ヘブンズ・ライブラリー Vol.32

 子供から大人まで楽しめる

 天国の図書館からのストーリー集

 

新イソップ物語

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  目次

 ・オオカミとコブラ

 ・ニワトリとくじゃく

 ・アナグマとミツオシエ

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オオカミとコブラ

 あるところに、若い オオカミが いました。オオカミは きょう、自分は特別に祝福された動物だと 知っていました。くねくね 曲がった 森のけもの道を、意気揚々と 歩いています。

「きょうこそ、あの ずるがしこい コブラに 勝てるぞ。」

 小さな アライグマの 穴の 前に さしかかると、アライグマがひょこっと 頭を 出して 言いました。

「どこへ 行くんだい、オオカミさん。」

 オオカミは、約束された 勝利を うれしそうに 話しました。

アライグマは 何度も、「わぁ。」「すごい。」と

言いながら 話を 聞いていましたが、コブラの ずるがしこさを オオカミに 忠告しておいた ほうが いいと 思いました。仲良しの 友だちが 何人も 殺されたからです。

 若い オオカミは アライグマを 見つめ、言いました。

「本当に ひどい やつだね。でも、ぼくは だいじょうぶだよ。だって、今朝、森の王様から 伝言が あってね、きょうは 必ず 勝てるって、教えてくれたんだ。」

「それは すばらしい。でも、ずるがしこい コブラの 悪だくみには、十分 気を つけてね。」

 アライグマは にっこり ほほえんで そう 言うと、ちょこちょこっと 自分の 穴に 入ってしまいました。

 ちょうど その時、木の 上に いた すばしこい ジャガーが 飛び下りてきて、うきうきしながら 歩く オオカミに 声を かけました。

「やあ、オオカミくん。こんな いい 天気に、どこへ 行くんだい。」

 若い オオカミは、堂々と ジャガーに 答えました。

「きょうは、あの ずるがしこい コブラを やっつけるんだ。あいつに 勝ち目は ないぞ。」

 すばしこい ジャガーは クスッと 笑って 言いました。

「どうか してるぜ。コブラの 悪知恵を 知らないのかい。オレたちの だれにも つかまえられなかったんだ。みんな 失敗 ばかりさ。君だって、ひどい目には あいたくないだろう。」

 若い オオカミは、しばらく ジャガーの 言ったことを 考えると、こう 答えました。

「君の 言うことは 正しいかもね。この森に 何年も くらしてきたし、いろんなことを 知ってる。でも、きょうは ちがうんだ。絶対に 勝てるって、伝言を もらったんだ。だから、ちっとも こわくないよ。」

「ハハ、今に わかるさ、今にね。」

 すばしこい ジャガーは、笑いながら そう 言うと、草むらに 消えて 行きました。

 一瞬、若い オオカミは 自信を 失いそうに なりましたが、すぐに 気を 取りなおし、「いや、ぼくは 伝言を 信じるぞ。森の王様が ウソを つくなんて、ありっこない。ぼくは 絶対に 勝つんだ。」

と 自分に 言い聞かせると、また 前進し始めました。

 まもなく、ワシに 出会いました。森で 一番 年を 取っていて、一番 かしこい 鳥です。ワシは 若い オオカミが 大好きでした。オオカミを 見ると、空から 声を かけて

きました。

「若き 友よ、調子は どうかね。」

「上々ですよ。きょうこそは、コブラを やっつけるんです。息の根を 止めてやるんですよ。」

 ワシは 疑い深そうに オオカミを 見つめると、空から 舞い降りてきて、低い 木の 枝にとまりました。

「だれが そんな バカげた 考えを 吹き込んだのじゃ。」

「きょう、ぼくが 必ず 勝つと 約束して くださった 方が いるんです。」

「わしも かつて 若いころ、あの ずるがしこい コブラを つかまえようと したものだ。ありとあらゆる 方法で やってみたが、コブラは いつも すばしっこく、ぬるぬるしていて、わしの つめでは つかめなかったんじゃ。若い オオカミよ、あきらめなさい。お前は まだ 未熟者じゃ。失敗に 終わるじゃろう。わしの ようにな。」

