CLTP クリスチャン・リーダーシップ・トレーニング・プログラム #38
心の中のクリスマス DFO 12/98
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目次
・偶然の出来事?
・最後のわら
・贈り物の交換
・イエス様のための金のスリッパ
・クリスマス・スカウト
・「本当」のサンタクロース
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偶然の出来事?
与えよ。そうすれば、自分にも与えられるであろう。人々はおし入れ、ゆすり入れ、あふれ出るまでに量をよくして、あなたがたのふところに入れてくれるであろう。あなたがたの量るその量りで、自分にも量りかえされるであろうから。(ルカによる福音書6:38)
私は娘のエミリーにとても感心していました。まだ9才だというのに、年の初めからずっと小づかいをためていたのですから。その上、少しでもたくさんためようと、近所の雑用も引き受けていました。エミリーは、前からずっとほしかった女の子用のマウンテンバイクを買おうと決めていたのです。
11月の感謝祭の後に、私はエミリーに尋ねました。
「エミリー、お金は貯まったかい?」
エミリーは年末までに目標額に達したいと思っています。
「今、49ドルよ、パパ。全部たまるかどうか、わからないわ。」
私はこう言って励ましました。
「がんばったじゃないか。その調子だよ。でも、前に言っただろう、パパの自転車を一台あげてもいいんだよ。」
「ありがとう。でもパパの自転車、古いんだもの。」
その言葉に、私は苦笑しました。私の趣味はクラシック自転車の収集で、女の子用の自転車といったら1950年代のものだけです。エミリーの好みには合いそうにありません。
やがてクリスマスシーズンが近づき、エミリーと私は、自転車の値段を見るために、あちこち店をまわりました。エミリーは結構安い自転車を何台か見つけ、この程度で妥協しようと決めたようです。一軒の店を出ると、救世軍のボランティアがいて、その内の一人が大きな「社会なべ」の脇で鐘を鳴らしていました。
「パパ、今、あげられるお金もってる?」
「残念だが、小銭を切らしているんだ。」
エミリーはその後、12月中もせっせとお金をため、目標達成は目前のようでした。ところがある日、エミリーが二階からキッチンに降りてきて、もじもじしながら母親にこう言ったのです。
「ママ、私が今までお金をためていたの、知っているでしょう。」
「ええ、もちろん。」
妻のダイアンはそう言ってほほえみました。
「あのね、神様が、それを貧しい人にあげなさいって言ったの。」
ダイアンはかがんで、エミリーの目をのぞき込みました。
「それはとても親切ね。でも一年中ずっとためてきたお金よ。その中から少しだけ寄付したら?」
でも、エミリーは首を横に振り、こう言いました。
「神様は、全部あげなさいって言ったの。」
娘が本気だとわかって、私たちはそのお金をどこに寄付すればいいか、色々と案を出しました。でもエミリーは神様からはっきりとした導きを受けたようです。それで、クリスマス前のある寒い日曜日、今までためた58ドル全部を、救世軍のボランティアに寄付したのでした。ただ驚き、感謝するそのボランティアの他には、誰も彼女の行為に気づくことはありませんでした。
エミリーのしたことに心動かされ、私はふと、近所の車のディーラーが中古の自転車を集めていたのを思い出しました。そのディーラーは自転車を修理して、貧しい子供たちへのクリスマス・プレゼントにしようとしていたのです。私は思いました。9才の娘が自分の小づかいをはたいて寄付をしたのだから、私だって自分のコレクションの中から自転車を一台寄付できるはずだ、と。
ずらっと並んだコレクションの自転車の中から、ピカピカに磨かれた旧式の子供用のを選ぶと、何となく、もう一台の自転車も目に留まりました。もう一台あげようか? いや、一台で十分じゃないか。
でも車まで歩いて行く内に、もう一台寄付すべきだという思いが頭から離れませんでした。エミリーは天からの導きに従いました。私だって従えるはずです。私は倉庫に戻り、車のトランクにもう一台自転車を積んで、ディーラーの所へ向かいました。
自転車を届けると、その人は私に礼を言いました。
「コーパーさん、あなたのおかげで二人の子供が喜びますよ。ほら、くじ引き券を2枚差し上げましょう。」
「くじ引き券?」
「ええ、自転車の寄付一台ごとに差し上げていて、一等を引いた人は、近くの自転車屋から新品の21段速の大人用マウンテンバイクをもらえます。だから、くじを2枚どうぞ。」
そして、何が起こったか、わかるでしょう? その二枚目の券で自転車が当たったのです。私にはそうなる予感がしていました。
「当たったなんて、信じられないわ!」
ダイアンは大喜びで笑いました。
「私が当てたんじゃないよ。エミリーが当てたんだ。」
自転車屋が、そのマウンテンバイクを快く新品の女の子用のマウンテンバイクに交換してくれた時も、私は驚きませんでした。
どうしてかって? これは偶然と思えるかもしれませんが、私は、幼いにも関わらず犠牲を払った小さな女の子に、神さまが報いて下さったと思いたいです。自分の娘から、助け合いの心と、神さまの力を教わったのですから。
――エド・コーパー
最後のわら
愛と善行とを励むように互に努めようではないか。(ヘブル人への手紙10:24)
長い冬が続いていて、誰もが家の中に閉じこもっていました。そして今日も、マクドナルド家の4人の子供たちは、朝から晩まで言い争いやおもちゃの取り合いが絶えません。そんな時、お母さんは、ああ、子供たちは互いに愛し合っていないのだわ、と思いそうになります。本当はそうでないとわかっているのですが…。兄弟姉妹にけんかはつきものですが、最近この子たちは、手に負えません。特に、年子のエリックとケリーは、まるで、ずっとけんかし合ってみじめな冬を過ごそうと決め込んだかのようです。
「それ、よこせよ。僕んだ!」
「違うわ、うそつき! 私が先よ!」
また、リビングルームから口げんかが聞こえてきます。お母さんはため息をつきました。あとひと月でクリスマスだというのに、マクドナルド家にはクリスマスの心が欠けているかのようです。愛と暖かさと幸せな心を分かち合うのがクリスマスのはず。わが家をクリスマスの心で満たすには、ただのきれいなプレゼントの包みや、ツリーに輝くライト以上のものが必要でした。でも、クリスマスの準備で一番大切なのはお互いに親切になることだというのを、どうやって子供たちに教えたらいいのでしょう。
一つだけアイデアが浮かびました。ずっと昔、彼女のおばあさんが教えてくれたのです。それは古いクリスマスの習慣で、クリスマスの本当の意味を人々に知らせるのが目的です。たぶんうまくいくかも…。やってみる価値はありそうです。お母さんはいたずらっ子たちを集めて、小さい順に、マイク、ランディー、ケリー、エリックの4人を階段に一段ずつ座らせました。
