刻々と迫るキャッシュレス社会の到来 パート1

 

あなたのお金、コンピューター、そして世界の終わり

ピーター・ラロンデとポール・ラロンデ

(Eugene, Oregon: Harvest House Publishers, 1994)

 

事実は小説よりも奇なり

 

 西ヴァージニア州選出の民主党議員で、政府のデータベース使用に関する下院小委員会の委員長を務めるボブ・ワイズは、「そう遠くない将来に、消費者は、自分がどこに行き、何を買ったかの記録をどこかのコンピューターが一つ残らず収集するようになるという可能性に直面することになろう。」と述べた。

 米国プライバシー保護委員会の前委員長であるデービッド・リノウェスもこう懸念する。「雇用者や銀行や政府機関が、データベースを使って、国民一人一人の生活についての決断を本人も知らない内に下すようになる危険がある。」

 

事実上の全国データバンク

 

 最近、スーパーコンピューターのデータベースの進歩によって、「大半の米国人に関するかなりの個人情報を含む」事実上の全国データベースができあがっているという調査結果を、テクノロジー査定局が議会に報告している。

 全国データセンターは十年以上前に議会で否決された。それは、ジョージ・オーウェルの小説「1984年」に出てくるような、一箇所に記録を保管する中央データバンクという発想であった。だが、先に述べた「事実上の全国データベース」はそれとは違い、何千もの別個のコンピューター化された記録システムによって構成されている。これらのシステムは、アメリカ国内ならほぼどこにいてもコンピューターによって電話回線で接続できる。多種多様なコンピューター化されたデータバンクを通して個人の情報を検索することにより、現在、政府の役人は、何千万人もの一般市民に関する電子情報を集めたり、諸連邦機関に限った場合でも三十億件はある個人情報を含む記録をコンピューターで一緒にまとめたり、比較したりすることができると報告書には書かれている。

 アメリカ市民自由連合のプライバシーとテクノロジー・プロジェクトの責任者、ジェリー・バーグマンはこう述べている。「議会が全国民に関する中央ファイルを確立する法案を提出しても否決されるだろうが、この報告から、表向きには許されないことが、すでに徐々に起こっていることがわかる。」

 

クリントン大統領の

スマート・アイディア

 

 総合的な情報を含むシステムを作るには、必ず適切なファイルと相互参照できるようにしなくてはならない。しかし、これを可能にする唯一の論理的手段は、そのシステムの人間が一人残らず、本人だけの個人番号を所有することだ。名前では同姓同名のケースもあり、混乱を招く。番号だけが各人専用となる。

 だから、ジョージ・オーウェルやアルドス・ハックスレーが予見したように、我々が番号をつけられ、常に追跡されているような社会はあとどのぐらいで実現するのだろうか? クリントン政権が一つヒントを与えている。クリントンは社会保障番号とつながっている「スマートカード」の使用を提唱することで、アメリカ国民に一人残らず総括的な身分証明カードを持たせようとしている。国民健康保険制度に加入するには、全国の身元保証プログラムへの加入が義務づけられることになる。クリントンの提案では、すべての子供が出生と同時に番号をつけられ、それが全国データベースに入れられ、一生追跡されるのだ。子供達は法律によって、予防接種や公衆保健プログラムへの参加が義務づけられるだろう。親は、国が定めた医療方針に従わないなら児童虐待と見なされ、子供がよそに連れ去られることもありうる。

 米国の現政権は、事実上の全国IDカードの採用に多大な努力を払っている。クリントン大統領は、「他の法案にはどれだけ反対しようとも、ただこの目標に関しては、全員がその実現のために一致団結すべき」だと議員に呼びかけてさえいる!

 

全国カードが社会の

組織・構造を左右する

 

国民身分証明制度が誕生しつつあると聞いても、それほど変には聞こえないが、社会保障番号が、定職につきさえもしていないよちよち歩きの子供にまで与えられていることを考えると、乱用される可能性は大だ。スマートカード産業連盟の刊行物「コミュニケーター」にはこう書かれている。

 「平均的なアメリカ人なら、一歳にして社会保障カードを持っており、18歳には運転免許証を、そして外国に行きたければパスポートを持っているし、有権者登録証に、何らかの種類の会員証や救急医療証、ATM(自動預金預け払い機)カード、テレホンカード、車検証を持っている。これらの情報のほとんどが政府によって保管されるか、政府機関によってアクセス可能である・・・理論上では、これらのグループが共同で統一システムを開発すると、セキュリティーのレベルは様々だが、これらの情報を全部1枚のスマートカードに収めることが可能となる・・・『ゆりかごから墓場まで』の医療スマートカードは最高のアイデアだ!」

