クリスチャン・リーダーシップ・トレーニング・プログラム

CLTP30

 

力と保護

 

ホワイトアウト

メリールー・サワーズ

 

 ロスは、町には行かない方がいいと言いました。凍てつくような北風が吹きすさび、私の毛皮の帽子は逆立っています。おまけに、どんよりと曇った不吉な空模様。まさに吹雪の前触れです。12月の北極圏北部は、日中も太陽が地平線から昇ることなく、うす暗いままです。でもホサム入り江からコツビューまではわずか24キロしかなく、その町には何度も行ったことがありました。暗くなる前に絶対戻ってこれると思ったのです。

 当時、私は妊娠3ケ月半でしたが、ロスと一緒にスノーモービルを102キロ運転して、ノアタック川沿いで野営しながら狩りと漁を営むロスの両親のところに行きました。翌日のクリスマスイブには、朝から北のノアタックにあるエスキモーの村に行く予定でした。そこでは、私の両親が狩りと漁をして食糧を自給しています。でも、コツビユーの店に大切なクリスマスプレゼントを取りに行くのを忘れてしまったのです。クリスマス休暇でどこも店は閉まっています。ノアタックに行く前に、プレゼントを取りに行かなくては。

 ロスは地平線を見ながら言いました。

「だめだよ。吹雪になりそうだ。」

 でも私が言い張ったので、しぶしぶ承知しました。一緒に行くと言ったのですが、私が断りました。当時17歳だった私は、もう大人だから、自分のことは自分でできると言ったのです。

「風を頼りに行けよ。」と、ロスが言いました。

「出る時に鼻の左側に風を感じるなら、戻ってくる時は風を右側で感じているはずだよ。」

 ゴーグルをつけ、スノーモービルのエンジンをかけると、ロスに手を振りました。

「オーバーフローに気をつけろよ。」 後ろから、ロスが叫ぶのが聞こえました。

 オーバーフローとは、表面に張った氷が溶けかかっていて、下の水が流れ込んでくる危険なスポットのことです。氷が光っているのと間違えやすいので、北極ウサギのウナのように確実にスノーモービルを捕らえるのです。氷まじりの水のワナにかかったドライバーは、低体温症で数時間以内に死んでしまいます。けれども、私はあまり心配していませんでした。何十回も、オーバーフローを難なく乗り越えたことがあるからです。

 15メートル間隔で木の枝につけてある目印を、注意深く見ていきました。雪は容赦なく顔に吹き付け、目を細めていなければなりませんでした。

 ホサム入り江に行く途中で、クリスマスイブのお祝いのことなど考えていました。スノーモービルのハンドルを握りながら、目の前に広がる凍った入り江をすべるように横切りました。その風景は美と神秘に満ちています。特に今のように、太陽が何ケ月も隠れて、気温がマイナス80度近くまで下がる時期はそうです。両親が住むイヌイット(エスキモー)の故郷を見ると、いつも心が和みます。

 薄明かりの中を進む私の目の前には、枝の目印が続いていました。35分ぐらいたった頃、フロントガラスに氷のかけらがあたり、スノーモービルの下からガリガリという不気味な音が聞こえました。下を見ると、スノーモービルの車台が溶けかかったぶ厚い氷にはまっています。

「オーバーフローだわ!」

 素早くハンドルを右に切って、上昇してくる氷のかたまりから離れました。それから氷の道の脇にスノーモービルを停めましたが、エンジンは切らずにおきました。恐怖で顔はこわばり、茫然としていました。

 冷たい風はますます勢いを増し、凍った入り江の表面を雪のベールが舞っています。吹雪が近づいていました。

「早く戻らないと・・・!」

 スロットルを開けて、ロスの両親の所に引き返そうとしました。

 最初の枝の目印が見えましたが、雪が吹き込んできたため、それも見えなくなりました。スノーモービルの前のスキーすら見えません。

 ホワイトアウトの世界に閉じこめられてしまったのです。視界はほぼゼロです。ゴーグルをおおう雪をぬぐって、猛吹雪の中、道を急ぎました…が、氷のかたまりにぶちあたってしまいました。

 氷丘脈です! 海からの冷たい風が氷盤に吹きつけられてできるのですが、それは私が道から大きく外れ、海に近づいているしるしでした。

「主よ、どの方向に行けばいいのでしょう?」

 ロスの言葉が脳裏をよぎりました。「風を頼りに行けよ。」

 でも、手遅れです。完全に迷ってしまったのだから。

 ここから出て、平らな場所に行かなくてはいけません。けれども、すぐにまた別の氷丘脈にぶつかってしまいました。

「少し止まって、どうすればいいか考えなくては。」

 エンジンを切ると、いろいろな事が頭の中を駆けめぐりました。どうすればいいのでしょう。「愛する主よ、正しい判断ができますように。」

 少しでも寒さをしのぐため、スノーモービルを風向きに垂直になるように停めました。エンジンを切り、まだ混かいエンジンカバーにもたれて座りましたが、数分もすると体が凍え始めました。急いで立ち上がって、雪の上をざくざくと駆けてみました。少しは混まったものの、ずっとこれを続けていくわけにはいきません。

 そんな時、あるアイデアが頭に浮かびました。

「イグルーを作ろう! スノーモービルの同りに雪の隠れ場を作って、吹雪が止むのを待とう。」

 元気づいた私は、ブーツのかかとやつま先で雪を蹴り、固まりをブロックの形にして、スノーモービルの周囲に積んでいきました。ハンドルやシートの上や、サスペンションやエンジンのまわりにも置きました。

 それが終わった頃には、あたりは真っ暗でした。くたくたになった私は間に合わせのイグルーの中で横たわりました。屋根はなかったものの、壁が冷たい風から私を守ってくれました。

「主イエス様、正しい判断をするよう助けて下さって、ありがとう。吹雪が止むのを待つ間、一緒にいて下さい。」

 その後、ぐっすり眠ってしまいました。何時間かたって、雪が体を毛布のようにおおっているのに気づきました。顔まで埋まってしまわないよう、左腕だけは、雪から出しておくようにしました。吹雪は飢えた狼のように、以前にも増して不気味な書を立てていましたが、私は再び眠りにつきました。

 突然、息苦しさで目が覚めました。左腕を残して、体全体がすっぽりと雪に埋まっていたのです。左手で何とか呼吸ができるよう雪を取り除きましたが、指が焼けつくように痛みます。