「みんな、今年のクリスマスに何か新しいことしてみたい? これはゲームみたいな感じよ。でも、秘密を守れない人は参加できないの。みんな、守れるかしら?」
「僕、守れるよ!」
エリックが腕を大きく振って叫びました。
「私の方が秘密を守るの、上手よ!」
ケリーも飛び上がって腕を振りながら大声で言いました。これが競争ならば、絶対にエリックを負かしたかったのです。
「わたしだって!」
ランディーも言いました。何のことかよくわからなかったけれど、取り残されたくはなかったのです。
「ぼくも、ぼくも!」
末っ子のマイクも体をはずませながら、甲高い声をあげました。
「そう、それじゃあ、ゲームを説明するわね。今年は世界一ふわふわのベッドを作って、赤ちゃんのイエス様がイブに来た時に、びっくりさせるの。イエス様がこの家で眠れるように小さな飼い葉桶を作って、気持ちよく寝れるようにわらを敷き詰めましょう。でも、次が肝心。今からクリスマスまで、誰かに親切をするたびに、飼い葉桶にわらを一本置くの。親切をすればすれほど、赤ちゃんのイエス様の下に敷くわらが増えていくのよ。でも、自分がどんな親切をしているかや、誰にしているかは、誰にも秘密なの。」
子供たちは少しまごついた様子です。
ケリーが尋ねました。
「イエス様はどうやってそれが自分のベッドだってわかるの?」
お母さんが答えます。
「ちゃんとわかるわ。イエス様は、飼い葉桶に敷き詰めた私たちの愛でそれがわかるの。たくさんわらが積まれて、ふかふかだから。」
「でも、誰に親切をするの?」
エリックが尋ねました。
「簡単よ。お互いに親切をし合うの。今からクリスマスまで、この帽子にあなた達の名前と、お母さんとお父さんの名前を書いた紙を入れておくから、毎週一回、みんな一枚選んで、その人に一週間ずっと親切をするのよ。次が難しい所。その週に自分が誰に当たったかは誰にも言ってはだめ。見つからないように、その人になるべくたくさんの親切をしなくては。そして秘密に良いことをするたびに、飼い葉桶にわらを一本入れるのよ。」
ケリーが不機嫌そうに言いました。
「でも、仲の悪い相手にあたったら?」
お母さんは少し考えてから、こう言いました。
「たぶん、その人に良い事をしたら、とびきり太いわらを置いたらいいわ。そういう親切はもっと難しいだろうから。でも、太いわらだったら、飼い葉桶がすぐいっぱいになるわね。そしたらクリスマスイブに、赤ちゃんのイエス様を飼い葉桶に置きましょう。イエス様はその夜、愛でできたおふとんに寝るのよ。きっと喜ぶと思わない? さあて、誰が飼い葉桶を造りたい?」
長男のエリックが、工具を使ってもいいことになっているのは彼だけということもあって、勇んで地下室の作業場に向かいました。それから2時間ほど、地下室のほうから、ドンドン、バンバン、という大きな音が続きました。その後、しんと静かになったかと思うと、エリックが飼い葉桶をかかえて上にあがって来ました。
「できたよ。」
エリックがにんまりと笑います。
「世界一の飼い葉桶だ! 僕が作ったんだよ。」
この時ばかりはみんなエリックに同意しました。この小さな飼い葉桶は世界一です。ちなみに、一本の脚は短すぎて飼い葉桶は少しぐらつきましたが、何しろ、愛と…何百本もの曲がった釘でできた飼い葉桶です。きっと長持ちすることでしょう。
「今度はわらがいるわね。」
お母さんがそう言い、みんな車に乗り込んで、近くの野原までわらを探しに行きました。まだ雪は降り始めていなかったので、ちょうど良いのが見つかりそうです。意外なことに、田舎道を走っている間、自分が助手席に座ると言い張る子は誰もいませんでした。そして、とうとう小さな空き地を見つけました。夏の間、背の高い雑草が茂っていた場所です。12月も半ばなので、草は枯れて黄色くなり、本物のわらのようです。
お母さんが車を止めると、子供たちはわれ先に外に飛び出し、背の高い枯れ草を腕いっぱいになるまで拾いました。
「もうそれで十分よ!」
トランクにある段ボール箱があふれそうなのを見て、お母さんは笑いながら言いました。
「だって、飼い葉桶は小さかったでしょう?」
みんな家に戻ると、お母さんはキッチンのテーブルに置いてあったお盆に、わらをていねいに広げました。その上に空っぽの飼い葉桶をそっと置くと、わらは短い脚をうまく隠してくれました。
子供たちが叫びます。
「いつ名前を書いた紙を引くの?」
「お父さんが帰って来たらね。」
その夜、食卓で、みんなは6人の名前を紙に書き、それを折って野球帽に入れ、何度か帽子を揺らしてまぜました。さあ、次は紙を引く番です。
初めに一枚引いたケリーは、とたんにくすくす笑い始めました。次はランディーです。お父さんも一枚引き、その紙をちらっと見ると、手で口元を隠しながら、そっとほほ笑みました。お母さんも一枚引きましたが、全然表情を変えないので、誰を引いたかは全然わかりません。次は末っ子のマイクです。帽子に手を伸ばしましたが、マイクはまだ字が読めないので、お父さんが書いてある名前を耳元にささやいてあげました。最後にエリックが紙を引くと、彼はそれを広げながら、眉の間にしわを寄せました。でもそれからポケットに紙をしまうと、その後は何も言いませんでした。さあ、ゲームの始まりです。
それから一週間というもの、驚きの連続でした。まるでマクドナルド家には目に見えない妖精が何人もいるみたいで、良いことが至る所で起こったのです。ケリーがおやすみの時間に部屋に足を踏み入れると、青いネグリジェがきれいにたたまれてベッドに置かれていました。誰かが、頼まれもせずに、作業台の下に散らかっていたノコギリのくずを掃除しました。お母さんが郵便箱に手紙を取りに行って戻って来ると、キッチンのカウンターにこぼれていたジャムが魔法のように消えていました。それから、毎朝エリックが歯を磨いていると、誰かがそっとエリックの部屋に入って、ベッドを整えるのです。完ぺきとはいきませんが、一応きれいになっています。
ある朝、お父さんが尋ねました。
「お父さんの靴、どこかな?」
誰も知らない様子でしたが、仕事に出かける時には、ぴかぴかに磨かれて玄関先に置かれていました。
お母さんはその他にも前と違う所に気がつきました。子供たちが前ほどからかい合ったり、けんかし合ったりしていません。口げんかが始まっても、すぐに、何の理由もなくやんでしまうのです。エリックとケリーですら、前より仲が良いようです。その上、みんな一人の時に、時々こっそりとほほ笑んだり、くすくす笑いをしているみたいです。
日曜には、また別の名前を引くのがみんな待ち遠しいようでした。今回は名前を引く度に、前よりももっと高い笑い声と歓声が上がりました。でも、エリックはそうではありません。今度もエリックは紙を広げると一言も言わずにそれをポケットにしまいました。お母さんはそれに気づきましたが、何も言いませんでした。