 

皮膚に埋め込ませるな

 

 ワシントン・タイムス紙で、マーティン・アンダーソンが、この「素晴らしい」新世界を実現する上での一番の問題を指摘している。この全国IDカードは「政府の規制に従わせる」のにほぼ不可欠となるので、「常時」携帯を余儀なくされるというのだ。しかし、ここで問題となるのは、自分のカードを紛失したり、盗まれたりしたらどうするかということだ。誰かが自分を装って不正使用することもありうるのだろうか?

 フーバー研究所の特別主席研究員でコラムニストのアンダーソンは、この問題に対して様々な検討がなされるだろうと指摘する。「ヒューズ航空機会社は、絶対に紛失することのない身分証明システムを開発した。注射で埋め込めるトランスポンダー《外部からの信号に自動的に信号を送り返すラジオまたはレーダー送受信機》だ。宣伝資料によれば、精巧で安全で低コストで故障なしの永久的な・・・ラジオ電波を使った身分証明システムで、米粒ほどの大きさのマイクロチップが皮膚に埋め込まれる。それは、予防接種の時に同時に、あるいは単独で埋め込めるようになっている。」

 マイクロチップが埋め込まれたプラスチックカードを財布の中に入れて持ち歩くのと、腕に埋め込んでマイクロチップを携帯するのとでは、さほど違いはない。独裁的国家が国民の一挙一動を監視する権利を有するという原則は変わらないからだ。皮一枚の違いである。

 

すみませんが、前にどこかで

聞いたことがあるような・・・!

 

 これらの技術的進歩は驚異的だし、「独裁的国家」について読んだことのある人達にとって、こうした動きは考えさせられるものではあるが、それをはるかに越えた驚くべき事がある。実は、2000年以上も前に聖書でそのような体制が予告されていたのだ! しかも、その聖書の言葉は、三つの博士号でも取るか、コンピューターを幾つも駆使しなくては解読できないような、奇妙な記号や難解なたとえ話を使って書かれてはいない。

 「また、[偽預言者は]小さき者にも、大いなる者にも、富める者にも、貧しき者にも、自由人にも、奴隷にも、すべての人々に、その右の手あるいは額に刻印を押させ、この刻印のない者はみな、物を買うことも売ることもできないようにした。この刻印は、その獣の名、または、その名の数字のことである・・・その数字とは、人間をさすものである。そして、その数字は666である。」(黙示録13章16から18節)

 この聖書の箇所について考えてみよう。その「666制度」では、額や右手に刻印を受けない者は誰も売買できないとある。木や石やトーガ(古代ローマ市民が平和時に着用したゆるやかな公民服)の時代に書かれたこの言葉が成就されるには、絶対に強力な技術進歩が必要とされる。かくして、この言葉の単純明快さと、現代の先進技術とが相まって、この預言は神の言葉の正確さを最も強力に証明している。この短い預言が現代のコンピューター化されたグローバルな経済構造をいかに正確に予告しているかを語ろうとしたら、それだけで本が一冊できあがる。

 正確にどの先進技術がこの獣の刻印に関する預言を成就するのかは、まだ誰も明言できないが、この本を通して、そのような世界的制度の完成を可能にする技術の可能性や進歩について探っていきたいと思う。

 

現金よ、さらば

 

ここで、スーパーマーケットに入った場合を想定してほしい。一週間分の買い物をしながら、現金もクレジットカードも小切手もいらないとしたらどうだろうか。勘定は、自分の銀行口座からその店の口座に直接、自動的に振り込まれるとしたら。

 これこそ、長年に渡ってキャッシュレス(現金なし)社会を計画してきた人々が予告してきたことである。デビットカード《銀行が顧客に発行するカードで、 預金機による現金の出し入れと物品・サービス購入代金の口座引落としが一枚でできる》の使用によって、すべての業務取引や購買や販売が電子的に処理される素晴らしき新世界に足を踏み入れられると宣伝している。

 米国での最近のギャラップ世論調査では、調査の対象となった人々の64%が現在の現金・小切手社会よりも便利なシステムがあれば、それを支持するという結果が出ている。また66%が、現金は紛失したり、盗まれやすいと答え、48%が、小切手の処理は時間がかかりすぎて不便だと答えている。さらに、過去12カ月間で、レジに行ったら所持金が足りなかったという不愉快な経験をした人が23%もいた。