 ワシは、自分の 失敗を 思い出すと、悲しげに 地を 見つめながら、そう 言った。

「でも、ぼくは 信じます。森の王様が 約束して くださったのですから。」

 ワシは おこったように 羽ばたき、若い オオカミを 思いとどまらせようと しました。

「オオカミよ、わしには お前よりも 知恵が ある。こういうことに ついては、わしの 言うことを 聞きなさい。やめるのじゃ。」

「やめません。」

 オオカミは そう 言うと、また 歩き始めました。

 ワシは、がっかりしたように ハゲ頭を 横に ふると、つばさを 広げて 飛んでいって しまいました。

 若い オオカミは 道を 曲がりながら、もうすぐ ずるがしこい コブラの 穴に 着くことを 考えていました。

 すると 今度は、茶色グマに 会いました。

朝ごはんに、おいしい キイチゴを 口いっぱいに ほおばっています。

「茶色グマくん、おいしいかい。」

「うう〜ん。」

 口の 中が いっぱいで、茶色グマに 言えたのは、それだけでした。

「ぼく、きょうは コブラを やっつけるんだ。森の王様から 特別な 伝言を もらってね。絶対に 勝てるって 言われたんだ。王様に 信頼していれば、あの ずるがしこい コブラを やっつけられるってね。だから、今から 行くところなんだ。」

 茶色グマは かむのを やめ、若い オオカミを 見おろしました。

「ハッハ。お前さんは 小さいし、若すぎるよ。あっというまに やられて、コブラの 晩ごはんさ。それに コブラを やっつけたいなら、森の王様は オレさまを 選んだだろうよ。大きくて 力も あるしな。この 長い うでと つめが あれば、穴に 手を つっこんで、コブラなんか ひとひねりさ。」

 オオカミは 何と 言っていいか、わかりませんでした。

「やってみたいなら、それでも いいよ。でも、森の王様は ぼくに 約束して くださったんだ。王様に 信頼していれば、必ず うまくいくってね。」

「ハハハ。王様を 信頼するだって。よう、若い オオカミ、お前さんは おろかで 未熟で 小さすぎるよ。だいたい、もらった 伝言が 森の王様からだって、どうして わかるんだ。オレ様に 任せなって。何しろ、お前より 強くて 大きいんだから。」

 若い オオカミは、今朝 もらった 伝言のことを 考えました。頭の 中で もう一度、あの 尊い 言葉を 思い出したのです。

「…わたしの 約束を 信じなさい。そうすれば、きょう 必ず、コブラの 最期を 見るであろう…」

 この 言葉を 思うと、新たに 信仰が わいてきました。

「クマくん、ご親切に ありがとう。でも、やってみさえ すれば、きっと 勝てると 信じてるんだ。」

 そう 言うと オオカミは、ずるがしこい コブラの 穴に 向かって 歩き始めました。

 まもなく、若い オオカミは コブラの 穴の 入り口に 着きました。

「さて、どうしたら いいんだろう。」

「わたしに 信頼しなさい。」

 オオカミの 心に、この言葉が ひびきました。

「わかりました。」

 そう つぶやくと、オオカミは コブラの 穴に 歩み寄りました。シューッ、シューッ、ズズズズ…。

コブラが 暗い 穴の 中で 動く、不気味な 音が 聞こえます。オオカミは 思わず、つばを のみました。こわくて 体中の 毛が さか立っています。ずるがしこい コブラの 催眠術を かけるかの ような 目を 見てしまったら、どうなるのでしょう。 ほかの みんなの ように、その つきさすような まなざしで 動けなくなって、彼の えじきになって しまうのでしょうか。

「いや、ちがう。コブラの えじきに なんか、なるもんか。絶対に 勝つんだ。約束が あるじゃ

ないか。」

 オオカミは 大声で さけびました。オオカミの 声を 聞いた コブラは、小さな ギラギラした 目で 穴の 外を 見ると、長い 体で ズルズルと はい出してきて、若い オオカミの 前に かま首を 持ち上げました。

 オオカミは、目の 前に 立ちはだかる 大きな ヘビを 見て、きっぱりと 言いました。

「ずるがしこい コブラよ、きょうは お前を やっつけに 来た。この森から 追い出してやる。」

 ずるがしこいい コブラは、太い 体を くねらせて 笑いました。

「ハッハッハ。おもしろいじゃないか。ひ弱な オオカミめ。わたしに 何が できるか、知らないのか。」

「知ってるさ。たくさんの 動物を 殺しただろう。今度は、お前が やられる 番だ。」

「それで、どうする つもりなんだい。若い オオカミさんよ。」

 ずるがしこい コブラは あざけるように 言いました。

「一体、お前さんに 何が できるって 言うのかい。本当に わたしを 追い出せると 思っているのかね。ハッハッハ。」

 コブラは、あどけなく 立っている 若い オオカミの 周りを 囲むように はってきました。突然、オオカミに ある 考えが うかびました。森の王様が そばに いるように 感じ、すべきことが はっきりと わかったのです。

「実は…」

 そう 言いながら、若い オオカミは コブラを またいで、コブラが えがいた 円の 外に 出ました。コブラは、オオカミの 返事を 聞きたくて、もっと 近くに 寄ってきました。

