クリスチャン・ダイジェスト 18号−2 

 

刻々と迫るキャッシュレス社会の到来 パート2

あなたのお金、コンピューター、そして世界の終わり

ピーター・ラロンデとポール・ラロンデ

(Eugene,Oregon: Harvest House Publishers, 1994)

 

不安につけ込む

  犯罪が増加するにつれ、カード化が進んでいる。カードを取り扱う小売店の数は増える一方だ。今では3千以上のスーパーマーケットが「VISA」に加入している。つまり、全米の大手50社の約半数だ。

 アメリカの大半の都市の郵便局では、クレジットカードで郵送料の支払いができる。他の政府機関も、コスト削減のために、社会保障や福祉に電子決済システムの導入を図ろうとしている。これには、福祉手当の不正取得を減らす目的もある。また、現行のフードスタンプ(低所得者に対して連邦政府が発行する食料クーポン券)に代わってカードを使用することで、不正使用による出費を抑えようとしている。

 食料品を買う場合、フードスタンプの代わりに客はカードを読み取り機に差し込み、暗証番号などを入力する。するとカード、または銀行の口座からその分差し引かれる。毎月、フードスタンプ受給者は、カードの金額が追加される。これだと不正行為が阻止でき、かなりの金額が節約される。暗証番号のようなものによって身元を確認され、受給者本人しかカードを使えないので、酒類や麻薬、たばこを買う金を稼ぐために、スタンプを売ることはできなくなるのだ。

 特に欧米諸国においては、政府が現金や小切手の廃止を熱心に提唱している。コスト高な小切手を印刷・発行するよりも、電子決済によって個人に政府が支払うなら何百万ドルも節約できる。さらに電子送金システムになれば、郵送された社会保障その他の公的扶助の小切手が盗難されるといった問題にも終止符が打たれるだろう。

 脱税も過去の話となる。給料や売り上げ、その他の現金取引の不正もなくなるからだ。これは、欧米諸国、特に驚異的な赤字に直面している米政府の最優先事項だ。脱税への抜け道を封じることによって所得税による歳入が増加し、赤字解消への力強い味方となるだろう。事実、最近のレポートによれば、脱税者をことごとく摘発するだけでも、米政府は年に少なくとも千億ドルの歳入増加になるという。

 

 

カードの中身は?

  最近のカード技術の進歩は驚くばかりである。クレジットカードやデビットカードその他をATM(現金自動預払機)のような機械に読み込ませると、瞬時にしてほとんどのサービスや製品、あるいはちょっとした情報にアクセスできる。「改良された、新しく、より賢い」カードならば、さらに多くのことが可能になる。

 まず、市場に出ているカードの種類を説明しよう。ここでは、クレジットカードやデビットカードといった分類ではなく、カードの技術的な構造によって分類している。

 磁気ストライプカード。これは、北アメリカで最も広く使われているカードだ。シンプルなプラスチック製のクレジットカードやデビットカードに、名前や口座番号、暗証番号といった特定の情報が記録された黒の磁気ストライプが貼り付けられている。ATMにカードを差し込み暗証番号を入力すると、入力された番号とカードに記録されていた番号が一致することを機械が確認し、預金や引き出しができる。

 スマートカード。小さな集積回路(IC)が組み込まれたプラスチック製のクレジットカードやデビットカード。普通は左上に組み込まれている。スマートカードには二種類あり、一つはメモリーのみのカードで、読み取り装置によって情報入手できるが、データは変更や更新ができない。もう一つの種類はマイクロプロセッサーが組み込まれていて、データの更新あるいは、変更、処理ができる。「スマートカード・マンスリー」誌編集者であるスティーブン・シードマンによれば、このタイプのスマートカードとパソコンとの唯一の違いは、何に収められているかの違いだけだ。磁気ストライプカード同様、スマートカードもその使用者がカードの持ち主本人かどうかを調べる暗証番号のようなシステムが必要だ。

 光カード。カード全体にデータが記録されており、レーザーで読みとる。莫大な量のデータを記録でき、医療情報を保存する。

 これらのカードは、キャッシュレス社会のカードにふさわしいかもしれないが、共通した欠点もある。現在に至るまで、カードの使用者が実際の持ち主かどうかを完全に確認するシステムが開発されていないのだ。暗証番号はうまくいっておらず、暗証番号に頼っている銀行は、被害甚大だ。

 

