ヘブンズ・ライブラリー Vol.72-1

 子供から大人まで楽しめる

 天国の図書館からのストーリー集

 

ジュニア・ベアの決心

 

 森の おく深くに、幸せな クマの 一家が 住んでいました。パパ・ベアと ママ・ベア、それに むすこのジュニア・ベアです。みんな、こげ茶色の クマでした。

 ある 晴れた 日の朝、ママ・ベアは ジュニア・ベアに 言いました。ついに、おまえには 小さな 妹ができたのよ、と。そうです、ベビー・ベアが 生まれたのです。とっても 小さくて かわいらしい クマの 赤ちゃんでした。毛は、明るい 茶色を しています。大きくなったらこげ茶色に なるよ、と パパ・ベアは 言いました。ジュニア・ベアは ママ・ベアのために、外から おいしそうな キイチゴを 取ってきました。そして ママ・ベアを だきしめ、赤ちゃんにも 投げキッスを しました。

 パパと ママ・ベアは、ジュニア・ベアが 小さかった 時から、毎日 午後には、森の すぐ外を 流れている 大きな 川に、魚取りに 連れて行って くれました。パパと ママが 夕食のための 魚を 一生けん命 取っている 間、ジュニア・ベアは 水を バシャバシャしたり、岩から 岩に 飛び移ったりして、楽しく 遊んでいました。川で 遊ぶのが、ジュニア・ベアは 一日のうちで 何よりも 好きでした。

 午後に なりました。一体 いつに なったら 出かけるのだろうと、ジュニア・ベアは そわそわしながら、ほら穴の 中を のぞきこみました。ほら穴の 中では、パパと ママが 静かに 話し合っています。ママ・ベアは、ほら穴の すみで ベビー・ベアの 背中を やさしく たたいて ねかしつけています。パパは ベビー・ベアに キスを しました。

 ママ・ベアが ジュニアの ところに 来て 言いました、

「ジュニア、今日の 午後は、あなたに おるすばんを してほしいの。パパと ママが 夕食の 魚を 取ってくる 間、ベビー・ベアの お守りを していて ほしいのよ。お願い できるかしら?」

「ええっ、でも…。川に 行くのが、ぼくは 世界中の 何よりも 好きなんだ。」

 ジュニアの 目には、なみだが あふれ始めました。

「ぼくだって、もう 自分で 魚を 取れるくらい 大きいよ。魚を 取るの、手伝うからさ。ねぇ、行って いい?」

「ジュニア、ベビー・ベアだけ ほら穴に 置いて 行くわけには いかないんだよ。」と、

パパ・ベアは ジュニアの 肩に うでを 回しながら 言いました。

「いっしょに 行きたいのは わかるが、今週の 午後は、わたしたちが 魚を 取りに 行っている 間、おるすばんを して、ベビー・ベアの お守りを してほしいんだ。ベビー・ベアも、すぐに 連れて 行けるようになる。そうしたら、みんなで いっしょに 川へ 行けるんだ。楽しく なるぞ。」

「うん…」

 なみだが ジュニア・ベアの 鼻から 流れ落ちます。ジュニア・ベアは ほら穴に 向かいました。その 後ろから、パパが 声を かけます。

「ジュニア、喜んで ベビー・ベアの お守りを してくれたら、神様が 必ず おまえを 祝福してくれるよ。そして、特別なことを してくれるよ。」

 ジュニアは まさか、とでも 言わんばかりでした。大きな 川で 遊ぶことよりも 楽しいことなんて ないんだから、と 思いながら。ジュニアは ベビー・ベアの そばに すわりました。ねながら ほほえみを うかべています。ぐっすり ねむっていて、あと 何時間かは、目を さましそうに ありません。

 それから、あることを 思いつきました! (パパと ママに 見えないように ついて行って、川の 見えない 所で 遊んじゃおう。) そして ジュニアは 立ち上がり、ほら穴を 出ました。パパと ママが、森の 外に 続く 長い 道を 歩いているのが まだ 見えます。(まだ 間に合うぞ。) ジュニアは そう 思いました。

 その時、小さな 声が、ジュニアの 心に 語りかけました。

(パパと ママは、おるすばんをして ベビー・ベアの お守りを するように 言ったよね。言いつけを 守らずに、何か 悪いことが ベビー・ベアに 起こったら どうするの?)