2週間目、このゲームはもっと大きな驚きの連続でした。誰も頼んでいないのにゴミはちゃんと出ているし、ケリーがテーブルに宿題を出しっぱなしにしている間、難しい問題が二つ、もう解かれていました。
飼い葉桶の中のわらはだんだん高く、ふわふわに積まれていきます。あと2週間でクリスマス。子供たちは、この手作りのベッドが赤ちゃんのイエス様にとって寝心地の良いベッドになるかなあ、と思っていました。
3回目の日曜にまた別の名前を引いた後のことです。ランディーが、
「ところで、誰が赤ちゃんのイエス様になるの?」
と尋ねました。
「そうね、お人形を使ったらどうかしら。あなたとマイクがちょうどいいお人形を選んだら?」
お母さんがそう答えると、下の二人はお気に入りの人形を取りに部屋に走って行きましたが、結局誰もがイエス様にする人形を選びたがりました。末っ子のマイクが部屋からピエロのぬいぐるみを持ってきて自慢げに手渡すと、みんなに笑われて、マイクはべそをかいてしまいました。まもなく、エリックがよく抱いていたクマのぬいぐるみも、ピエロの隣に仲間入り。そして、バービーとケンも、カエルのカーミットに、ぬいぐるみの犬、羊も…おまけにずっと前におじいさんとおばあさんがマイクに送ったおサルさんまで。でも、どれもぴったりきません。
たった一つ、ちょうど良さそうなのは、みんなにかわいがられた赤ちゃんの人倦でした。「おしゃべりベイビー」と呼ばれたこの人倦は、何度もお風呂に入れられて、もうすっかりおしゃべりをやめてしまっていました。
ランディーが言いました。
「この人形、もう変てこね。」
ランディーの言う通りでした。一度、パーマ屋さんごっこをしている時、ケリーが自分の金髪と一緒に、「おしゃべりベイビー」の髪の毛まで切ったおかげで、二人とも、トラ刈りのショートカットになってしまいました。ケリーの髪の毛はだんだん伸びてきましたが、「おしゃべりベイビー」の髪型はそのままです。それで、頭から短い金髪の束が所々突き出ていて、人形はみじめな有様でした。でも目はまだきれいなブルーだし、顔は、小さな指に何度も触られてあちこち汚れてはいるけれど、今でもにこにこ笑っています。
お母さんが言いました。
「これがちょうど良いと思うわ。イエス様も赤ちゃんの時はあまり髪の毛がなかったはずよ。それに、みんなにたくさん抱かれた人形が赤ちゃん役になるのは、イエス様も大好きだと思うの。」
というわけで、決まりです。子供たちは赤ちゃんのイエス様のために新しい服を作り始めました。切れ端で作った小さな皮のベストと、布おむつです。何よりも良いことに、赤ちゃんのイエス様は小さな飼い葉桶にぴったりと収まりました。でもまだそこに眠るのには早すぎたので、クリスマスイブまで、クローゼットの棚にそっとしまわれました。
さて、わらはだんだん高く積まれていきます。秘密の妖精はますます魔法のレベルを上げて行き、毎日驚きの連続です。マクドナルド家はとうとうクリスマスの暖かさに包まれました。でも、珍しく、エリックだけは3週間目に名前を引いた時以来、とても静かです。
名前を引くのはこれが最後となった日曜は、クリスマスイブの前日でした。家族そろって食卓に着き、帽子に名前が入れられるのをみんなが待っていると、お母さんがこう言いました。
「みんな、とても良くやったわ。飼い葉桶には何百というわらがあることでしょうね。みんな、自分たちで作ったベッドにきっと満足でしょう。でも、ほら、まだ丸一日あるわ。明日の夜までに少しでも親切をして、ベッドをもっとふかふかにしましょう。」
テーブルの周りを帽子がぐるりと回るのもこれが最後です。末っ子のマイクが名前を引き、いつもと同じように、お父さんがそれをそっと読んであげました。ランディーもテーブルの下でそっと紙を広げ、ちらっとのぞいてにこにこ笑いながら背中を丸めました。ケリーも帽子に手を伸ばし、名前を見ると、くすくす笑いました。お父さんとお母さんも名前を引き、最後にエリックに帽子を渡しました。でも、エリックは、紙きれを開いてそこに書かれた名前を読むと、突然泣きそうな顔になり、何も言わずに部屋から駆け出してしまいました。
みんな椅子から立ち上がりましたが、お母さんに止められました。
「だめよ! そのまま座っていて。お母さんが話しに行くから。」
お母さんが階段の上まで行くと、エリックが大きな音を立てて部屋のドアを開けました。片手はコートを着ようとしており、もう片手には小さなスーツケースがあります。
エリックが涙を流しながら、
「僕、行くよ」と静かに言いました。
「行かないと、僕、みんなのクリスマスを台無しにする!」
「でも、どうして? どこに行くつもりなの?」
「雪で作ったイグルーに二晩寝て、クリスマスが終わったらすぐに帰って来るよ。絶対に。」
お母さんは凍えるかもしれないとか、雪は冷たいとか、手袋やブーツがいるとか言い始めましたが、いつの間にかお母さんのすぐ後ろに立っていたお父さんは、お母さんの腕に手を置いて、首を横に振りました。玄関のドアが閉まり、二人は、悲しそうに肩を落とした、帽子もかぶっていない小さな人影が、通りをとぼとぼ歩き、街角の近くに積まれた雪の上に腰掛けるのを、窓から見ていました。外はとても暗く、にわか雪が何度か、小さな少年とスーツケースの上にさあっと舞い降りました。
「あの子、凍えてしまうわ!」
「少し一人にしておいて、それから話しに行くといい。」
お父さんが静かに言いました。
10分後にお母さんが通りを渡って、小さな雪の山に座っているエリックの横に腰掛けた時には、そのちぢこまった体は雪で白くなっていました。
「どうしたの、エリック? ここ何週間か、とてもいい子だったわね。でも、飼い葉桶のゲームを始めた時から、どこか変だったわ。どうしてなの?」
エリックが鼻をすすって言いました。 「お母さん、わからないの? 僕、一生懸命頑張ったけど、もうできないよ。みんなのクリスマスが台無しになってしまう。」
そう言うと、エリックはわっと泣き出して、お母さんの腕に抱きつきました。お母さんはエリックの涙をぬぐって尋ねました。
「でも、どうして? 何ができないの? どうしてあなたがクリスマスを台無しにするの?」
「お母さんにはわからないんだ。僕、4週間ずっと、ケリーの名前を引いたんだ! 僕、ケリーなんて嫌いだ。親切なことなんか、もうできない。したら死んじゃうよ! 一生懸命やろうとしたんだ。本当だよ。毎晩そっと部屋に行ってベッドをきちんとしたし、薄汚いネグリジェだってたたんだ。ゴミ箱も空にして、ケリーがトイレに行っている間に、ケリーの宿題を少ししてあげたりもした。一度なんか、僕のレーシングカーだって貸したんだよ。でもケリーったら、いつもみたいに、壁にぶち当てたんだ!
