがしているという 知らせが、そこらじゅうの 木々の てっぺんに 伝わりました。コマドリが ウグイスに 伝言し、ウグイスは それを ハチドリに 伝える、というふうに。そして ついに、その 知らせは 三びきの 子リスたちに 伝わりました。キツツキが 木を はげしく たたいて 知らせたのです。

「一体 どうしたんだい? そんなに さわいで。」と、尾羽を パタパタしている キツツキに バジーが 聞きました。

「君たちの お母さんから、大切な 伝言です。お母さんが 君たちを さがしています。」と、キツツキは 落ち着き はらって 言いました。

「お母さんが 呼んでるなんて、聞こえなかったわ。」と マジーが 鼻に しわを 寄せながら 言いました。

「君たちは、遠くまで 来すぎたようですね。森の 決まりを 知っているでしょう? お父さんや お母さんが 呼んでいるのに 聞こえないなら、家から 離れすぎている、ということです。」

「わかったよ、わかったよ。」と ザジーが ため息を つきながら 言いました。

「とにかく 知らせてくれて ありがとう。ぼくたち、帰らなくちゃね。」

 そう 言うと、三びきの 子リスは 家の 方に 向かいました。

「まぁ、やっと 帰ってきたわね。一体 どこまで 行っていたの? お母さんの 声が 聞こえないくらい 遠くまで 行っていたのね…」

 しかるのは そのくらいにして、お母さんは 話を 変えました。

「みんな、よく 聞くのよ。フクロウじいさんが、森の 小さな 動物たち みんなに、集まってほしいそうなの。お知らせが あるんですって。もう あまり 時間が ないから、急いで 行かなくちゃ。すぐに 出かける したくを して、きちんと した かっこうを してね。」

 バジーが 真っ先に 木の 枝を かけ降りていきました。その すぐ後に、ザジーと マジーが 続きました。すぐに、小さな 池の 回りに 三びきが 集まり、みんな 顔を 洗い始めました。

 まもなく お母さんも 来て、ザジーと バジーの 毛に ついた どろや トゲの クズを ブラシで はらい落としました。

「あなたたち 男の子たちは、本当に 冒険好きね。また あの 空き地を 探検して いたんでしょう?」

 ザジーと バジーは 目を 輝かせながら、顔を 見合わせました。

「そうなの、お母さん。だってね、空き地の 中は ものすごく 楽しいんだ。木や 茂みが いっぱいでまるで 迷路みたい なんだよ。それにねぇ…」

「わかってるわよ。」と お母さんが ほほえみます。

「お父さんと お母さんも、あなたたちみたいに 小さかった 時はねぇ、よく 空き地で かくれんぼを したわ。初めての キスを したのも、そこなのよ。」

 お母さんは ほおを 赤くすると、とにかく そこは あぶないからと 子どもたちに 注意し、話を しめくくり ました。

「空き地には たくさんの いばらや、とげだらけの 草が 生えているの、わかってるでしょう。」 それから

お母さんは、うす茶色の 長い しっぽを ていねいに ブラッシングしている マジーの 方に 行きました。

「手伝ってあげるわ。」

 そう 言うと、マジーの しっぽに ピンクの リボンを 結んであげました。マジーは ほほえんで 言いました、

「まぁ、きれい。お母さん、ありがとう。」

「さてと、もう 出かける 時間だよ。」

 お父さんの ひと声で、みんなは 一列に なって、穴あきツリーに 向かいます。

 草むらの 中を すばやく 走っていくと、すぐに、同じ 方向に 向かう 他の 小さな 動物たちも、列に 加わりました。イモ虫や カタツムリ、カブトムシに テントウムシ。それに、進むのが おそい 虫たちは、わいわいがやがや 言いながら、平らな 木の 切れっぱしに、みんな いっしょに 乗っかっています。それを ウズラの お父さんが、一生けん命 引っ張っているのです。鳥たちは 上空を飛び、みんなが 正しい 方向へ 行けるように 見守っています。

 そして ついに、小さな 生き物たちは みんな、目的地へ 着きました。そこで フクロウじいさんが 口を 開きます、

「わしらは、人間の 世界で 起こっている 特別な ことに ついて耳にした ところじゃ。空が 暗くなった 時に 広場に 来て 上を 見上げると、何かが 見えるそうなんじゃ… えっと…あれは 何と 言ったかのぅ…う〜ん…あぁ、思い出したぞ。火花だ。いや、ちょっと ちがうなぁ…えぇ〜っと…火の 棒、…いやぁ、それも ちがう。…そうだ。花火だ。」