 ジュニアは 急いで ほら穴に もどり、ベビー・ベアを 見ました。まだ すやすやと ねむっています。

「ママは、パパと ママが 帰ってくるころまで ベビー・ベアは 目を 覚まさないだろうって 言ってたなぁ。だから ベビー・ベアは だいじょうぶだよ。この岩を ほら穴の 入り口に 置いておけば だいじょうぶさ。そうすれば、だれも 入れないからね。」

 ジュニアは 大声で そう 言って、心に 聞こえてきた 小さな 声に 返事を しました。

(君が 言いつけを 守らなかったことを パパと ママが 知ったら、がっかりしないかい?)と、その声が たずねました。

 ジュニアは すわって、かべに もたれかけました。そして ちょっと 考えてから、ついに 決心しました。

「そうだよね。もし ぼくが 言いつけを 守らなかったら、ママは とても 悲しむだろうな。だから、喜んで 妹の お守りを しなくちゃ。」

 ベビー・ベアを 見ると、まだ 気持ち良さそうに ねむっています。ひざまずいて 毛が ふわふわした ほおに そっと キスすると、ねむったまま、にっこりと ほほえみました。

 ジュニアは 幸せな 気分に なりました。それから ベビー・ベアのために、木ぼりの 小さな おもちゃを 作ってあげようと、木ぎれを さがしに 外に 出ました。

 何時間か すると、パパと ママが 夕食のために たくさんの 新せんな 魚を 持って、帰って来ました。その おいしかったこと! ジュニアは お腹が いっぱいに なるまで 食べました。それから パパと ママに、その日の 午後 ベビー・ベアのために 木を ほって 作った、小さな 丸い おもちゃを 見せました。ベビー・ベアは それが とても 気に入って、その夜は、ねむりに つくまで 手放しませんでした。

 その週 ジュニアは、パパと ママが 魚を 取りに 行く 午後の間おるすばんを して、ベビー・ベアの お守りを しました。ベビー・ベアが ねむっている間、毎日 ジュニアは やることを 見つけては いそがしくしていました。ある日は キイチゴを 集め、次の 日は 木登りをし、また、ベビー・ベアの ために もっと おもちゃを 作ってあげたり、ある時は 昼ねさえ しました。

 そして、ついに ある日、ママ・ベアが、ベビー・ベアは もう、いっしょに 川へ 連れて行けるほど 大きくなったと 言いました。ジュニアは こうふんで むねが いっぱいです。川に 着くと、パパ・ベアは 木の みきの くぼみに ベビー・ベアを すわらせました。ベビー・ベアは そこに すわって、川の 流れるのを ながめたり、パパと ママに 手を ふって、ほほえみを 投げかけたり していました。

 ジュニアは 川の ふちで 水しぶきを 上げ、お気に入りの 岩の 上を 飛びはね回りました。その時です。また、あの 小さな 声が 心の 中で 聞こえました。あそこに 生えている 背の 高い 草の そばに 行って、見てごらん、と。

 ジュニアが ふり返ってみると、少し はなれた 所に、背の 高い 草が 生えています。

「行って、見てみよう。」

 そう ジュニアは 言うと、川の 土手を スキップしながら、その 草の 方に 向かいました。

 そこに 行って 下を 見た ジュニアは、あっと おどろきました。背の 高い 草の そばには 浅い 穴が あって、その中に 水が たまっています。…中に 何が いたと 思いますか?

「魚だ。魚が いる。」と、ジュニアは 何度も 何度も 声を 上げました。

「ぼく、自分で 魚を つかまえるぞ。」

 ジュニアの 目は こうふんで 輝きました。そして、魚を そっと 水の 中から すくい上げると、ごほうびを パパと ママに 見せに行きました。

「ぼく、自分で 魚を つかまえたよ!」と、ジュニアは 得意げに 言いました。

 パパは ジュニアを だきしめて 言いました、

「それは それは、大きな 魚だねぇ。」

「うん。すっごく 特別なんだ。」

 ジュニアは 満面に ほほえみを うかべて 言いました。そして パパ・ベアに 言いました、

「パパ、もし ぼくが 喜んで 言いつけを 守るなら、神様が 特別なことを してくれるって 言ってたでしょう? この 特別な 魚が そうかな?」

 パパは ジュニアに ウインクして うなずきました。ジュニアは 魚を 特別な 友だち、ベビー・ベアにも

見せに 行きました。この魚こそ、神が してくれた 特別なことに ちがいありません。大きくなるにつれ、ジュニア・ベアは、従うたびに、神様は むくいてくださるのだと わかるように なりました。いつも 目に

見て 感じることの できる 大きな ごほうびとは 限りませんでしたが、ただ、自分が 従ったことで、心の 中に 大きな 満足感を 感じるのです。そして、それは いつも、かけがえの ないものだったのです。

 

教訓:従うことは、いつも むくいが 大きい。