「イエス様、指が凍り始めています。どうか温かくして下きい。」

 即座に、指先から肩にかけて温かいものが流れました。指の痛みはおきまり、私は再びうとうとと眠り始めました。時には自分が死んでしまうと思い、はあはあと必死に息をすることもありましたが、その度に、子供の頃、母が教えてくれたお祈りが浮かんできて、それを祈るのでした。

「今、眠りにつきます。イエス様、私の魂をお守り下さい…」

 そして、この賛美歌が幾度も心に響き渡りました。

「神が世話をして下さる。いつも、いつまでも…」

 顔の回りの雪が溶けているのを感じ、日が覚めました。まだ左腕は大丈夫です。雪を払いのけ、朝の新鮮な空気を吸い込みました。

 早朝で、冷たい風は止んでいます。雪が静かにちらついているだけです。けれども、私の体は氷となった雪の下に埋もれていました。そこから出ようと体をねじったり、押したりしましたが、びくともしません。そんな時、かすかな振動が地面に感じられました。

 冷たい風にのって、エンジンの音が聞こえました。氷の上を横切っています。

「スノーモービルだわ! こっちにやってくる!」

 男たちの声も聞こえてきました。心配と悲しみが混ざった声です。私が死んでいるのか生きているのかわからなかったからです。男たちが雪をどかし、氷を砕き始めると、イヌイット語を話す父の声がします。私は思わず叫びました。

「お父さん!」

 父の強い腕が私をひっぱりあげ、私はついに雪の中から救出されたのでした。父の凍りついた顔は喜びでくしゃくしゃでした。

「メリー!」と叫ぶと、父は私を抱きしめました。

 その日はクリスマスイブでした。次の数日間、コツビューの病院に入院していたものの、私の心は喜びと感謝の気持ちでいっぱいでした。

 あのクリスマスは最高のクリスマスでした。イエス様が私とお腹の赤ちゃんをどうやって守って下さったかを、沢山の人に伝えることができたからです。そして、あの真っ暗な吹雪の夜にイエス様が一緒にいて下さったことを。

 

 

テーブルクロスの奇跡

 

リチャード・バウマン

 

  それは、1948年の11月半ばのことでした。この話は、情熱でいっぱいの若い牧師夫妻が、初めて自分達の教区に着任した時から始まります。教会の建物は、建築当時は、その高級な住宅街でもひときわ立派でしたが、長い歳月を経て、教会も老朽化し、周辺地域もすたれてしまいました。

 地域全体に活気をもたらすのは無理でも、教会の建物だけなら何とかなるでしょう。夫妻は、クリスマスまでにあの優美さを少しでも取り戻せればと、額に汗して、朝から晩まで働きました。

 1ヶ月しかないというのに、することは山ほどあります。床をみがき、ワックスをかけ、壁にペンキも塗りました。教会は、クリスマスが近づくにつれ、その輝きを取り戻したかのようです。夫妻は大満足でした。

 ところが、クリスマスまであと二日という時に暴風雨に見舞われ、教会の古い屋根はこの激しい嵐に耐えられず、あちこちで雨漏りしました。

 そして、よりによって祭壇の真後ろの古いしっくいの壁が、決定的な被害を受けたのです。乾いたスポンジのように雨水を吸い込んだ壁は、抜け落ちて、大穴が開いてしまいました。

 クリスマスイブの礼拝までに修理するのはとうてい無理です。牧師夫妻は、びしょぬれになったしっくいをはがしながら、がっくりと肩を落としていました。建物は、ここにやって来た時よりも、さらにみじめな状態に見えました。

 その夜、二人はチャリティー・オークションに出席しましたが、心は沈んだままでした。そんな時、古いテーブルクロスが競りにかけられたのです。一目見るなり、牧師さんの胸は踊りました。

 そのテーブルクロスはたいそう大きく、教会の壁の穴をふさぐことかできます。しかも、誰かの手製らしく、きれいなレースに金の刺繍がほどこしてあって、教会の壁を見事に飾ってくれるでしょう。その美しいテーブルクロスは、6ドル50セントで牧師さんのものとなりました。

 クリスマスイブの日は、よく晴れていましたが、北風の吹き荒れる寒い日でした。教会の扉を開けると、年配のご婦人が歩道の端に立っているのが見えました。バスを待っているようですが、少なくとも30分は待たないといけないでしょう。牧師さんは、その婦人が寒さの中で待たなくてもいいよう、「教会の中で待ちませんか」と、声をかけました。

 婦人は、たどたどしい英語でお礼を言ってから、この市の反対側に住んでいると話しました。今日はたまたま仕事の面接のためにここまで来たそうです。お手伝い兼ベビーシッターを募集していたあるお金持ちの家に行ったのですが、この婦人は雇ってもらえませんでした。戦争難民として、数年前にアメリカに来たばかりで、英語が上手に話せなかったからです。

 牧師さんは、ちょっと仕事がありますので、と言って、穴をふさぐために祭壇のほうに向かいました。婦人はもう一度、牧師さんにお礼を言い、会衆席の方へ歩き始めました。

 さて、牧師さんが、テーブルクロスを広げ、壁につけていると、突然、婦人が叫びました。

「それ、私のだわ! 晩餐会用のテーブルクロスよ!」

 つかつかと前方に来ると、あ然とする牧師さんに自分のイニシャルの刺繍を見せました。そして、興奮した面もちで次のような話をしたのです。

「戦前、夫と私はベニスに住んでいましたが、ナチスを嫌っていたので、スイスに逃げることにしました。」

 それで、スイスに逃亡するのがナチスにばれないように、夫は彼女を先に行かせ、荷物を送ってから、自分もすぐに来ると約束したのです。

 けれども、夫の姿を見たのはそれが最後となりました。荷物もスイスに届きませんでした。

「後で、夫はナチの強制収容所で亡くなったと聞かされました。」

 涙をこらえながら、婦人は言いました。

 牧師さんも、涙をこらえながら、そんな大切なテーブルクロスなら、ぜひ持って行って下さい、と言いました。婦人は、しばしの沈黙の後、その申し出を断りました。教会の壁に美しく映えていたし、一人暮らしなので晩餐会などすることもないだろうと言って。それから、バスに乗るために教会を出ました。