銀行の大損害

  ATMとカード産業全体の損害額は莫大である。盗んだキャッシュカードを使って、(ほぼ毎日)口座から大金が引き出されているし、偽造カードが出回り、客も銀行も被害を受け、毎日何百万ドルも失っているのだ。

 現在、最も普及している磁気ストライプカードも簡単に偽造でき、その被害額はうなぎ昇りだ。事実、カナダ銀行協会によると、クレジットカード偽造はカナダで最も急増しているカード犯罪と考えられている。ある企業によれば、最近では、カード偽造がクレジットカード犯罪の14%を占めているという。

 銀行は、カード偽造による損害については、顧客に負担させることはせず、被害額は銀行の損失にしていると言うが、それは怪しいものだ。いずれにせよ、すでに北アメリカの銀行業界では、セキュリティー問題がますます増大しており、カード偽造はそれに拍車をかけている。

 

スマートカード参上

  全米最大のクレジットカード製造会社である、ナショナル・プロセッシング・カンパニーの上級副社長シド・プライスは、アメリカのカード産業にとって、スマートカードへの移行こそ、最も妥当な策だと語る。

 それを実施するには膨大なコストがかかると、以前から議論が交わされてきたが、毎年、被害総額は増加の一途をたどり、ついに、多くの国民が、「スマートカードに転向しないために生じる被害額を負担できるほどの金は、アメリカにはもうない」と言うに至っており、プライス社長が、「数ヶ月から一年以内」にスマートカードへの移行が進むと予告するほど、転向を望む声は高まっている。

 クレジットカード偽造による被害削減がおもな理由であることは言うまでもない。スマートカードの偽造や複製は事実上不可能というのが、業界のトップの経営者達の一致した意見だ。スマートカードには「ハッカー」を防ぐ仕組みが備わっている。

 

現金の代用以上のもの

  というわけで、おもにスマートカードと、それが最終的には現金に取って代わることについて話してきたが、スマートカードの用途はまだまだある。「スマートカード・マンスリー」誌編集者のスティーブン・シードマンは、スマートカードの可能性についてこう語っている。

 「ビジネス面では、現在、スマートカードは従業員や客の本人確認や、会社や学校のタイムカード代わりや、駐車場の利用や建物の出入りの管理…複写機、ファックスの使用管理、会社のデータへのアクセス管理に使われている。…また現金同様、会社専用のATM機を通して旅費の徴収や精算、会社内の売店や近所の小売店、商店街での支払いができる。」

 シードマンはさらにこう語る。「国によって程度の差こそあれ、各国で、公衆電話や医療制度、ネットワーク上での取引において全国的にカードが普及しているか、あるいは普及が間近に計画されている。」

 

全米IDカード

  最近、クリントン政権は米国の医療制度改革の一環として、ヘルスカード制度の実施を提案した。1992年9月版「ニュー・イングランド・ジャーナル・オブ・メディスン」で、クリントン大統領は、「全員が、個人の医療情報が記録されたスマートカードを携帯するようになる」と語っている。

 

頼りになるヤツ

  このマイクロプロセッサーは小さいながらも、とても頼りになる。米政府が提案している統一ヘルスカードには、スマートカードの技術の導入が計画されている。スマートカードに埋め込まれたマイクロチップには、莫大な量のデータが記録できるからだ。一般に普及している4メガチップは、個人の医療記録を全部入れてもまだ余裕がある。保険に関する情報も入るのは言うまでもない。切手の6分の1ほどの大きさのチップにだ。

 だが、グローバル・フロンティア会議で初めて発表されたチップはさらに驚異的だった。東芝が開発したマイクロチップは、大きさは4メガチップほどなのに、百年間、1ギガバイツ分の情報を保持できるのだ!