 これは、キャッシュレス社会の設計者たちにとって願ってもないニュースである。なぜか? 過去15年間というもの、特にカナダや米国において、彼らの構想は遅々として進まなかったからだ。技術進歩の遅れよりも、むしろ、現金を使用しないことに一般大衆が抵抗感を抱いていたためである。悪夢のような未来を描いたジョージ・オーウェルの「1984年」やアルドス・ハックスレーの「素晴らしい新世界」が広く読まれ、一般大衆はテクノロジーに抵抗し、そのような制度の導入に潜在する様々な可能性に警戒心を抱いていた。しかしながら、最近の世論調査では、消費者のそのような傾向は過去のものになったようだ。その一方でテクノロジーは驚異的な進歩を遂げてきた。

 

獣の体制の核心となる

キャッシュレス社会

 

 キャッシュレス社会は、預言にある「獣の刻印」体制に不可欠のようである。聖書にはこうある。「この刻印、つまり獣の名、またはその名の数字のない者はみな、物を買うことも売ることもできないようにした。」(黙示録13章17節)

 アンチキリストがすべての売買を統制するとしたら、取引の記録を一つ残らず把握するために現金を廃止せねばならないだろう。来たるべき新世界秩序において現金が許容されるなら、その体制外での商業取引が可能になってしまう。現金取引が少しでもあれば、アンチキリストが全市民の購買力を統制することが不可能となる。

 紙はかさばり、処理が遅いので、すべての取引を管理し、記録できる精巧で洗練された電子システムが不可欠と言えるほどだ。至る所ですべての人間の全取引を監視するので、世界共通のシステムでなければならない。それゆえ、世界共通のプラスチックカードの使用は、キャッシュレス社会に移行するための必然的な成りゆきにすぎない。

 

「ドクサイ」って何?

 

 数年前の世論調査では、独裁統治国家になるのではという不安がキャッシュレス社会への抵抗感を生むおもな原因となっていたが、最近の調査結果はそうではない。独裁的国家を恐れる人など皆無に等しい。

 政府や銀行産業その他の組織が自分について多大な情報を収集していて、ほとんどいつでも何らかの機関が自分の動向をつかめることを人々が懸念しているかどうかについて、我々は調査を行った。その結果、若い世代(45歳未満)は特に、何の懸念も抱いていないと断言している。「何も隠すことなどない。政府がそれをするのは、もっと便利で安定した市民生活を提供するためなのだ。」と。

 しかし、歴史を振り返ってみると、そのような情報を手に入れた政府は独裁型統治のために情報を乱用している。だから、我々はそれを懸念すべきことだと考える。

 

好むと好まざるとに関係なく

将来は計画されている

 

 抵抗感が薄れていく一方で、銀行やカード会社は、社会がもっと急速にキャッシュレス社会へと移行することを望んでいる。そのことからも、キャッシュレス社会へと発展しているのは、偶然でもなければ、ただ消費者が便利なテクノロジーの恩恵に預かりたいからでもないことを認識しておかねばならない。キャッシュレス社会によって利益を受ける金融機関が熱心に望むからこそ、テクノロジーの開発が進んでいる。ある銀行家はこう言った。「電子マネーへの移行が確実なのは、別に店やスーパーが勘定カウンターにATM(現金自動預け払い機)を設置しているからではない。銀行業界がそれに積極的だからだ。」

 先に、スーパーに行って、チーズとソーセージの支払いをする時に、自分の銀行口座からその店の銀行口座へと代金がそのまま振り込まれることについて話した。このシステムは、すでに数千カ所で、デビットカードを使って試用されている。

 さて、デビットカードとは何か? 外見はクレジットカードと同じだが、その機能性はクレジットカードとはまるで比べ物にならない。レジに行って、支払いの際にPOS(販売時点情報管理システム)にデビットカードを差し込めば、即座に中央コンピューターに接続して、代金が自分の銀行口座から店の銀行口座へと引き落とされる。すべてが電子的操作ですみ、便利この上もない。しかし、便利さだけがこの新システムの売り物ではない。

 

店で嫌われる現金!