 やがて、クリスマスイブの礼拝が始まりました。あのテーブルクロスがひときわ光を放ち、金色の刺繍が何千もの小さな星のように輝いて、華やかな雰囲気をかもしだしています。礼拝が終わると、人々は口々に教会の美しさをほめながら帰っていきました。

 けれども、一人の年配の男性はいつまでもそこに座っていました。ついに扉に向かって歩き出すと、牧師さんに賛辞の言葉を述べた後でこう言ったのです。

「でも、変ですね。私の妻があれにそっくりな晩餐会用のテーブルクロスを持っていたんです。」

 そう言って、壁のテーブルクロスを指さしました。

「でも、それはずっと昔、私たちがベニスに住んでいた頃の話です。妻は戦争で死んでしまいました。」

 寒い夜でしたが、何か冷たいものが牧師さんの背筋をさっと走ったのは、寒さのせいではありませんでした。深呼吸をして心を落ち着けた後、牧師さんは、その朝、教会に来た婦人のことを話しました。

「じゃあ、妻は生きているんですか?」

 男性は驚いて、牧師さんの手をギュッと握りしめました。頬には涙がつたっています。

「どこに住んでいるんですか? どうやって、探せばいいのでしょう?」

 喜んだのもっかの間、牧師さんはハッとしました。そうです、どうやって探せばいいのでしょう?

 皆目、見当がつきません。一瞬、心が沈みました。せっかくこの男性に希望をもたせておきながら、から喜びに終わらせるのでしょうか?

 その時、あの婦人が面接に行った家の名前を思い出したのです。急いで電話をかけ、その婦人の名前と住所を知りたいわけを説明しました。

 数分後には、牧師さんは車を走らせていました。そうして、二人の男性はついに婦人のアパートにやって来たのです。不安と興奮が入り混じる手で、扉をノックしました。扉が開くまでの数分が、まるで数時間のように感じられました。そして、ついに扉が開かれた時、牧師さんは、この奇跡のクライマックスを見たのです。

 十年近くも離れ離れになっていた夫婦は、信じられないといった表情で、お互いをじっと見つめました。まばたきしたら、相手が消えてしまうのではないかと恐れているかのように。そして、喜びの涙を流しながら、しっかりと抱き合ったのでした。

 この十年間の苦しみや孤独は消え去りました。夢見ていたものの、実現するなど思っていなかった瞬間が、奇跡的に訪れたのです。死んだと思っていた相手と再び逢えるなんて。

 それは、奇跡か、運命のいたずらか。あるいは、信じられないような偶然の数々が同じ時に同じ場所で重なったのでしょうか? この話については様々な意見がありますが、大勢の人にとって、これを偶然の一致とか運命のいたずらというのは、この感動の再会を物語るには不十分です。そこで、人々はこの話を「クリスマスイブのテーブルクロスの奇跡」と呼ぶことにしたのです。

 

 

クリスマスの奇跡

 

ジョーン・ウエスター・アンダーソンによる編集

 

エリンの天使たち

 

 キャシーとマイク・フェルクの娘、エリンは生まれた時から病気がちでしたが、かかりつけの医者は両親の心配を受け流すだけでした。けれども、1980年12月24日の朝、2歳のエリンはいつになく元気がなく、目のまわりには大きなくまができていました。キャシーは、別の小児科医に詰てもらうことにしました。

「エリンは重い病気にかかっています。」

 検査を終えた医者がこう言いました。「クリスマスは家で過ごしてもいいですが、26日の朝には病院に連れてきて下きい。」

 驚いたキャシーとマイクは、親戚や仲の良い友人たちに、このニュースを伝えました。エリンのおばあさんは、エリンの赤いパジャマに小さな天使をピンでとめました。クリスマスの礼拝で、神父は会衆に、祈りによって「この幼な子のために戦うように」求めました。後で、近所の人達も、病院で交代で祈り続けました。診断結果は良くありませんでした。エリンにはめずらしい血液疾患があり、患者は大抵、死亡してしまうそうです。輸血が始まりましたが、その結果に希望を抱いている人はいませんでした。

 ぐったりとしたエリンを診察した後で、医者は首を横に振りました。

「心の準備をしておいて下さい。もう、あまりもたないでしょう。」

 キャシーはエリンの弱々しい手をしっかり握りしめ、祈りました。

「神様、どうか、エリンを助けて下さい。お願いします!」

 その夜、エリンの命はそのまま消え入りそうでした。顔色は悪く、あらい息をしています。キャシーは片時も娘のそばを離れようとはしませんでした。キャシーには、その小さなベッドしか目に入りません。そして、何度も何度も、祈りを繰り返していました。

「神様、どうか、お願いです…」

 夜が明ける直前、突然、エリンか目を開けたかと思うと、こうささやきました。

「マミー、きらきら光ってる!」

 エリンはキャシーの頭の上の方を見つめていました。キャシーは振り向きましたが、何も見えません。

「何が光ってるの? 何が見えるの?」

 エリンは興奮しながら、こう言いました。

「マミー、ベルがいっぱい…!」

 今度はもう少し大きな声で、「ベルがいっぱいあって、きらきら光ってる!」と言いました。

 キャシーにはベルの音など聞こえません。一体、どうなっているのだろう。鳥肌が立ちました。

「きれいな女の人たち、いる。マミー、見える?」

 エリンは小さな手をあげて、部屋のすみを指さしました。エリンはうれしそうです。キャシーは怖くて、振り向くことができませんでした。

「エリンは天国を見ているのかしら? 娘を連れていくために、天使たちが下りてきたのかしら?」

 そうではありませんでした。どういうわけか、エリンの意識は前よりもはっきりしていて、こんなに元気なのは数ヶ月ぶりです。

「顔色も良くなったんじゃないかしら。」と、キャシーは不思義がりました。

 数日後、検査の結果、エリンの血液は完全に正常に戻り、退院することになりました。16歳になった今でも、毎年、血液検査を受けますが、何の異常もありません。キャシーはこう証言しました。

「祈った通りに、神さまがエリンをいやして下さったのだと信じています。これ以上に素晴らしい、天国からのクリスマスプレゼントなんてあるかしら?」

 

 

 

見えないトラックドライバー

 

 長距離トラックドライバーの訓練を終えたメリー・ベス・コールは、夫のウェインとトラックに乗っていました。

「しばらく運転を代われるかい?」

 あくびをしながら、ウェインが尋ねました。「少し眠りたいんだけど。」

「いいわよ。」

 悪天候での運転だけが気がかりでしたが、インディアナ有料高速道路には澄み切った冬の空が広がっていました。ウェインはあっと言う間に眠ってしまい、メリーは大型トレーラーをたった一人で運転することになりました。でも自信はあります。