「…今朝、とても 興味深い 伝言を  もらったんだ…。」

 そう 言いながら 若い オオカミは、もう一度 コブラの 背中を またいで 円の 中に 戻って

きました。コブラは 自分の しっぽの 上を はって、もっと 小さな 円を 描きます。

「…で、どんな 伝言だったんだい。」

「その 伝言に よれば、ぼくが 絶対に お前に 勝つんだ。」

 若い オオカミは コブラの 体で できた 輪を くぐりながら、ちょっと 後ろに 下がりました。コブラも つられて その輪を くぐります。

「ハッ ハッ ハ。夢でも 見てるんじゃ ないのかい。この わたしを つかまえられる 者など だれも いやしないさ。今までも、これからもな。」

 そう 言って、コブラは みにくい 顔を ぬっと、若い オオカミに 近づけました。

「でも 絶対に ぼくの 勝ちだ。森の王様の 約束なんだから。王様は 必ず 約束を 守って

くださる。」

「森の王なんて、大バカ者さ。そして 王の 話を 信じる 者も バカだよ。」

 コブラは 若い オオカミの 動きを 追いながら、どんどん 近づいてきて、まどわすような 目で、オオカミの 目を じっと 見つめました。

 オオカミは 次に 言う 言葉を 一生けん命 さがしました。

「王様は バカなんかじゃ ない。言われたことは、何でも その通りに なるんだぞ。」

 そう 言いながら オオカミは、もう一度 コブラの 周りを 歩いて、ぐるぐる 巻いた コブラの 体の 輪を さっと 飛びぬけました。

「ぼくは 王様を 信じる。」

 コブラも オオカミの 後を ついて 回り、ふたたび 自分の 体で できた 輪を くぐりました。

 コブラは 若い オオカミとの 話に すっかり 夢中です。オオカミに 食いつくことしか 頭に

ありません。

「ワッハッハ。おろか者めが。お前も ほかの みんなと 同じさ。わたしの ごちそうに なるんだよ。」

「そうは 思わないね。ぼくの 勝ちだ。」

 オオカミは ひょいと 数歩 飛びのきました。目が 信仰に 満ちています。

 コブラは もう それ以上 がまんできず、オオカミを 一飲みに しようと 大きな 口を 開け若い オオカミ めがけて 突進しました。と、その時、コブラは 生まれて このかた 最悪の ショックを 受けました。オオカミとの 話に 夢中に なっている 間に、自分の 体が がんじがらめに なっていたのです。全身の 力を こめて がんばっては みたものの、前にも 後ろにも 動けません。ごろんごろんと、森の 真ん中にある 深い 湖の ほとりに 転がっていき、ついに 暗い 水の 中に 落ちて、しずんでしまいました。それからというもの、コブラの 姿を 見た 者は 一人も ありませんでした。

 

 教訓:戦いに 勝つには、年も 経験も 知識も、体の 大きさも 関係ない。ただ、王様(イエス様。)を どれだけ 信じるかに よる。

 

     ☆ ☆ ☆

 

ニワトリとくじゃく

 むかし、ある農夫が 美しい くじゃくを 飼っていました。くじゃくは、一日中 飼い主の 庭を 優雅に 歩き回っては、色とりどりの 羽を 広げて じまんしていました。彼には 何の わずらいや 心配も ありませんでした。

 ある日、くじゃくは 農場で 卵を だいている ニワトリに 出会いました。

「おやおや。こんな みにくい 生き物は 初めて 見たよ。お前さんの 羽と きたら、くすんだ 茶色 一色かい。それに、顔も しわくちゃじゃ ないか。」

 くじゃくは きれいに つくろった 羽を 広げ、農場にいる ほかの 動物たちに 見せびらかします。

「ご主人様は いったい、お前さんを 何に 使おうって いうんだろう。わたしたちを 比べたら、ご主人様は いつだって、この わたしを 選ぶに 決まっている。」

 ニワトリは、だまって すわっていました。

くじゃくの 美しさは 否定できません。だれの 目にも 明らかです。くじゃくが どんなに じまんしても、ニワトリは ずっと、聞き 流して いました。

一通り じまんが 終わると、くじゃくは 再び ニワトリを 軽べつの 目で 見ました。

「何とか 言ったら どうだい。」

「確かに わたしの 羽は あなたのように きれいじゃ ないわ。でも、ご主人様は あなたに おとらず わたしを 愛してくれているのよ。ご主人様に 頼りに されていると 思うと、本当に