「花火?」と言う 動物たちの 声が こだましました。

「花火って なぁに?」

と、地面の 上を 羽ばたきながら たずねるのは、緑の ハチドリです。

「それがなぁ、わし自身も よく わからんのじゃ。」と、フクロウじいさんが 答えました。

「空で 行われる ショーで、非常に 大きくて 明るくて、うるさいそうじゃ。人間は それを、とても きれいだと 思っている そうじゃよ。」

「それで、わたしたちは どうしたら いいんだい?」と、キツツキが 聞きました。

「う〜ん、考えたんじゃがなぁ。それが 始まると うるさくて、どっちみち、だれも ねむれないじゃろうから、わしたちも 広場に 集まって、それを 見るのは どうかと 思ったんじゃ。」

 フクロウじいさんの 言葉に、みんなは あっけに とられて しまいました。けれども、冒険好きで いつも 目新しいことを さがしている ザジーと バジーと マジーだけは、目を 輝かせました。

「すばらしい 考えだね。」と、こうふんに 満ちた 声で、ザジーが さけびました。

「しぃーっ。」と、お父さんリスが たしなめました。

「行くか どうかは、おとなたちが 決めるんだよ。子どもたちじゃ なくてね。こういうことは みんな、初めてなんだ。しんちょうに 決めなくてはね。」

 ザジーは、すわって うで組みを しながら、動物の 親たちや 年寄りたちが 集まって あれこれと 相談する 間、待っていました。ザジーは、花火って 一体 どんなんだろう、おとなたちも 見たがると いいな、などと 思いめぐらして いました。

 そして ついに、フクロウじいさんが 再び 口を 開きました。

「暗くなってから 花火を 見たい 者は、見て よいことに 決まった。広場に 集まってな。子どもたちは、親と いっしょに いること。そして、時間が とても おそくなるから、夕方には ぜひ、昼ねを しておく ことじゃ。では、広場で 会おう。」

 フクロウじいさんは そう 言うと、木の 穴の 中に ある 自分の 巣に、ひょいと 入ってしまいました。

「やったぁー。」と 言いながら、ザジーは 弟と 妹を だきしめました。

「今夜は 楽しく なるぞ。」

 さて、家に 帰ると お母さんは、三びきの 子どもたちに、もし

花火を 見たいなら 十分 昼ねを するように、と 言い聞かせました。「いつもの ねる 時間よりも ずっと おそくなるから、今 昼ねして おかないなら、花火の 真っ最中に ねむってしまうわよ。」

「そんなに エキサイティングな ことが あるのに、ねむくなる なんてこと、絶対に ないさ。」と、ザジーは 口を はさみました。

「ぼくには 昼ねなんて 必要ないよ。お母さん、ぼくは 一番 年上だから、もう 昼ねなんて しないんだ。」

「きょうは ちがうのよ、ザジー。もし 行きたいなら、横に なって 昼ねを しなさい。もう 何度も 同じことを 言わないわよ。」

 ザジーは ふきげんな 顔を しました。枝を ちょこちょこっと 登ると、横に なって ふくれっつらを していました。葉っぱの 間からは、バジーと マジーが 幅の 広い 枝の 上に、満足げに 横に なって いるのが

見えます。二ひきとも じっと 目を 閉じて、一生けん命 ねむろうと しているようです。

「昼ねなんか、するもんか。」と、ザジーは ひとり言を 言いました。

「ぼくは もう 大きいんだ。昼ねなんか しなくたって、花火の 間中、起きていられるさ。」

 ザジーは うつぶせに なって、木の 皮に 絵を かき始めました。そうこう している うちに、二時間は あっという間に 過ぎてしまいました。マジーと バジーの 話し声が 聞こえたので、昼ねの 時間は 終わったのだと わかりました。

(ぼくが かいた 上手な 絵を、マジーと バジーに 見せられるぞ。)と ザジーは 思いました。(あっ、でも ダメだ。そうしたら、ぼくが 昼ね しなかったのが わかっちゃう。見せるのは やめに しよう。)

 ザジーは 夕食の時、やけに 静かでした。自分が 言いつけを 守らなかったのを、うしろめたく 感じているのです。

「さあ、出かけよう。広場に 向かうぞ。」と、お父さんが 言いました。まもなく、リスの 一家は 出発しました。

 広場に すべての 小さな 生き物たちが 集まった 時には、すでに とても 暗くなって いました。こうふんに 満ちた ささやき声が 草むら中で 聞こえます。最初の 花火が 空に 上がりました。とても大きな 音を 出して ばく発し、様々な 美しい 色が 空中に 広がると、生き物たちは みんな、おどろきに 打たれて 息を のみました。みんなの 目が、空に じっと 向けられています。