お母さん、僕、ケリーに親切にしようとしたんだよ。飼い葉桶の脚が一本短くて、ケリーが僕のことをドジのお馬鹿さんって言った時だって、ぶったりしなかった。毎週名前を引く時、ああ、これでもう終わりだって思ったんだ。でも今夜またケリーの名前を引いた時、もう親切なんてできないって思った。もう無理だよ! 明日はクリスマスイブだ。赤ちゃんのイエス様を飼い葉桶に置く時になったら、僕きっとみんなのクリスマスを台無しにしちゃうよ。どうして家を出なくちゃならなかったか、わかるでしょう?」
二人はしばらくの間、何も言わずに座っていました。お母さんはエリックの肩を抱いています。聞こえるのは、エリックが時々鼻をすする音と、しゃくり上げる音だけです。
とうとうお母さんが静かに話し始めました。
「エリック、とても立派だわ。あなたがした事はみんな、二倍に数えるべきよ。こんなに長い間ケリーに親切にするのは、とても大変だったんだから。でもそれでもわら一本ずつ頑張ってしたのね。愛するのが難しい時でも、愛したんだわ。それがクリスマスの本当の意味ね。あまり簡単だったら、たいして意味がないもの。あなたが積んだわらは、たぶん一番大切なわらだわ。自分は良くやったと思うべきよ。
これから、みんなみたいに簡単なわらを何本か積むのはどう? お母さんも名前を引いたけど、まだポケットにあって、見ていないの。一日だけ取り替えっこしましょうか。二人だけの秘密よ。これはズルじゃないわ。」
お母さんがほほえんで、二人は互いに涙をぬぐい合い、雪を払って家に戻りました。
次の日、家中はクリスマスの料理や家の片づけをしたり、プレゼントに包み紙をかけたりと、皆が大忙しで、まさに興奮ではちきれそうでした。でも、そんなあわただしい雰囲気の中でも、わらは飼い葉桶にどんどん積まれ続け、夕暮れまでには、飼い葉桶からあふれそうです。誰もが飼い葉桶を通り過ぎるたびに、飼い葉桶をながめ、ほほ笑んでは立ち去ります。さあ、赤ちゃんが寝かされるのはもうすぐです。でも、ベッドはちゃんとふかふかになっているでしょうか? もう一本、わらを置いたら、もっとふかふかになるかもしれません。
お母さんはその最後のわらを置こうと思い、ケリーの部屋にこっそり入って青いネグリジェをたたもうとしました。でも、ドアのそばに来て、お母さんは驚きました。もう誰かが先に来ていたようです。ネグリジェはきちんとベッドの上にたたまれ、その脇の枕には小さなレーシングカーが置かれていたのです。
−−ポーラ・マクドナルド
贈り物の交換
人に陽光をもたらす者は、自分もおのずとその恩恵を受ける。
−サー・ジェームズ・マシュー・バリー
クリスマスには不思議で素敵な事が起こる、そう信じて私は育ちました。クリスマスとは、高貴な賢者たちが馬に乗ってやって来た日、真夜中に馬屋の動物たちがお互いに話をした日、一段と明るく輝く星の下、神が幼子となって私たちの世界に下られた日です。私にとってクリスマスはいつも大きな喜びの日でした。特に、私の息子マーティーが8歳だった時のクリスマスは忘れられません。
その年、私と子供たちは、ワシントン州レッドモンド郊外の木立の中にある、居心地のよいトレーラーハウスに引っ越しました。ピュージェット湾一帯は冬の雨が降りしきり、家の床は泥だらけになりましたが、クリスマスが近づくにつれ、心は湿ることなくわくわくしていました。
12月中、マーティーは家族中で一番はしゃぎ回っていました。彼は末っ子です。金髪の明るく活発な子で、人が話しかけるとまるで子犬のように小首をかしげるという風変わりな癖がありました。でも、それには理由があります。マーティーの左耳は全く聞こえないのです。でも彼はその事を決して愚痴ったりしませんでした。
数週間、私はマーティーを見守っていました。何か秘密にしているな、と思ったからです。ベッドを熱心に整えたかと思うと、ゴミ捨てをかってでたり、私の帰宅前にリックとパムが夕食の準備をするのを手伝ったり、ていねいにテーブルを整えたりしていました。また、わずかなお小遣いをひそかにため込み、一銭も使わないでしまっておくのです。なぜこのような謎に満ちた行動を取っているのか分かりませんでしたが、ケニーに何か関係がある事は大体想像がつきました。
ケニーはマーティーの友達で、春に会って以来、二人はいつも一緒でした。どちらか一人を呼ぶと、二人ともやって来るという有様です。馬の牧草地になっている草原が彼らの遊び場で、中央にはくねくねと続く小川があり、そこで二人はカエルやヘビを捕まえたり、矢じりや秘密の宝物を探したり、夕方までずっとリスにピーナッツをやって過ごしたりしていました。
私たち小さな家族には苦しい時期で、何とかやっていくために節約をしなくてはいけませんでした。私には肉のパック詰めの仕事があり、それとトレーラー生活上の工夫で、収入はわずかでも何とか人並みの生活をしていました。でも、ケニーの家は違います。とても貧しく、母親は二人の子を養うのに四苦八苦していました。善良なしっかりした家族には違いありません。でも、ケニーの母親は誇り高い女性でした。とてもプライドが強く、厳格なルールを通していました。
毎年のように、私たちは今年もわが家を華々しく飾りました! わが家のデコレーションは、プレゼントを隠し、その周りにたくさんの飾りをぶら下げた、手作りのクリスマスツリーです。
マーティーとケニーも時々、しばらく椅子に座って、三角帽を作ったり、ツリーに飾る小さなかごを作ったりしましたが、どちらかが相棒に耳打ちすると一瞬の内にドアの外に出ていくのです。そして、わが家とケニーの家の間にある電気フェンスの下を注意深くすりぬけていきます。
あと数日でクリスマスというある夜、シナモンたっぷりの固焼きデニッシュビスケットの生地を一生懸命こね、かたどっていると、マーティーが来て喜びと誇りの混じった声でこう言いました。「ママ、ケニーにクリスマスプレゼントを買ったよ。見たい?」 なるほど、これがその秘密だったのね、私は小さくつぶやきました。「ママ、ケニーはずっとずっと、これが欲しかったんだ。」