「でも、本当は、そうじゃないわ。」

 メリーはずっと右車線を運転しながら、思いをめぐらせました。もう長い間、自信など抱いたことがありません。メリーの人生は辛いことの連続だったからです。メリーはよく、「神はどこ? 私を見守っているのかしら? 私のことを考えてくれているのかしら?」と思ったものです。クリスマスが近づくにつれ、メリーは神をもっと信じたいと思いました。

 突然、不安になりました。

 「雨かしら?」

 空が暗くなり、雨が激しくフロントガラスに打ちつけるにつれ、メリーの心臓の鼓動も高まります。もう運転できない。早く、ウェインを起こさないと! けれども怖くなったメリーは頭の中が混乱していました。

「ヘイ、メトロポリタン! かっこいいじゃねえか!」

 突然、男性の声がCB無線から聞こえてきました。メリーのトラックには、「メトロポリタン」と書かれているのです。

「ありがと。あんた、どこ走ってるの?」 震える声で尋ねました。

「さっき、追い越させてもらったよ。『ライダーパイ』っていうんだ。」

 不思議です。メリーは追い越すトラックには注意を払っていましたが、「ライダーパイ」と書いたトラックなど見ていません。

「どこを走っているのかしら?」

 前方を見ましたが、トラックなど一台もありません。ひょっとしたら、ひどいどしゃ降りの中で見逃したのでしょうか。

「ライダー、調子はどう?」と、メリーは尋ねました。

 二人は、CB無線でよく交わすような気楽な会話を始めました。けれども、メリーはこの男性の言葉に温かさを感じました。運転席全体に落ち着いた雰囲気を運んでくれているかのようです。悪天候にもかかわらず、恐れが段々なくなり、元気が出てくるのを感じました。その後、何時間もそうやって話し続けました。自分の前を走っているようなことを言っていたものの、トラックの影も形も見えないというのは変だなと、メリーは思いました。

「じゃあ、どうして声だけ聞こえるのかしら? それに大抵は、他のドライバーも無線の会話に入ってくるものなのに、今日は私たちしか運転していないみたいだわ。」

 やがて、雨が小降りになりました。

「じゃあ、俺はそこでお先に失礼するよ、メトロポリタン。気をつけてな。」

「ありがと!」

 出口に近づくと、あたリー面が見渡せました。今なら絶対、ランプを下りる「ライダーパイ」の姿が見えるはずです。メリーは目をこらして見ていましたが、トラックは1台も通っていません。

 クリスマスは喜びの日で、素晴らしい神の約束で満ちていました。人生には辛い時もあるけれど、神とその天使たちはいつも自分を見守ってくれる、メリーはそれを知ったのでした。

 

 

 

生きた毛布

 

 コロラド州救助隊の隊員であるパティとダン・バーネットが遭難者についての連絡を受け取ったのは、午後11時でした。ライアンという16歳になる少年が、父と雷鳥狩りをしている間にはぐれて、行方不明になり、ジーンズに薄いTシャツという軽装で、この標高数千メートルのロッキー山脈のどこかで遭難しているのです。窓から外を見ると、山々は霧でおおわれ、みぞれが降っています。

「そんな軽装では、今晩、もたないわ。」

 パティは少年の安否を案じていました。

 救助隊が現場に到着し、パティは捜索犬のヘイスティーと捜索を開始しましたが、事態の深刻さをひしひし感じていました。

「みぞれは雪に変わり、風も強かった。」 その時のことを彼女はこう話しています。「ライアンの濡れた服は、もう凍っているとしか考えられませんでした。」

 ヘイスティーはライアンのにおいを嗅ぎつけ、そのまま進んでいきました。パティーは、頭にヘッドランプをつけていましたが、それでもよく見えません。他の救助隊員の声や、州軍のヘリコプターの音は聞こえましたが、ライアンは依然、行方不明でした。

 湿地を歩きながら、パティは家ですやすや寝ている自分の子供のことや、隠しておいたクリスマスプレゼントのことを考えました。そして、ライアンのことが心配で気が狂いそうな家族のことを。

「神様、どうか私たちがライアンを探し出せるよう助けて下さい。ライアンを温かく保って下さい。」

 何時間もたって、疲れ切った捜索隊は希望を失いかけていました。ところが、夜明けの直前にパティは信じられないような二ュースを聞いたのです。ライアンが生きていたのです! 凍傷にもかからずに! でも、どうして?

 後で救助隊に囲まれながら、少年は状況を説明しました。闇の中で迷子になり、体ががたがたと震え始めたこと。(これは低体温症の初期症状です。)木の根元に横になり、深い眠りについたことを。山は氷点下に近い気温だったので、凍え死んでもおかしくなかったでしょう。けれども、不思議なことが起こったのです。ライアンは、夜中に目覚めると、体が温かく、しかも心地よいのを感じました。驚いて脇を見ると、ライフルが足下に置いてあるのにもかかわらず、2匹のオオジカが両側に横たわり、いてつくような寒さからライアンを守っていたのでした。

 救助隊はそれを聞いて驚きました。オオジカは普通、そんなことをしないからです。けれども、ライアンが元気で発見されたことは他にまるで説明がつきません。後で、ライアンが発見された木の下にオオジカがいた跡が見つかりました。パティは自分の祈りが答えられたことを知って、喜びながら帰路についたのでした。

 

 

思いがけないプレゼント

 

 長年、ビビアンとレニー・モートンは、二人を歓迎してくれる町ならどこへでも行って、宣教活動を行いました。ほとんどの宣教師がそうですが、モートン夫妻も何も報酬は求めませんでした。人を通して、神が与えられるもので生活したのです。余分なものがあるなら、貧しい人達に与えました。

 ある年、ビビアンとレニーはミズーリ州スプリングフィールドの通りの突き当たりにある小さな家に住んでいました。その年は生活が苦しく、クリスマスが近づくにつれ、ビビアンの信仰は少し揺らいでいました。彼女を励ますような何かが必要でした。ビビアンはレニーにこう言いました。

「もし、余分なお金が入ったら、クリスマスには赤い水玉の白いマフラーがほしいわ。」

「変わったお願いだな」と思ったものの、レニーはビビアンのために買ってあげたいと思いました。けれども、お金は底をついていました。それどころか、家には食べる物さえない有様です。どうやって、やっていけるのでしょうか?