 

 小売業者は、利益面での幾つかの理由から、本格的キャッシュレス社会を待望している。プラスチックのデビットカードなら、従業員が売り上げを盗むこともなくなるし(盗むような現金がなくなるのだから)、キャッシュ以外の取引にかかる手数料もなくなり、クレジットや小切手の不正行為も難しくなるからだ。

 さらには、予備テストによれば、消費者がクレジットカードからデビットカードに切り替えると、商品購入額が三倍にもなっている。将来の支払いや高い利子について心配しなくてもよいと、消費者はもっと気軽に買い物をするのだろう。

 小売業者にとってもう一つプラスなことがある。それは、銀行に支払う取引手数料が減ることである。現行のクレジットカード制度では、小売業者は、客の購入額の3〜7%をクレジットカード会社に払わねばならない。消費者の払うクレジットカードの利子とあわせて、これがカード会社の利益となる。

 カード会社が利子率を決める時に考慮する要因が幾つかある。一つには、カードの不正使用である。また返済不可能となるカード使用者もいる。そのような膨大な額の損失を補うために、高い利子を付けねばならない。しかし、デビットカードやプリペイドカードがあれば、客の銀行口座やカードから即座に代金が全額引き落とされるので、未払いのままになることはない。

 また、小売業者にとっては、金の流れが早くなり、すぐに代金が自分のものとなる。店員が客のデビットカードを読み取り機に差し込むと、ほんの数秒で代金が客の銀行口座から店の口座へと移動する。また、プリペイドカードの場合には、購入額が即座にカードから差し引かれる。待ち時間も事務処理もない。銀行の残高以上の額で振り出した小切手をつかまされることもない。支払い終了だ。

 強盗が減るのも、小売業者にとって重要な利点となる。現金での取引が減れば減るほど、店に置いてある現金も減るので、強盗に狙われることもなくなる。それによってさらに幾つかの利点が生じる。例えば、保険の掛け金も安くなるし、従業員が強盗に襲われる危険も減り、医療費も安くなる。

 世界各地の何千という箇所でキャッシュレス制度の試用が行われ、その結果、以上の利点が認められている。設立された「ミニ」キャッシュレス社会は大いに成功している。小売業者も消費者も口をそろえて、キャッシュレス制度は役に立っていると語っているのだ。

 

キャッシュカードが来る、

キャッシュカードが来る!

 

 キャッシュレス社会を構想する人々が直面している難題の一つは、バス代、駐車料金まで、毎日世界中でひっきりなしに行われている現金支払いである。その解決策としてあがっているのが、デビットカードとプリペイドカードをうまく組み合わせたものを使う方法である。

 プリペイドカードについて説明しよう。このカードには、電話の50度数やバスの20回分の乗車券などが暗号化されて組み込まれている。このカードを店で購入し、1回使用する毎に残りの度数が減っていく。完全に使い切ったら、捨てて、また新しいものを購入するという具合だ。

 ちょっとした買い物をする度に中央コンピューターや銀行口座に接続しなくて済むのが、このタイプのカードの利点である。業界の規格が統一され、プリペイドカードがデビットカードと組み合わせられるなら、現金は過去の存在となるだろう。

 

さらにスマートに!

 

 ニュージャージー州モアズタウンのダニール・コーポレーションのロバート・J・マーカート・シニア首席副社長は、こう言う。「近い将来、『プリペイドカード』や『スマート』カードでほとんど何でも買える時代が訪れる。」

 キャッシュレス・テクノロジーの提唱者として有名なマーカートは、世界中の経済界や政府のトップが集まった会合で、プリペイドカードは、「ポケットの小銭のような感覚で使われるようになる。バスや自動販売機やコインランドリーの料金が上がるにつれ、5ドルや10ドル分のコインは重くて、持ち歩くのが面倒くさくなるからだ。」と語った。

 また、その会合で、プリペイドカードへの移行は比較的簡単であろうとも語っている。金融機関では何十年も前からクレジットカードを使用しており、ATMやデビットカードも数年前からある。プリペイドカードの用途が増えると、それを発行する銀行も増える。というわけで、銀行が後ろ盾する統一規格のプリペイドカードが硬貨にますます取って代わるだろうと説明している。釣り銭の受け渡しもいらず、現金が必要ないので、レジの長い列もなくなり、公衆電話も故障が減り、自動販売機の商品の値上げも五セントでなく、1セント単位でできるようになる。しかも、コインランドリーやコンビニエンスストアやガソリンスタンドの安全ももっと保証される。

 マーカートはさらに、毎年、2ドル以下の売買が、アメリカだけで2700億回以上、行われていると語った。「そのような細々した売買がスマートカードによる電子取引になれば、能率もめざましく上がり、しかも破壊行為が減り、安全上の問題はかなり減るであろう。」