皿用のフキンでよく手を拭いてから、マーティーはポケットから小さな箱を取り出しました。彼がお小遣いをはたいて買ったプレゼントを、ふたを開け、じっくりと見させてもらいました。それはポケットコンパスでした。木立の中の小さな冒険者を導く小さな方位磁石です。
「とても素晴らしいプレゼントね、マーティーン。」 そう言いながらも、心には何か引っかかるものがありました。ケニーの母親が自分たちの貧しさをどう感じているか、私は知っていました。家族内でも、彼らはお互いのプレゼントを買う余裕はほとんどありません。他人にプレゼントを買うなんて論外です。返礼もできないプレゼントを息子が受け取るなんて、プライドの非常に高い母親は決して許さないでしょう。
その事を、言葉を選びつつ、ゆっくりと説明すると、マーティーンはそれをわかってくれました。
「分かっているよ、ママ、分かってるって! じゃあ、秘密にするのは? 誰か分からないようにあげたら?」
私は、どう答えていいか分かりませんでした。本当に分からなかったのです。
クリスマスイブは寒く、灰色の空から雨が降っていました。小さなわが家で、私は3人の子供と一緒に、家族や訪れる友達のためにクリスマスプレゼントを隠し直したりで、てんやわんやの騒ぎでした。
夜が来ました。まだ雨が降っています。流しから窓の外を見ると、やりきれない思いがこみ上げました。クリスマスイブに雨なんて、あまりに世俗的だわ。こんな夜に高貴な賢者が来るのかしら? 私は疑いました。不思議で素敵な出来事は、澄んだ夜空の、せめて一つは星が見える夜に起こったはずだと思えたのです。
窓から目を離し、オーブンを開けてハムと手作りパンの暖まり加減を見ていると、マーティーがドアから出ていきました。パジャマの上にコートを羽織り、その手に、色鮮やかな紙で包んだ小箱を持っていました。
マーティーは、びしょびしょの草むらを通り、電気フェンスをするっと抜け、ケニーの家の庭に入っていきました。抜き足差し足、靴音をきゅっきゅっとたてながら、階段を上がると、ちょっとだけ網戸を開け、そこにそっとプレゼントを置きました。そして深く息を吸い込んで、呼び鈴に手をやり、ぎゅっと押しました。
それからくるっと向きを変え、階段を駆け下り、庭を駆け抜けました。誰にも見つからないように大急ぎで。でも、あっと思った時には例の電気フェンスにぶつかっていました。
ショックでマーティーはグラッときて、濡れた土の上に気絶したまま寝そべっていました。体はふるえ、息も苦しそうです。でも、ゆっくりと、頼りなげに、いったい何が起こったのか理解できない様子で、おびえながら、やっとの事で家に向かい始めました。
「マーティー!」 マーティーが玄関をよろめきながら入ってくると、私たちは大声を上げました。「大丈夫?」 下唇がわなわなと震え、目には涙がいっぱいです。
「フェンスのこと、忘れてた。やられたよ!」
泥にまみれたマーティーを、私はしっかりと抱きしめました。まだ意識がもうろうとし、口から耳にかけて赤く腫れています。急いで応急処置を施し、彼を落ち着かせるために暖かいココアを持ってきました。すると、マーティーの陽気さが戻ってきました。マーティーをベッドに寝かしつけていると、彼は私を見ながらこう言いました。「ママ、僕見つからなかったよね、絶対見つからなかったと思うよ。」 そしてすぐに眠りについたのです。
そのクリスマスイブ、私は不快な気分で困惑しながら床につきました。彼は、非常に純粋な気持ちでクリスマスの務めを果たしていたのです。主が私たち全員に望まれている務め、他の人に与えるという務めを、しかも気がつかれないようにしている時に、小さな子にこんな事が起こるなんて、ひどすぎると思いが頭から離れず、その夜はよく眠れませんでした。心の奥底で私はきっと、そのクリスマスの夜が、ただのありきたりの問題だらけの夜だったこと、不思議な素敵な事なんてまるでなかったことに失望していたのでしょう。
でも、本当はそうではなかったのです。
朝には雨は上がり、日が射しました。マーティーの顔のやけどは赤いままでしたが、傷は大したことはありませんでした。私たちはそれぞれ、プレゼントを開けていました。すると、突然ケニーがドアをノックして入ってきました。マーティーに新しいコンパスを見せ、そしてそれがいかに謎に満ちた方法でやってきたかを話したくてうずうずしながら。ケニーは、明らかにマーティーのことをちっとも疑っていません。二人が話している間中、マーティーはただ顔いっぱいに笑みを浮かべていました。
ふと気づいたのですが、二人がお互いのプレゼントを見比べながら、うなずき、手振り身振り忙しく話している間、マーティーは首をかしげなかったのです。ケニーが話している間、マーティーはどうも聞こえない方の耳で聞いている様子でした。何週間かして、学校の保健婦が言明しました。「マーティーの両耳は、健全です。」 私もマーティーもとうにそれを知っていましたが…。
マーティーの左耳は、今でも聞こえています。が、どうして聞こえるようになったのか、それは未だに謎です。医者はもちろん、電気フェンスにぶつかった時のショックだろうと言います。多分そうなのでしょう。原因は何であれ、あの夜に、神が交換してくれた良き贈り物をただただ感謝しています。
お分かりですか。主の降誕された夜には不思議で素敵な事が今でも起こるのです。しかも、一段と輝くあの星について行くには、晴れた夜でなくてもいいのです。
−−ダイアン・レイナー
イエス様のための金のスリッパ
どういうわけか、クリスマスに限らず
一年中いつでも、
他の人を喜ばせると
その喜びは、自分にも返ってくる。
――ジョン・グリーンリーフ・ホイッティアー