 さて、クリスマスの早朝、誰かが訪ねてきました。ドアを開けると、一度も会ったことのない年配の女性が立っています。その人は、ビビアンがよく貧しい人達に食べ物を与えていたのを知っているようでした。

「何か朝ごはんを食べさせてもらえますか?」

「今日はだめだわ。何もないの。」

「もう一度、見てみれば?」と言うなり、その婦人は家の中に入り、キッチンの椅子に座りました。そこで、ビビアンが小麦粉の缶を開けると、小麦粉が1カップ分あるではありませんか! 前の日には空っぽだったのに。ビビアンは手早く四つの小さなビスケットをオーブンに入れました。焼いている間、紅茶の箱を見てみると、スプーン1杯分の紅茶の葉が残っていました。何てことでしょう! ビスケットは大きくふくれ、小麦色に焼けて、とてもおいしいホットビスケットができあがりました。二人で一つずつ食べると、その婦人は、あとはレニーに持っていってあげなさいと言いました。レニーはまだ寝ていたのです。ビビアンが言われた通りにすると、ドアの閉まる音が聞こえました。振り向くと、キッチンにはもう誰もいません。ただテーブルに小さな包みが置いてあるだけです。

「まあ、忘れていったんだわ!」

 ビビアンはその包みをつかむと、ドアをあけて外を見ましたが、通りには誰も歩いていません。でも、包みを開けてみると、クリスマスにこの訪問者を送って下さったのが誰だったかがわかりました。その中には赤い水玉の白いマフラーが入っていたのです。

 

 

テニスシューズをはいた天使

 あれは、2年前のクリスマス頃だった。そり遊びをしていた少年をひいてしまったのは…。ひどい吹雪の日だった。あの子は、急な農場の坂から、ちょうど丘を越えたばかりの俺のトラック目がけて、まっすぐ飛び込んできたんだ。視界がひどくて、急いでハンドルを切る前にちらっと見えただけだったが、眼鏡の奥のおびえた目つき、青いパーカーが今も目に焼き付いている。

 すぐに、バリバリというイヤな音とにぶい悲鳴が聞こえた。それから、トラックが歩道の雪だまりを突っ切って、道路の脇の急な斜面を横滑りし、ほとんど横倒しになった。あたり一面に、食料品などが散らばっている中、俺は十秒ぐらい座ったままでいただろうか。それからシートベルトを夢中で外すと、足でドアを蹴り、ひざまで積もった雪をかきわけながら土手をよじ登った。少年が道の真ん中で倒

れ、おびえていた。

「足が、足が動かない。」と、小声で叫んだ。

 かがみながら、頭に二つの思いが浮かんだのを覚えている。一つはこの子を車道から運び出さなければ、二人とも次に来る車にはねられちまうということ。もう一つは、俺がトラックでひいちまったから、この子は死ぬか、少なくとももう歩けなくなるだろうということだった。

 しんしんと雪が降り積もる中、俺はそこにひざまずいていた。すると、俺の口から、優しい父親のような言葉が流れ出てきた。

「きっと、大丈夫だからな。だが、まず道からどかないと。体の力を抜くんだ。うまくいくから。」

 そう言いながら、実は自分にも言い聞かせていたのだった。その子は目を閉じたまま、うなずいた。ケガした体をそっと抱いて、路肩へ動かした。動かすのは危ないこともわかっていた。たとえば粉々になった背骨をもっと折ってしまうとか、残った筋肉組織や神経にダメージを与えてしまうなどするからだ。だが、二人とも除雪車にはねられてしまうよりはずっとましだ。

「指、動かせるかい?」

「うん。」

 少年は指を動かせてみせた。雪が少年にかかり、その紅潮した顔の上で溶けた。ショックで気絶するのではないかと、目を見つめたが、意識ははっきりしていた。12、3歳だろう。ハンサムだし、しっかりしてる。

 すると、後ろから泣き叫ぶ声が聞こえた。振り向くと、大柄な女性がコートも着ずに、雪をかきわけながらやって来た。二人の子供がその後に続いている。

「まあ、まあ、何てこと!」

 突然、雪に足をとられたようで、車道の端の吹きだまりの中にどさっと倒れた。その姿はお世辞にも優雅とは言えない。助けに行ってやるしかない。手を伸ばして、そこから引っぱり出すと、事故に驚き、心配する母親の顔があった。

 俺たちは抱き合ったような格好になり、足元が滑りやすいので、まるで二人でメヌエットでも踊っているかのようだった。そしてお互いの目をのぞいたかと思うと、後ろから、か細い声が聞こえた。俺たちは、さっと少年の方を振り向いた。

 立っている。

「ママ、もう大丈夫だよ。」 少年は背中をこすりながら言った。

「もう大丈夫だと思う。」

 少年の名はマシューと言った。父親は教会の管理人だった。温かなキッチンの椅子に座り、べそをかいていた。

「どうして泣いているの、マシュー?」と母親が尋ねた。

「どこか痛いの?」

「ううん。」 弱々しく少年が答えた。「ただ…どうして死ななかったのかなって思って。」

 その後、妹のローズが、あの時、学校が終わって、裏の牧場までそり遊びに行ったが、前庭の農場の坂の方がずっとスリルがありそうだったので、そこで滑り始めたと説明した。子供達は、その下に道路があるから危ないなんて、考えもしなかったのだ。

「僕、死ぬところだったね。」 ボーっとした様子でマシューが繰り返した。「どうして、死ななかったんだろう。」

「俺たち、両方ともすっごくラッキーだったのさ。」と、俺が言うと、

「いいえ、それ以上のものよ。奇跡だわ。」と母親が答えた。

 後で、レッカー車が俺のトラックを引っ張り上げるのを見た。タイヤ二つはパンクしていて、フェンダーは曲がっていた。

「どうやって、あんたがあの子をうまくよけたのか、わからないねぇ。信じられない。」と、ブレーキ跡とそりの跡が交差する地点を指さしながら警官は言った。

「奇跡みたいなもんさ。」と、レッカー車のドライバーが口をはさんだ。

 俺は、マシューと母親にさよならを言いに中に入った。マシューはもう横になっていた。母親は俺に何度もお礼を言い、抱擁までした。そして泣き始めた。俺は、みんなが大丈夫かどうか知りたいから、また電話するか、会いに来ると行った。