 消費者も、デビット/プリペイドカードの利点を認識し始めている。クレジットカードは便利なあまり、買いすぎることがよくある。だから、請求書が来て、毎月、未払い額が雪だるま式に膨れ上がり、最低支払額がみるみる上がっていくのに驚く消費者が少なくない。利息が20パーセント以上のクレジットカードもあり、その月々の支払いどころか、利息分を返済するだけで精一杯ということもある。

 1枚のカードを多種多様な目的に使えるなら、便利この上もないので、消費者は前にも増してカードを使用したくなるだろう。

 

銀行の将来

 

 キャッシュレス社会で一番儲かるのは、それを積極的に推進している金融機関、つまり銀行やカード会社だ。その理由はどれも、利益増加に関連している。いくら「お客様のため」と立派な宣伝文句を並べ立てても、結局のところ、企業利益が目標なのだ。

 銀行にとって電子決済はずっと安上がりだ。電子マネーの方が、小切手や手形処理の場合よりもコストが低い上、一瞬の内に処理できる。

 しかし、最大の利点は、支店の数の削減にある。客が手軽に振り込みや支払いができるよう、銀行はATMの数を増やしている。ATMが増加し、24時間使用可能であることから、銀行の支店の必要性は減少していると言える。

 支店が幾つもあると、人件費や維持費はかなりの出費となる。ATMなら、支店と同じだけの機能を備えている上、経費は比べものにならないほど安い。「USAトゥディ」のATMの増加と機能に関する記事には、ATMのコストパフォーマンスの良さが書かれているが、ATMなら、給料の値上げも要求しないし、健康保険もいらないとの皮肉つきだ。

 銀行が支店を開くとなると、設計から建築、電気その他のもろもろの工事費を支払い、ありとあらゆる許可証の申請をしなくてはならない。そして設備を整え、行員を雇い、訓練するが、この雇用と訓練の過程は絶えず繰り返され、その間も、一般経費を払い続けることになる。ATMなら商店街や食料品店、地下鉄の駅のような場所を探し、維持・修繕のために一日一回誰かを送ればいいだけだ。コスト安は言うまでもない。

 

推進の立役者

 

 消費者は、キャッシュレス・システムの便利さに誘われ、小売店はデビットカード・システムのコスト減効果に気づきつつある。銀行は増収策を日夜探っている一方、社会全般もこの新しい「紙幣抜き」の世界を実現する理由を見いだしている。

 当局は、キャッシュレス社会を大いに支持している。中でも、最も説得力がある理由は、「犯罪抑制」だ。通りでのひったくりは空しい試みとなる。現金を持つ人は減る一方になるからだ。カードのみを扱う店が増えれば増えるほど、強盗は減っていくだろう。

 もっとスケールの大きい話では、キャッシュレス社会では麻薬の密売をほぼ撲滅できると、当局の専門家は胸をはって宣言している。麻薬密売人は、一度にスーツケースいっぱいの札束で取引する。クレジットカードも支払い指図書 《銀行支配人が自行宛てに振り出す小切手》も使わない。現金取引だけだ。日常生活から現金が姿を消すにつれ、麻薬と交換する物がなくなることになる。行員の目を逃れて、つまり、当局や政府機関に気づかれずに、電子決済で多額の送金をすることは不可能だからだ。

 キャッシュレス社会では、闇取引も急減するだろう。強盗、誘拐、ゆすり、売春などの犯罪もすべて、通貨の流通がなくなるにしたがって根絶されるも同然であり、現金の消滅は多くの犯罪消滅につながると、私達は聞かされている。社会が、このようなユートピア的な経済システムの実現化に熱心なのも無理はない!

 

紙幣の流通を断つ

 

 「タイム」誌に掲載された以下の投書は、世間で主流になりつつある考え方を反映している。

 「麻薬密輸業者のマネーロンダリング(不正資金浄化)に関する貴誌のレポートは、政府の貨幣過剰供給がコカイン取引の増大を招いた第一原因になったことを指摘している。記事には、莫大な額の紙幣が麻薬密売業者たちによって隠されているため、財務省発行の紙幣の内、80%の行方がわからないとあった。この麻薬王達の麻薬交換手段である貨幣の流入を阻止する具体的な策が何も取られていないことに、私は、郡の検察官補佐として非常に残念に思っている。突然の大規模な紙幣回収こそ、決定打となるだろう。麻薬取引を撲滅しよう。」

 

 −−パート2へ続く−−