あと4日でクリスマス。近くのディスカウントストアの駐車場は車で一杯でしたが、私はまだクリスマス気分にはなれませんでした。店に入ると気分がもっと滅入りました。最後の買い込みに来た客とそのカートで、通路がすごく混雑していたからです。
よりによって、何で今日、町に来たりしたのでしょう? それを後悔しました。頭だけでなく、足も痛みだしました。プレゼントなんていらないと言っていた人の分も買い物リストに入っていました。もし本当に何も買わなかったら傷つく事でしょうから。
何不自由ない人たちに、法外な値段の物を買う。私にとって、プレゼントの買い物は、おせじにも楽しみとは言えませんでした。
あわただしく、最後の品々をカートに一杯詰め込み、長いレジの列の最後につきました。一番人の少ないところを選びましたが、それでも、まず20分は待たされそうでした。
私の前には二人、小さな子供がいました。5歳くらいの男の子と、その妹のようです。男の子の上着はぼろぼろでした。短すぎるジーンズから、足よりもずっと大きい、これまたぼろぼろのテニスシューズが突き出ていました。あかで汚れた手には、数ドル紙幣が握られています。
女の子の方も兄と同じような服装でした。頭には巻き毛が絡み合っていて、夕食の残りがまだ顔についたままです。女の子は、金ぴかのスリッパを持っています。店中に響くクリスマス音楽に合わせ、女の子も、調子外れながらも嬉しそうにハミングしていました。
やっとの事でレジの順番が回って来ると、女の子は注意深くそのスリッパをカウンターに置きました。宝物のように扱っています。店員が金額を告げます。「6ドル9セントよ。」
男の子が、しわくちゃになった紙幣をカウンターに置き、それからポケットの中を探りました。やっとの事で3ドル12セントを出すと、「これ戻さなくちゃだね」と、堂々と言いました。「また来ます。たぶん明日。」
その言葉を聞いて、小さな女の子が泣き出しました。「でも、イエス様はこのスリッパが気に入るはずだわ。」
「ああ、今日は帰って、もう少し働こう。泣くなよ。また来れるんだから。」 そう言って、兄は妹を慰めました。
ぱっと、私は店員に3ドルを渡しました。子供たちは自分の順番をずっと待っていたのです。それになんと言っても、今はクリスマスです。
すると、小さな腕が私を抱きました。「ありがとう。」
「イエス様はきっとそのスリッパを気に入るっていうのはどういうことなの?」と私は聞きました。
男の子が、「僕たちのお母さんは病気なんだ。もうすぐ天国へ行く。クリスマスまで待たずに、イエス様の所に行くだろうって、お父さんが言ってた」と答えました。
女の子も、「日曜学校の先生は、天国の道は輝く金でできてるって言ったの。このスリッパみたいに。これで、同じ金色の道をママが歩くのって、きれいでしょう?」
彼女を見つめる私の目には見る見るうちに涙があふれてきました。「そうね。確かにそうだわ」と私は言いました。
この子供たちを使って、真に与えるという霊を思い出せてくれたことを、私は静かに、神に感謝しました。
――エルガ・シュミット
――ケリー・カーマンの寄稿
クリスマス・スカウト
あなたの神、主が賜わる地で、もしあなたの兄弟で貧しい者がひとりでも、町の内におるならば、その貧しい兄弟にむかって、心をかたくなにしてはならない。また手を閉じてはならない。必ず彼に手を開いて、その必要とする物を貸し与え、乏しいのを補わなければならない。(申命記15:7-8)
どんなに楽しそうに振る舞い、顔で笑っていても、13歳のフランク・ウイルソンは幸せではありませんでした。
確かに、欲しい物は何もかももらいました。それに、一家の伝統であるクリスマスパーティーも一応楽しみました。今年は、クリスマスプレゼントを交換し、幸福を祈るために、スーザンおばさんの所に親戚一同が集ったのです。
でも、フランクはあまり嬉しくありませんでした。最愛の兄スティーブを亡くして以来、初めてのクリスマスだったのです。兄は、無謀な運転手の車にひかれてしまいました。兄と非常に仲の良かったフランクは、兄が恋しくてしようがなかったのです。
フランクは皆にあいさつをして、両親には、ちょっと友だちの所に寄るから先に行くと告げて、スーザンおばさんの家を出ました。そこから家までは歩いて帰れます。外は寒かったので、早速もらったばかりのラシャ毛織りの上着を着ました。プレゼントの中でこれが一番気に入っていました。その他のプレゼントは全て、これまた新しくもらったばかりのソリに載せました。
それからフランクは家を出て、ボーイスカウト団のパトロールリーダーに会いたいと思って、彼の家に向かいました。フランクは、彼ならいつも僕の気持ちをわかってくれると感じていました。彼は非常に知恵に恵まれていましたが、貧しい人たちが住む町の区画にあるアパートに暮らし、臨時のアルバイトなどをしながら家族を支えていました。家についてみると、残念なことに彼は不在でした。
自宅に向かって歩いていると、小さな家々の窓からツリーや飾りが目に入りました。それから、ふとある家の窓が目に留まりました。質素な部屋の、火のない暖炉の上によれよれの靴下が掛かっています。母親でしょうか、そのそばに女性が腰掛け、涙を流しています。
フランクは、自分が昔よく、兄と一緒に靴下をぶら下げたことを思い出しました。翌朝になってみると、それはプレゼントではちきれそうになっていたものです。突然、ある思いが頭に浮かびました。その日の「善行」をまだしていない。その思いが冷めないまま、彼はその家の扉をノックしました。
「どちら様?」 あの母親のもの悲しそうな声がします。
「入ってもいい?」
「どうぞ。」 彼女はフランクを招き入れました。そして、プレゼントで一杯のソリを見て、きっとフランクがプレゼントを集めているのだと思って、「悪いけど、あなたにあげられるような贈り物はないのよ。自分の子供にあげる分さえないんですもの」と言いました。