「あなたは大丈夫?」と、母親は俺を見ながら言った。

「ああ、大丈夫だよ。」

 だが、本当は大丈夫じゃなかった。それどころか、俺の人生始まって以来、こんなにおったまげたことなんてなかった。警察が何と言おうと、あの子がトラック前部の下に滑ってきたのを俺は見たんだ。それなのに、どういうわけか背中に打ち傷が残っただけだった。一体、どうなってんだろう。

 奇跡があると信じていたなら、自分だって、それは奇跡だと言っていたことだろう。

 家に帰って、かわいらしい野鳥が庭のえさ箱に急降下する姿を何時間も眺めていた。何もする気が起こらなかった。女房は子供のマギーとジャックを買い物に連れて出ていた。一人座っていると、頭の中で何度も事故の光景が繰り返された。

 事故の前、俺はやけに心が落ち着かなかった。終幕のカーテンのように夜が長くなり、1年の重大事件や天災のニュースの特集番組ばかりテレビで放映される冬至の頃になると、決まって一抹の不安を覚えるんだ。女房はこれを、「例年のクリスマスの危機」と呼んでいる。

 あの吹雪の朝、俺はまだ落ち込んでいた。どうしてかはわからない。というわけで、吹雪が最高潮に達した時、そんな自分に嫌気がさして、店に買い物に行くことにした。人気はなく、一人しかいない店員は年取った女の人の相手をしていた。その人は、雑誌と観葉植物を買っていて、長靴ではなくテニスシューズをはいていた。そして、俺に話しかけてきた。

「きれいな雪景色ですね。でも、雪が降っているというのに、スピードを出して運転する人もいますからね。」

『いかれた婆さんめ』と心の中で思ったが、顔ではほほえみ、全くその通りだと言った。それからトラックに乗って、家に向かった。道を曲がる時にどういうわけか、あの婆さんの言葉を思い出し、それが頭から離れなかった。農場の丘に近づいた時、スピードを半分に落とした。その瞬間、マシューが滑ってきたのだった。

 事故の後、どうやって15秒間しか会ったことのない人に礼が言えるだろうかと考えていた。知っていることといえば、観葉植物が好きなことと、新しい長靴を買ってやったら喜ぶかもしれないということだけだった。そんな時、「タイム」誌を手に入れた。表紙には天使の絵が載っていて、「新しい天使の時代」と書かれていた。

 その中にはこうあった。

「天使に出会った人の話を集めたベストセラー、『ブック・オブ・エンジェル』の中で、著者のソフィー・バーンハムはこう書いている。天使は、夢や何らかの存在や、エネルギーや、人に姿を変えることがある。たとえ人が姿を変えた天使のことを、偶然だとか思い違いだなどと言って片づけようとしたとしても、メッセージは必ず伝わるようにである…」

 再び、俺は自分の部屋でこの事件のことを考えていた。そして、ひょっとしたら俺の守護天使は、テニスシューズをはいたあのおばあさんだったのかもしれないと思った。俺たちみんながスピードを落とし、景色に目をとめれば世界はもっと良い場所になると思っている、あのおばあさんだ。

 

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「絶対来るってわかってたんだ」

         エリザベス・キング・イングリッシュ

 あれは、1949年のクリスマスイブのことです。夜の11時に、ハーマンと私は店に鍵をかけ、やっと帰途につきました。二人ともくたくたの体で、サウスコールドウエルの家まで歩いたのでした。

 私たちは、大きな家庭用品の店を経営していて、冷蔵庫からトースター、レコードプレイヤーから自転車、ドールハウス、ゲームまで、何でも売っていました。その日、おもちゃはほとんど売り切れました。留め置き商品もほぼ全部出ましたが、一つだけ包みが残っていました。

 どこかの子供のプレゼントがまだ棚に残っていると思うと、クリスマスの朝の楽しみも半減するので、ハーマンと私は普通、留め置き商品が全部、予約した人の手に渡るまで店をあけていたものですが、その品のために1ドルの前金を払った人は現れませんでした。

 クリスマスの日の朝早く、私達は12歳になる息子のトムと一緒に、クリスマスツリーの下に置いてあるプレゼントを開け始めました。けれども、このクリスマスはなぜか退屈に思えました。トムも大きくなってきて、服やゲームしかほしがりません。以前のように大喜びしてくれたらと、いくぶん寂しく思いました。

 朝ごはんもそこそこに、トムは隣りの友達の家に遊びに行きました。

「また寝てくる。起きてたって、仕方ないからな。」とぶつぶつ言いながら、ハーマンは寝室に行きました。

 キッチンに一人残された私は、憂うつな思いでお皿を片づけ始めました。もうすぐ9時です。外はみぞれが降っていて、風で窓がカタカタ揺れています。自分が暖かいアパートにいることを感謝しました。

「こんな日に出かけなくていいなんて、ありがたいことだわ。」

 リビングルームの床にちらばった包装紙やリボンを拾い上げながら、そう思いました。

 その時、何かが私の心をせき立てたのです。こんな経験は初めてでした。私に店に行くようにと、しきりに告げているかのようでした。

 窓から凍った歩道を見ながら思いました。

 「そんなの馬鹿げているわ。」

 店に行かなくては、という思いを無視しようとしましたが、消えるどころか、どんどん強くなってきます。

 「絶対行かないわ。店を初めて10年になるけど、クリスマスの日に店に行ったことなどないもの。今日はどの店も閉まっているし、行く理由なんて何もないわ。行きたくないし、そんなのまっぴらごめんよ。」

 1時間ぐらい、この奇妙な思いを払いのけようとしましたが、ついに我慢できなくなり、行くことに決めました。

「あなた、店に行ってくるわ。」

 そう言いながら、何て馬鹿なことをしているんだろうと思いました。

 ハーマンはびっくりして、起きあがりました。

「どうして? 何しに行くんだ?」

「うーん…わからないわ。ここにいても何もすることがないし…。だから、ちょっと店を見てくるわ。」

 何てへたな言い訳でしょう。ハーマンは少し反論しましたが、すぐ帰ってくるからと言うと、ぶすっとした顔で、「じゃあ、好きなようにしたらいい。」と言いました。

 グレーのコートをはおって、ブーツをはき、赤いマフラーをして、手袋もはめました。けれども、いったん外に出ると、寒くて何の役にも立ちませんでした。北風はコートを通り抜け、みぞれが頬を刺しました。滑って転びそうになりながらも、何とか、イーストパーク117番地にある店に歩いていきました。

