ヘブンズ・ライブラリー Vol.6-4

 子供から大人まで楽しめる

 天国の図書館からのストーリー集

 

雨つぶトロイ

 昔、空に うかぶ 大きな 雲の 中に、トロイという 雨つぶが、たくさんの 雨つぶたちと いっしょに 住んでいました。

 トロイは 陽気で 元気いっぱいの 雨つぶですが、一つ、気になることが ありました。その…体が 小さいことです。ふだんは 明るいのですが、自分の 体が 小さいことを 考えると、時々 悲しくなって しまいました。自分は 何の 役にも 立たないと 思って しまうのです。でも、いつも なやんでいる わけでは なく、ふだんは ほかの 雨つぶたちと 雲の 中で 遊び回りながら、楽しく くらして いました。時おり、飛行機が 飛んで来ると、ものすごい 勢いで 通りぬけて 行くので、トロイは 風に ふき飛ばされて くるくると 回りました。

 さて、トロイと ほかの 雨つぶたちは、自分が 地上に 落ちる 番を 今か 今かと 待っていました。友だちと 集まっては、どこに 落ちたいか などと 話したものです。

 湖に 落ちて、そこにいる 雨つぶたちと 友だちに なりたいと 言う 者も いました。かわいた 所や だれかの 庭に 落ちて、水を あげるのを 手伝いたいと 言う 者も いました。

 そんな時です。トロイが 悲しくなるのは。

(ボクは こんなに ちっちゃいから 何の 役にも 立ちや しない。地上に 落ちたって、ボクみたいな ちっちゃな 雨つぶなんて、だれの 役にも 立たないに 決まってるよ。)トロイは そう 思って しまうのです。

 友だちの 方を 見ると、自分が どんな 冒険を したいか、まだ ぺちゃくちゃ おしゃべりしています。みんな、トロイよりも ずっと 大きな 雨つぶたちばかりです。(きっと りっぱな 雨に なって、ボクなんかよりも たくさん、世の中の 役に 立つんだろうな。) トロイは そう 思いました。

 この前なんかは ある友だちに、おまえは 何て ちっぽけで 弱虫なんだと 言って からかわれました。それで トロイは よけい 悲しくなって しまいました。その時です。ささやき声が 聞こえたのは。友だちの そよ風さんでした。

「元気 出して、トロイ。小さいから 何も できないって、がっかりしてるの。ほかの 雨つぶだって、みんな 同じなのよ。一人じゃ 何にも できないの。雨つぶが たくさん 集まってこそ、きれいな 雲が できるのよ。それが 何の 形に 見えるかなって、世界中の 子どもたちが 空を 見上げて 夢中に なっているわ。

 人々は、あなたたちの 作る すばらしい 形に 驚嘆しているのよ。科学者たちは 雲を 研究して、あなたたちに いろんな おもしろい 名前を つけてるわ。たとえば 積雲、積乱雲(入道雲)、巻雲なんてね。

 だから わすれないで。空を 見上げる時、人々が 見るのは、大きな 雨つぶとか 小さな 雨つぶじゃ なくて、あなたたち みんなが いっしょに なっている ところなの。バラバラに うかんでたら、みんな 小さすぎて、何も 見えないわ。でも いっしょなら、人々が 驚嘆するような 雲に なれるのよ。あなたたちが 最高に きれいな 時って、いつだと 思う? 日が しずむころよ。毎日、日の入りに なると、太陽は 美しい 色の 光を 投げかけるの。赤や オレンジや ピンクや 紫にね。最高に すてきよ。そして、とっても 晴れ渡った 明るい 日には、あなたたちは 真っ白で ふわふわして、やわらかい 綿ぼうしの ようだわ。それも みんな、あなたたちが 太陽の 光を 反射してるからよ。

 だから だれも、自分だけでは 何も できないの。それに、大きくなって 自分で 何でも できて、自分以外の だれも 必要なくなるなんて、だれが 望むかしら? 一人だけじゃ つまらないじゃない? さあ、心配ごとは イエス様に まかせて、みんなと 遊んでらっしゃい。」

 確かに そよ風さんの 言う通りだと、トロイは 思いました。

(それに、ボクたち以外は、だれも そよ風さんを 見ることさえ できないじゃないか。それなのに そよ風さんは、いつも とても 陽気だ。自分の すがたが だれにも 見えなくても、ボクたちの 人生に 対する とても 大切な 役目を イエス様が くださったことを 知っているから なんだね。

 それに、そよ風さんが いなかったら、ボクたちは いろんな 形の 雲を 作ることも できないじゃ ないか。やっぱり、そよ風さんの 言う通りだな。もう くよくよするの、やめようっと。みんなと いっしょに 作る きれいな 雲の ことを 考える 方が いいや。)

 