フランクは答えました。「いえ、そうじゃないんです。このソリの中から、子供たちにあげたいプレゼントがあったら何でも取ってほしいんです。」
「まあ、神の祝福を!」 驚きつつ、でも大喜びで母親が言いました。
彼女は、キャンディーを幾つか、ゲームを一つ、それから飛行機のおもちゃとパズルを取り出しました。ボーイスカウト用のアウトドアライトを持っていった時は、思わず大声を出しそうになりましたが、それで彼らの靴下が満杯になりました。
「お名前を教えて下さらない?」 フランクが帰ろうとすると、母親が尋ねました。
「クリスマス・スカウトとでも呼んで下さい。」 フランクはそう答えました。
この家に来た事で、フランクの心は温まりました。思いも寄らなかった事に、ほとばしるような喜びが心にあふれました。フランクは、この世界には自分以外にも悲しみを味わっている人がいるんだなと思いました。アパートを出る頃には、彼のプレゼントはもう残っていませんでした。ラシャ織りの上着も寒さに震えていた男の子のものとなりました。
でも、家路に向かうフランクの心は何となく落ち着きませんでした。もらったプレゼントを全てあげてしまって、それをなんと両親に説明したらいいか、全く見当がつかなかったのです。どうしたら分かってもらえるだろうか、と悩みました。
家に着くと、早速父親が聞いてきました。 「プレゼントはどこだい?」
「あげたんだ。」
「スーザンおばさんからもらった飛行機は? おばあちゃんからもらった上着は? ライトは? どれも気に入っていたと思ったが。」
フランクは、もごもご口ごもりながら、 「ああ、と、とっても気に入ってた」と答えました。
「でもフランク、どうしてそんな風に衝動的にあげてしまったの。あなたのために時間を費やして、愛情込めて買って下さった親戚の人たちになんて説明したらいいの?」と母親が聞きました。
父親はもっと厳しく言いました。
「フランク、それはおまえのしたことだ。もうプレゼントは買ってやれないぞ。」
兄はもう亡く、家族を失望させ、フランクはもう孤独でどうしようもなくなりました。善行はそれ自体が報酬であることを知っていましたから、別にあげたことに対する報酬を期待してはいませんでした。そんな期待をするなら、それは色あせてしまうでしょう。だからプレゼントを取り返したいとは思いませんでした。でもフランクは、自分の人生に喜びが訪れる日がまた来るのだろうか、と思ったのです。さっきまではそれがあったように思えたのですが、でも、それは消えてしまいました。フランクは兄のことを思い出し、すすり泣きながら、寝てしまいました。
次の日の朝、階下に降りて来ると、両親がラジオでクリスマス音楽を聴いていました。すると、アナウンサーがこう言ったのです。
「みなさん、メリークリスマス! 今朝は、ある共同住宅の方々からの、心温まるクリスマスストーリーをお伝えしましょう。脚の悪い子が今日、新しいソリをもらいました。別の子は、ラシャ織りの上着、そして他にも幾つかの家庭がこう報告しています。昨夜、クリスマス・スカウトとしか名乗らない、プレゼントを一杯持った十代の男の子がプレゼントを配って子供たちを喜ばせてくれた、と。彼がいったい誰なのか、誰にも分かりません。でも、住宅の子供たちは、彼こそ、サンタさんの使いだと信じています。」
フランクは、父親の手が自分の肩に回ってきたのが分かりました。涙を浮かべて自分にほほえみかけている母親も見えました。
「どうして言わなかったんだ? 分からなかったじゃないか。プレゼントを全部無くしたか何かしたと思っていたよ。ああ、本当に立派だ。」
キャロルが再び放送されました。フランクの家をクリスマスで満たしながら。「…王たる神に賛美の歌を。地の人々に平安を。」
――サミュエル・D・ボーガン
「本当」のサンタクロース
人生を振り返ると、他の人たちのために何かをした時のことが一番印象に残るものだと気づくだろう。
−−ヘンリー・ドラモンド
1961年、12月23日、午前6時。ニューヨーク発ロサンゼルス行きの飛行機の中にて。明日、ホノルルの家に着くまでに、近所の子供たちに話すクリスマス・ストーリーを準備しなくては。子供たちはもうそのタイトルを、「サンタクロースは実在するのか?」と決めている。正直にいない、なんてどうして言えるだろうか? 子供たちは皆、サンタは実在すると信じているのに。
時間通りにロスに着くといいが。乗客のほとんどに乗り継ぎがあるのだから。
午後8時10分。パイロットから悪い知らせ。ロスは霧に包まれ、飛行機は着陸不能。ロスからそれ程遠くないカリフォルニア州のオンタリオ緊急離着陸場に迂回しなければならない。
12月24日、午前3時12分。問題が次々と起こる。6時間も遅れてやっとオンタリオ離着陸場に着いた。皆、凍え、疲れ、空腹で、神経がぴりぴりしている。誰も乗り継ぎの交通機関に間に合わなかった。ほとんどの乗客がクリスマス・イブまでに、家に戻れないだろう。サンタクロースの話を考えるなんて、もうそんな気分じゃない。
午前7時15分。ロス空港。この4時間の間に色々な出来事があった。オンタリオは大混乱だった。ロスに着陸できなかったたくさんの飛行機がそこに来たのだ。千人を超す乗客たちは、何とか家族に連絡を取ろうと右往左往。電信局は閉まっており、公衆電話には長蛇の列ができた。食べ物も熱いコーヒーもない。
小さな飛行場の従業員たちも、客同様、荒れ、疲れていた。何もかもうまくいかなかった。荷物は、行き先などおかまいしに、乱雑に積み上げられていた。どのバスが、いつどこに向かっていくのか、誰も知らない様子だったし、赤ん坊は泣き、女は金切り声で従業員につめより、男はぶつぶつ言い、皮肉をぼやいていた。パニックを起こしたアリの群のように、押し合いへし合い人々が荷物の所に集まった。これがクリスマス前日の出来事とは、とても信じられない。