「きれいだわぁ。」と 言う マジーは、おどろきの あまり、口が ふさがりません。

「すっごいねぇー。」と 言いながら、ザジーは 大あくびを しています。

 それを 見た マジーは、「お兄ちゃん、つかれてるの? ショーは まだ 始まったばかりよ。」と 言いました。

「わかってるさ。つかれてなんか、いないよ。」

 マジーに 見えないように、ザジーは すばやく 後ろの 方に 回りました。ザジーは 目を こすりながら、また あくびを しています。(一体 どうしたんだろう? つかれて くたくただ。 まさか、こんなことが 今 起きるなんて。)

 ザジーは ちゃんと すわり直して、一生けん命 目を 覚まして いようと しました。けれども、後ろにいる 小さな 虫が、ザジーに 身を 低くして くれるように 頼んでいます。

「悪いんだけど、君が 前に すわっていると、見えないんだ。ぼくは 君よりも ずっと 小さいからね。」

 それで ザジーは また 横に なりましたが、横に なると、もっと つかれが 出てきました。どんなに 一生けん命 目を 開けていようと しても、閉じてしまうのです。すぐに ザジーは、ぐっすりと ねむりこんで しまいました。

「ザジー。起きなさい。」

 お母さんが ザジーを ゆり起こしました。

「朝ごはんの 時間よ。」

「何だって? ここは どこ? 花火は どこ?」

 起き上がって くるったように 回りを 見わたす ザジーに、お母さんが 答えました。

「ざんねんね。花火の 間中、あなたは ねむって いたようね。マジーが あなたを 起こそうと したけど、全然 起きなかったのよ。」

 ザジーの 目に なみだが あふれました。

「花火を 見そこなっちゃった。特別な ショーを 見のがしちゃったんだ。」

 お母さんが うでを 回して、ザジーを なぐさめようと しました。

「そうね。ざんねんだわ。でも、あなたが そんなに つかれていたのには、わけが あるんじゃない? マジーと バジーは ショーが 終わるまで、ずっと 目を さまして いられたわ。あなたは どうして ねむくなっちゃったの?」

 ザジーは 起き上がって 枝を ちょこちょこっと 登り、次の 枝に 飛び移って、ある枝を 見つけました。お母さんが 行ってみると、ザジーは 昼ねを しなくては いけなかった 時間に 自分が 木の 皮を ほって かいていた 絵を 見せて、言いました。

「これだよ。お母さんが ぼくに 昼ねを しなさいって 言った 時に、ぼくは 昼ねを しなかったんだ。必要だと 思わなかったんだよ。ただ 遊んで いたかったんだ。」

「無理も ないわ。」と、お母さんは 言いました。

「良い 教訓を 学んだわね。」

「うん。」と、ザジーは 悲しそうに うなずきました。

「この次は、言いつけを 守るよ。」

 お母さんは ザジーを だきしめました。そこへ お父さんが 来て、二ひきの 肩を たたきました。

「なぁに、あなた?」と お母さんが 聞きました。

「ザジー、おまえが 見そこねたものを 見る チャンスが、もう一回 ありそうだぞ。コマドリさんからの 伝言で、今夜も 花火が あるそうだ。」

 ザジーの 目は 輝きました。花火を 見る チャンスが 完全に なくなった わけでは なさそうです。

「もちろん、夜 おそくまで 花火を 見ていたい 子どもたちは みんな、今日も 同じことを しなければ いけないぞ。」と お父さんが 付け加えました。

「ぼく、必ず よく 昼ねを しておくからね。」と、ザジーは すぐに 言いました。

「今度こそは、花火を 見のがさないぞ。」

 お母さんと お父さんは ほほえみました。

「いい子だわ、ザジー。」

 その日の 午後、ザジーは バジーや マジーよりも ずっと 長い 昼ねを しました。夜に なって 花火が 空中を きれいに 照らし始めた 時には、ザジーは 一つの 花火も 見のがしませんでした。それからと いうもの、ザジーは、お父さんや お母さんが 何かを しなさいと 言う 時には、ふつうは 自分の ためにも 良い 理由が あるのだと わかるように なりました。

 

教訓:自分が 何かを しなければ ならない 理由が どうしてか わからなくても、お父さんと お母さんは 何が 一番 良いかを 知っていることを、忘れないこと!