     * * *

 

 しばらくすると 天気が 変わり、風が 強く なりました。トロイと ほかの 雨つぶたちは 大風に 乗って、はるか かなたの 海から 大陸の 上空に 運ばれてきました。すると 風の 流れに 乗って、ほかの 雲が やってきました。が、その雲は トロイたちの 雲よりも ごく わずかに 速く 先に 飛んで 行きました。

(あっちの 雨つぶたちの 方が、先に 地上に 落ちて 行ってしまう…。そうしたら ボクなんて、何も すること ないだろうなぁ…。)そこで トロイは はっと われに 返り、さっき そよ風さんが 言ったことを 思い出しました。

「イエス様、ボクも だれかの 役に 立ちたいです。だれかを 幸せに したいです。きっと あなたなら、ボクにも できることを 何か 見つけて くださるはずです。信頼しますから、どうか、あなたの 思い通りの 所に 連れて行って ください。」

 ついに、トロイたちが 地上に 落ちる 時が やってきました。

「さあ、みんな。」

 大風が 満足げな 声で よびかけました。

「君たちの 番が やってきたぞ。雨になって 落ちる 準備は いいかい? かわいた 地面に 落ちて、しおれて かれそうな 花や 木の ところに 行って、みんなに 喜んで もらうんだぞ。じゃあな、空の 仲間のことを わすれないでくれよ。」

 そう 言って 大風が 勢いよく 雲に ふきつけると、雨つぶは みんな、下に 落ちていきました。

(わあ、何て わくわくするんだろう。) トロイは そう 思いながら、目を かたく 閉じて、落ちて いきました。

(大仕事だぞ。) 地面が 近づくと、トロイは 思わず 身ぶるいしました。(ボクは ちっぽけな 雨つぶだけど、イエス様が 今日、ボクを 選んで くださったんだ。一生けん命 がんばるぞ。だれにも見えなくても、最高に 陽気な 雨つぶに なるぞ。)

 ピチャーン。顔を 上げて あたりを 見回すと、そこは 地面でも なく、畑でも なく、湖でも ありません。コンクリートの 中庭です。トロイは 一生けん命 作り笑いを しました。じっと 待つ以外、自分には 何も できないのです。世界一 陽気な 雨つぶに なるんだと、トロイは くり返し 自分に 言い聞かせました。

 すると、ドアの 開く 音が して、かん高い 声が 近づいてきました。中庭中に、小さな 長ぐつと 色とりどりの レインコートが 飛びかっています。何人かの 子どもたちは、水たまりから 水たまりへと 飛び歩いては、水しぶきを あげて キャッキャッと 笑っています。その声を 聞いて トロイは うれしく 思いました。

(ボクが だれなのか、だれも 知らない。でも、今日 ボクは この子たちを 喜ばせて あげられたぞ。)

 そんなことを 考えていると、中庭の すみに すわっていた おとなが 立ち上がって、子どもたちに 中に 入るようにと よびました。トロイは はね飛ばされて、ドアに 向かう 最後の 子どもの 小さな 長ぐつに くっつきました。

 子どもたちが 建物の 中に 入る 時、長ぐつは みな、入り口の げた箱の 上に 置かれました。トロイは 長ぐつから 転げ落ち、ろうかの 板の 間を すりぬけて、その下の 地面に 落ちました。

(うわぁい、やっと 地面に 落ちたぞ。ここには 何か 植わって いるかなぁ。) 

そう 思って 体を ゆすると、トロイの 体は どんどん 地面に 深く しみこんで いきました。すると 急に、げた箱の かげで かわききっていた タンポポの 根に すい上げられて、くきを 上がって いきました。

「雨つぶさん、ありがとう。来てくれて、本当に ありがとう。」喜びで いっぱいの タンポポが うれしそうに お礼を 言いました。

「とっても のどが かわいて いたの。あなたのような 雨つぶさんが 来てくれるのを、ずっと 待っていたのよ。」

 トロイは 思わず ほほえみました。主が 自分を だれかのために

役立てて くださったことを、心から うれしく 思いました。その日、数え切れないくらい たくさんの 子どもたちを 喜ばせたのです。

 その日 起こった すばらしいことを 考えながら、トロイは 深い ねむりに つきました。そよ風さんや、興奮に 満ちた 冒険の旅、大風さん、子どもたち、タンポポさんが 夢の 中に 出てきました。ちょっと 前まで 自分が ちっぽけだと 思っていた ことなんか、すっかり わすれて しまいました。

 さて、この お話は ここで おしまいですけれど、雨つぶ トロイは 今も どこかに います。トロイは その後も、雲に なって 空に 上り、何度も 雨に なって 降っては、雲と 地上の 間を 行ったり 来たりしました。トロイって、いそがしい 雨つぶですね。