こんな神経戦のただ中で、突然、しっかりとした落ち着いた声がした。あたかも大きな教会の鐘のように、澄んで落ち着いた、愛情に満ちた声だった。
その声の主はある女性に向かって、「さあ、奥さん、心配しないで。ちゃんと荷物を見つけますから。ラホラにも時間どおりつけますよ。万事うまく行きますからね」と言っていた。このように親切で建設的な言葉は、ここしばらく聞けなかったのに。
振り返ると男の人がいた。「クリスマス前夜」という詩から飛び出してきたような人だ。背が低く、小太りで、陽気そうな赤ら顔をしている。頭には仕事帽のような物をかぶっている。観光ガイドがかぶるようなやつだ。帽子から、カールした白髪がもじゃもじゃとはみ出している。そしておそらく、まるでトナカイのソリに乗って雪国から来たかのような、狩猟用ブーツを履いている。そして樽のような胴体には赤いセーターだ。
この人の脇に手作りカートがあった。巨大な荷箱の下には自転車用の車輪が4つ。コーヒー沸かし機もついているし、何だかよく分からない段ボール箱も積み上げてあった。
この風変わりな人が、陽気な声でその女性に言った。
「さあ、さあ、荷物を探してくるから、熱いコーヒーでも飲んでいなさい。」
彼はカートを押しながら、ここそこでコーヒーをあげたり、威勢よく「メリークリスマス!」と声をかけたり、「また手を貸しに来ますからね」と言いながら、荷物を探しに行った。そして乱雑に散らばった荷物の中から、ついに、その女性の荷物を見つけると、それをカートに乗せて彼女に言った。「さあ、こっちだ。ラホラ行きのバスに乗せてあげるよ」と。
クリス・クリンゲル(私は彼をそう呼んでいました)は、彼女がちゃんと落ち着くと、場内に戻って来た。いつの間にか私も、コーヒーを手渡すのを手伝っていた。バスの発車までまだ一時間あったから。
クリスは、陰険だったその場に光をもたらした。彼は、なぜか人を笑わせる事ができた。コーヒーをあげ、子供の鼻をかませ、腹から笑い、クリスマスソングの一節を歌いながら、パニックに陥っている客を落ち着かせ、的確なヘルパーとなっていた。
ある女性が気を失って倒れた時、どうしていいか分からずにいる人がきを押しのけて、彼は助けに行った。段ボール箱の一つから気付け薬と毛布を取り出した。そして彼女の意識が戻ると、男性3人に助けを求め、ソファーの方に彼女を連れて行き、スピーカーで医者を呼ぶように言った。
やけに手際が良い小太りの、この風変わりな人は一体誰だろうと不思議に思い、彼に聞いてみた。「どこの会社の人ですか?」
「若いの、あの青いコートを着てる子が見えるかい? あの子は迷子になっているよ。このチョコバーをあげて、そこを動いちゃいけないって言ってあげてくれ。動き回ったら、ママは絶対に見つけられないよ。」
私は言われたとおりにしてからまた、「どちらの会社の方ですか?」と聞いた。
「どうでもいいじゃないか、私はどこの会社の者でもない。ただ楽しみで、これをしているんだ。毎年12月になると、2週間の休暇を、こうやって旅行者の手助けをして過ごすんだ。この忙しい時期には、何千という人が助けを必要とするんだ。ほら、あそこを見てごらん。」
彼が指し示す方を見ると、赤ん坊を抱いた若い母親が目に涙をためている。それから彼は私にウインクし、帽子を斜めにかぶり直して、彼女たちの方へカートを押していった。母親はスーツケースの上に腰掛け、赤ん坊をあやしていた。
「おやおや、若奥さん、こりゃまたえらくかわいい赤ん坊だね。一体どうしたのかね?」
しゃくり上げながら、その若い女性は、夫ともう一年会っていないなのだと言った。これからサンディエゴのホテルで会う予定だったのに、自分がどうして遅いのか理由も分からず、きっと心配しているだろう。それに赤ん坊もお腹をすかせている、という事だった。
クリス・クリンゲルは、彼の手押し車から暖まったミルクの入ったほ乳びんを取り出し、「ほら、もう大丈夫。万事オーケーだ」と言った。
彼は、私も乗る予定だったロサンゼルス行きのバスに彼女を案内しながら、彼女の名前とサンディエゴのホテルの名前を書きとめた。そして、旦那さんには自分から伝えておくと彼女に約束した。
「神の祝福を。あなたにも、メリークリスマス。素晴らしいプレゼントがありますように」とその女性は言いながら、バスに乗った。赤ん坊は母親の腕の中で眠っていた。
クリスは帽子をちょいとあげ、「ありがとう、奥さん。もうプレゼントはもらったよ。この世で一番のね。奥さんがくれたんですよ。ホー、ホー」と言った。そして人がきの中にまた何かを見つけ、そっちへ行こうとした。「あのご老人が大変そうだな。では、奥さん、あっちに行って、またプレゼントを受け取ってこなくては。」
彼はバスを降りた。バスの発車まで数分ありそうだったので、私も続いて降りた。彼は私の方を向いて言った。「ああそうだ、君もこの乗り合いでロスに行くんだろう?」
「ええ。」
「そうか。あんたは素晴らしい助手だった。だから君にクリスマス・プレゼントがある。あの女性と一緒に行って、彼女と赤ん坊の世話をしてあげるんだ。ロスに着いたら、…」と言って例の紙を取り出し、「彼女の旦那さんに電話をしてあげてくれ。サンディエゴのこのホテルだ。そして、奥さんが遅れると伝えとくれ。」
言わずと知れた私の答など聞かずに、彼は行ってしまった。私は、その女性の隣りに座り、赤ん坊を抱いた。窓の外を見ると、クリス・クリンゲルの樽のような赤いセーター姿が、群衆の中に消えていくのが見えた。
バスが動き出した。とても気分が良かった。家のこと、そしてクリスマスの事を思った。近所の子供たちに、「サンタって、本当にいるの?」と聞かれたらどう答えるか、その答が見えた。だって、私は彼に出会ったのだから。
――ウィリアム・J・リダラー