 体はがたがた震え、手は、かじかまないようにポケットに突っ込んだままです。『何てお馬鹿さんなの、こんな寒い日に外に出る用なんてなかったのに。』

 店が見えました。前に二人の男の子が立っています。9歳と7歳ぐらいです。『一体どうしたのかしら?』

 「来た、来た!」 年上のほうの子が叫びました。年下の子の肩を抱きながら、大喜びしています。

 「ほら、来るって言っただろう。」

 二人は凍えていました。下の子の顔は涙でぬれていました。けれども私を見た途端、目を大きく開け、泣くのをやめました。

 「二人とも、こんな寒い日に外で何をしているの?」

 店の中に二人をせきたて、ヒーターをつけました。

 「こんな寒い日には、おうちにいなくちゃ!」

 二人はみずぼらしい服装をしていました。帽子も手袋もなく、靴もぼろぼろです。私は二人の氷のように冷たい手をさすり、ヒーターの近くに引き寄せました。

 「僕たち、おばさんを待ってたんです。」と、上の子が言いました。二人は、いつも店が開く九時から待っていたそうです。

 「どうして待っていたの。」 驚きながら、尋ねました。

「弟のジミーはまだ、クリスマスプレゼントをもらっていないんです。」 そう言いながら、お兄ちゃんはジミーの肩に手をやりました。

「だからスケート靴を買いたかったんだ。弟はそれがほしかったから。ここに3ドルあります。」

 そういって、ポケットから3ドル出して見せました。

 私はお金に目をやり、それから二人の期待に満ちたまなざしを見ました。それから店内を見渡して、こう言いました。

「ごめんなさいね。全部売り切れたの。何も…」

 その時、留め置き商品の棚に残っていた包みが目に入りました。

「ちょっと待って。」 その包みを取り、開けてみると、驚くなかれ、スケート靴が入っていたのです!

 ジミーはスケート靴を手に取りました。

『主よ、サイズが合いますように。』と、私は心の中で祈りました。

 すると、またもや奇跡が起こりました。ジミーにぴったりだったのです!

 お兄ちゃんがジミーの右足のスケートのひもを結んでやり、サイズが合っているのを確認すると、立ち上がって、私に3ドルを渡そうとしました。

「ああ、いいのよ。お金はいらないわ。」

『この二人からお金を取ることなんてできないわ』と思いました。

「これは私からのプレゼントよ。そのお金で手袋でも買いなさい。」

 二人は最初、目をぱちくりしていました。そして目を丸くし、私がスケートをただであげるのだとわかって、大きな笑みを浮かべました。

 ジミーの目に、私は祝福を見ました。それは純粋な喜びと美しさでいっぱいでした。おかげで私の心も喜びでいっぱいになりました。

 二人が暖まったところで、ヒーターを切りました。そして、私たちは一緒に外に出ました。ドアに鍵をかけると、私はお兄ちゃんの方にこう尋ねました。

「おばさんがたまたま店に来て、よかったわね。もう少し長くそこに立っていたら、二人ともこちこちに凍っていたところよ。でも、どうしておばさんが来るってわかったの?」

 すると、意外な答が返ってきました。男の子は、しっかりと私を見つめ、こう答えたのです。

「おばさんが絶対来るってわかってたんだ。イエス様にそうお願いしたもの。」

 思わず背筋がぞくっとしました。私が店に来るのは神の計画だったのです。

 さよならを言って、私は家に帰りました。家を出た時よりも、ずっと明るい気持ちで。トムが友達を家に連れて来ていました。ハーマンも起きていました。義父と姉のエラもやって来ました。それから、皆でクリスマスのごちそうを食べ、楽しいひとときを過ごしたのでした。

 この年のクリスマスは特別に幸せなクリスマスでした。イエス様が一緒だったからです。そして、イエス様が一緒のクリスマスは、いつでも素晴らしいクリスマスとなるのです。

 

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心の贈り物

ノーマン・ビンセント・ピール

 クリスマスシーズン。ニューヨークは華やかさを増す。イルミネーションでまぶしいばかりに輝くショーウインドウには、豪華な毛皮や宝石が派手さを競う。高さ12メートルもの黄金の天使たちが五番街の雑踏の上に飾られている。この街は富と権力と華やかさで満ちていた。

 買い物客は、派手なデコレーションの谷間を、クリスマスプレゼントを求めて歩き回る。値段など問題ではなさそうだ。問題があるとすれば、プレゼントを送る相手はもうすでに何でも持っているので、相手が喜んでくれそうな物、真心を伝えられる物を探すのにえらく苦労することだ。

 去年のクリスマス、ある少女もこのことに頭を痛めていた。彼女は、スイスから来て、英語を学ぶためアメリカ人家庭にホームステイしていた。そのお返しとして、秘書代わりや子供の世話、頼まれることなら何でもしていた。まだ十代で、名前をウシュラと言った。

 彼女には、その家にクリスマスプレゼントが届くたびに記録するという仕事があった。かなりの数で、一つ一つに礼状を送らなければならなかった。ウシュラは几帳面に記録をつけながら、心の中で悩んでいた。自分がホームステイしている家族にクリスマスプレゼントをあげて、感謝の気持ちを示したいと思ったが、毎日、戸口に届くプレゼントに比べるなら、自分のわずかばかりのお金で買える物など、比べ物にならなかった。それに、何もプレゼントなどもらわなくても、このアメリカ人家族はすでに何でも持っているように思えた。

 夜、窓から、雪が積もったセントラルパークや、その後ろに広がるマンハッタンの高層ビル群を見た。そのはるか下には、クラクションをうるさく鳴らすタクシーや、赤や緑に変わる信号が見える。ホームシックになった時に思い出す、アルプスの壮大な風景とは別世界だった。クリスマスの数日前、部屋に一人きりでいると、あるアイデアが浮かんだ。

『そうだわ。ニューヨークには、私よりずっとお金持ちの人が大勢いるけど、とても貧しい人達もいるはずね。』

 ウシュラは、長い間考えた末、クリスマスイブの休みにデパートに出かけた。人混みの中をゆっくりと歩いて、あれでもない、これでもないと探して回り、ついに何かを買うと、派手な包装紙に包んでもらった。外に出た頃はもう夕暮れだった。次はどうしようかとあたりを見回していたが、青と金色の立派な制服姿でデパートの入り口に立つドアマンを見つけると、たどたどしい英語で話しかけた。