うれしいわ。だって、わたしは 毎日 ご主人様のために 白い 卵を 二つ 生むんだもの。あなたの 美しさは 見るには いいかも しれないけれど、わたしは 力と 栄養を 与えるの。それで 満足だわ。」

 

  教訓:役に 立つことは 美しさに 勝る。

 

     ☆ ☆ ☆

 

アナグマとミツオシエ

 昔々、ずうっと 遠い 昔、大きな 森に、悲しい 小鳥と ミツアナグマが 住んでいました。アナグマと 小鳥は まるで ちがった 生き物でしたが、創造主は 一つだけ、共通点を 造られました。それは、両方とも、ミツバチの 巣が 大好きだと いうことです。

 小鳥が 悲しいのは、森中にある ハチの巣の ありかを 全部 知っているのに、巣の中にある おいしい はちみつが 食べられないからです。

「はちみつの 入った おいしい 蜜蝋を、思いっきり 食べてみたいなぁ。」

 ただ一つの 問題は、小鳥の 大好物が 巣の ずっと おくに かくされていて、毒針を 持った ブンブン うるさい たくさんの ハチに 守られていることでした。小鳥には とても 手が 出せません。

 ある晴れた日、小鳥は 今まで 見たことも ないような、とても 大きな ハチの巣が ぶらさ

がっている 枝の 先に とまりました。そして、巣に なっている 木の 幹から ハチたちが 出たり 入ったり しているのを、ものほしそうに 見ていました。何とか はちみつを 手に 入れようと 頭を ひねるのですが、考えれば 考えるほど、望みが ないように 思えます。

 ハチの巣は 周りが 完全に ふさがっていて、小さな ハチが 入れるだけの すきましか 開いていません。たとえ 近づいても、毒針で やられてしまう だけです。

「死んでしまっては、もとも こも ないわ。」

 小鳥は チュンチュンと さえずりました。

 ちょうど その時、ミツアナグマが よたよたと やってきました。ミツアナグマも、ハチの巣が 大好きです。アナグマは 巣を 見つけるたびに、ハチたちの 巣を おそって、大好きな はちみつを 一てきも 残さず 食べてしまうのでした。

「ありゃ、すごいものを 見つけたぞ。」

 アナグマは、木の幹から つき出た ハチの巣を 見ると、満足そうに ながめました。そして 攻撃の 準備を 整えると、ハチの巣に おそいかかり、大部分を ひっぺがして、あっという間に 大好物を 持っていって しまいました。おこった ハチたちは、くるったように 針で さし始めましたが、小鳥が びっくりする ことには(彼女は ずっと 見守っていたのです)、アナグマは 全然 あわてる 様子も ありません。ハチの針は アナグマには 通用しないので、ちっとも こわくなかったのです。

 その時、小鳥に ある 考えが ひらめきました。

「はちみつが ある 場所を 教えてあげたら、アナグマは 分け前を くれる はずだわ。そうしたら わたしたち、助け合えるじゃない。」

 小鳥は さっそく、アナグマが はちみつを たいらげている ところに おりていきました。

「はちみつって、本当に おいしいわね。」

「全くだよ。もっと しょっちゅう 見つけられたら いいんだけどね。」

 アナグマは、口の まわりを ペロペロ なめながら 答えました。

「わたし、ハチの巣の 場所を 知ってるわよ。もっと たくさんの はちみつが 食べられるわ。教えてあげましょうか。」

「本当。」

「もちろんよ。ハチの巣には わたしの 大好物も あるの…。蜜蝋と 幼虫よ。巣を 見つけるのは

簡単なんだけど、ごちそうに ありつく 前に さされちゃって…。でも、あなたには そんな 問題

ないみたいね。」

「ああ、ハチなんか 全然 気に ならないよ。さされても 何ともない 毛皮を 着ているからね。鼻だけは 別だけど…。それでも、ちょっと くすぐったいだけさ。」

 アナグマは 笑いました。

「それなら この計画は うまく いくわね。」

「計画って。」

「あのね、わたしが まず ハチの巣を 見つけて あなたに 教えてあげるわ。そうしたら あなたが ハチの巣を 開けて、あなたは そのまま はちみつをもらうでしょ。そして ハチたちが いなくなったら、わたしが 残りを いただくって わけ。」

「最高の 考えだ。ぼくたち、最高の 友だちに なれるね。」

 こうして、後に ミツオシエと 呼ばれるように なった 小鳥と ミツアナグマの 奇妙な 関係が 始まりました。

その日以来、ハチの巣の 場所に 連れて 行ってもらう たびに、お返しとして、アナグマは 感謝の 気持ちを こめて、ミツオシエに 分け前を 残して おきました。

 

 

  教訓:チームワークは 最高の 成果を 生む。