「すいません。貧しい人達が住んでいる通りはどこでしょう?」

「貧しい人達が住んでいる通り?」 驚いた顔で、ドアマンが答えた。

「ええ、そうなんです。一番貧しい人達が住んでいる所です。」

『一体、何を考えているんだ』というような顔つきで、ドアマンが言った。

「ハーレムに行ったらどうだい? またはグレニッチヴィレジか、ロアーイーストサイドかな。」

 だが、地名を言われても、見当もつかない。とにかく礼を言い、買い物客の間を縫うようにして歩いていった。警官が立っている。

「すいません。貧しい地域を教えてもらえませんか…ハーレムとか・・・」

 警官は厳しい顔をして、首を横に振った。

「ハーレムはあなたが行くような場所ではありませんよ。」

 そう言うと、笛を吹き、車の波がどっと進んで行った。

 包みをしっかり抱きながら、ウシュラは歩いて行った。冷たい風に向かって前かがみになりながら。貧しそうに見える通りがあったなら、そこに向かって行ったことだろう。しかし、話に聞いたスラム街のような通りはなかった。一度、通りがかりの女の人をつかまえて、「すいません。とても貧しい人達が住む地域はどこでしょう?」と尋ねたが、ウシュラはじろっと見たかと思うと、何も言わず足早に去った。

 あたりは暗くなってきた。ウシュラは寒さでふるえ、がっかりし、迷子になるのではないかと心配した。交差点で、一人たたずんでいた。突然、自分がしようと思っていたことが、あまりにも馬鹿げていて、衝動的で、こっけいに思えてきた。その時、車の騒音に混じって、どこからか明るいベルの響きが聞こえた。交差点の向こう側で、救世軍が恒例のクリスマス募金を募っていたのだ。

 ウシュラの心は明るくなった。救世軍ならスイスにもある。あそこにいる人なら、教えてくれるだろう。信号が変わるのを待って、その人の所に走って行った。

「すいません。赤ちゃんを探しているんです。とても貧しい家庭の赤ちゃんのためにプレゼントがあるんです。」

 そう言うと、きれいな包装紙に緑のリボンがかかった包みを見せた。

 手袋をして、ぶかぶかのコートを来たその男性は、ごく普通の男性に見えたが、その目は優しかった。その人はウシュラを見て、ベルをならすのを止めた。

「どんなプレゼントなんだい?」

「服です。小さな貧しい赤ちゃんのための。どこかにいるでしょうか?」

「ああ、いるよ。沢山、知っているよ。」

「遠いのかしら? タクシーで行かなくてはならないわね。」

 救世軍の男性は、じっと考え込んでいたが、こう言った。

「もうすぐ六時だ。そうしたら、交代の者が来る。待つ時間があって、タクシー代を出せるんだったら、貧しい家庭まで連れて行ってあげよう。」

「小さな赤ちゃんもいますか?」

「ああ、いるよ。」

「それなら、待つわ。」と、ウシュラは嬉しそうに言った。

 交代の者が来た。二人はタクシーに乗り、ウシュラは自己紹介をした。どうやってニューヨークに来たのか、何をしようとしているのかを話した。男性は黙って聞いていた。タクシーの運転手も聞いていた。着いた時、運転手は言った。

「急がなくていいから。ここで待っててあげるよ。」

 ウシュラは、歩道からその汚いアパートを見上げた。暗く、壊れかけていて、みずぼらしかった。建物全体が希望の光を完全に失っているかのようだ。凍てつくような突風が通りにゴミをまき散らし、ゴミ箱をカラカラとならした。

「ここの3階に住んでいるんだ。」と、男性が言った。「さあ、上がろうか。」

 しかし、ウシュラは首を横に振った。

「もし私が行くなら、私にお礼を言うでしょう。でも、このプレゼントは私からじゃないの。」

 そして、プレゼントを渡した。

「私の代わりに持って行って。そして、これが、その裕福な家族からの贈り物だと伝えてね。」

 しばらくして、タクシーは暗いみじめな通りを出て、またたく間に明るく裕福な街角に着いた。その間、ウシュラは救世軍の人が階段を昇り、ドアをノックし、説明し、それから包みが開けられ、赤ちゃんに服が着せられるのを想像しようとしたが、あまり想像がつかなかった。

 彼女が住んでいる五番街のアパートに着いた。お金を払おうとすると、運転手はメーターを上げて、「お金はいりませんよ。」と言った。

「いらないですって?」

「いりません。もう十分、払ってもらったから。」

 運転手はニヤッと笑ったかと思うと、さっと車を出した。

 翌日、ウシュラは朝早く起きた。特別に、きれいにテーブルをコーディネイトした。それが終わった頃、家族が起きてきた。クリスマスの朝はいつでも喜びと興奮に満ちているものだ。すぐに、リビングルームは包装紙の海で足の踏み場がないぐらいになった。ウシュラも、もらったプレゼントにお礼を言った。興奮がおさまった頃、ためらいがちにどうして自分からのプレゼントがないか説明した。デパートに行ったこと、救世軍の男性に会ったこと、タクシー運転手のことなどを。ウシュラの話が終わっても、みんなずっと黙っていた。何と言葉を返せばよいのかわからなかったのだ。ウシュラは言った。

「だから、皆さんの名前で良いことをしようと思ったの。これが、私から皆さんへのクリスマスプレゼントです。」

 どうして、このことを知っているかって? ウシュラがホームステイしていたのは、私の家だったからだ。私たちは、豊かに祝福されている。海を越えてやってきたこの少女の目には、私たちには何もいらないように思えたのだ。だから、もっと素晴らしいものをプレゼントしてくれた。心の贈り物であり、私たちの名前によってしてくれた親切な行為なのだ。

 

 不思議だろうか? この冷たい大都会で、恥ずかしがりやの外国人の少女がそんなことをするのが。やれることなど、たかが知れてる…そう思うかもしれない。だが、彼女は愛を与えようとしたことで、私たちの人生に真のクリスマスの精神をよみがえらせてくれた。それは、自らを忘れて与える精神だ。それが、ウシュラのプレゼントだった。それを私たちみんなに分かち合ってくれたのだ。