 さて、「ギガバイツ」とは何だろうか? 1ギガバイツは10億バイツのことだ。数字が大きくてピンとこないかもしれないが、10億秒は32年にのぼり、1ギガバイツのメモリーは、平均的なパソコンのメモリー容量の1万倍に相当する。

 現在、これらの偽造不可カードは、世界初の「電子財布」となるに十分な機能を備えている。しかしながら、このシステムにおける最大の問題点は、カード使用者がカードの持ち主本人かを確認できるかどうかにある。

 先にも述べたが、この問題の根本となっているのが、現在、銀行でキャッシュカードに使用されているセキュリティー・システムである。暗証番号だけが確認手段だからだ。

 暗証番号はカードを受け取る時に、本人が決めることになっている。この4桁からなる数字はカードに記録され、持ち主の暗証番号になる。そして持ち主はカードをATMに差し込み、番号を打つ。その番号とカードに記録された番号が一致するなら、機械はカードを持ち主本人と判断する。理論的にはいいのだが、実状は、そううまくいっていない。

 

暗証番号は安全ではない

  カードの持ち主は覚えやすい番号を選ぶことが多い。たとえば誕生日や、社会保障番号や電話番号の最後の4桁などだ。これでは、被害者のカバンや財布に入っていた身分証明書などから、簡単に予想できてしまう。犯人はこの類の番号を探し出し、ATMで試してみるのだが、成功率はかなり高いようだ。「USニュース・アンド・ワールド・レポート」は、この問題について次のように要約している。

 「運転免許証からクレジットカードに至るまで、身分証明書の提示が求められているが、相手がその本人であるかどうかを確認することには、大金がかかわっており、間違いに対する懸念が深まっている。簡単なパスワードや身分を示すバッジや、磁気カードだけでは十分でないというのが、専門家の意見だ。従来の方法では、偽造や盗難が防げないし、偶然に第三者がパスワードを発見することもある。」

 年輩者の中には、記憶があてにならないので、暗証番号を紙に書いて持ち歩く人々もいる。ご丁寧にも、番号を書いた紙をカードと一緒に財布に入れさえするのだ。その番号がカードの暗証番号であることは一目瞭然である。年輩者に限らず、カード自体に暗証番号を書き込んでいる人も少なくない。泥棒にはまさに好都合だ。

 従来の暗証番号システムのもう一つの問題は、武装強盗である。銃を突きつけられれば、誰だって暗証番号を教えるだろう。

 キャッシュレス社会に移行しようとしているのであれば、安全性の高い、より優れたカードが開発される以外に選択はない。

 

「身」をもって証明

  おなじみ007の主人公、ジェームズ・ボンド。秘密の司令室に入る前に、本人かどうかを確認する機械に指をあてる。あるいは、NATOの建物内に入るため、双眼鏡に似たゴーグルのようなものをのぞき込む。すると赤外線が出て網膜の血管パターンを読み取る。網膜の血管パターンは指紋以上に識別率が高いからだ。

 ジェームズ・ボンドは架空の人物だが、これら宇宙時代のテクノロジーは、今では、現実の世界でかなり普及している。肉体的あるいは行動的な特徴を登録し、読み取るこのシステムは、バイオメトリックス(生物測定学)として知られている。

 現在、バイオメトリックス・テクノロジーの最先端には、指紋読取機、手相読取機、網膜識別装置、声紋認識システム、サイン認識システムなど様々な種類がある。現金が消え、すべての取引が電子決済で行われる世界では、このようなシステムを実用化し、かつ人々の理解を得るには、プライバシーの保護が絶対不可欠だ。まるで未来の話のように聞こえたバイオメトリックスも、今や日常生活に浸透しようとしている。

 

たとえば買い物に行くと…

  さて、ここで、バドという架空の人物に登場してもらおう。バドは、指紋照合システムを使用する新しいスマートカードを作ろうとしている。従来のカードでは暗証番号をよく忘れてしまうため、このシステムを使うことにしたのだ。そこで、近くのスーパーの店内にある、カード会社の「登録カウンター」に行った。

 カウンターで、バドは、小さなチップの埋め込まれたスマートカードを発行してもらった。カードはデビットカードのようにプログラムされており、後で商品を持ってレジに行くと、買い上げ金額は、バドの預金口座からその店の口座へと電子決済される。だが、買い物を始める前に、登録カウンターでしなければならないことがもう一つある。

 バドは若い女性店員から、パソコンに接続された小さな機械に指を置いて登録するよう求められる。この機械は指紋を読み取り、指紋の画像を画面に映し出す。わずか数秒でこの画像はデジタル変換され、バドのスマートカードに埋め込まれたコンピューターチップのメモリーに記録される。これで完了。その間、5分もかからない。

 

必要なのはカードと指だけ

  やがて、買い物を終えたバドは、商品の沢山入ったカートを押してレジに行った。店員は、バドから渡されたスマートカードを、バドの銀行と店の取引銀行を電子回路でつないでいるPOS(コンピューターを用いて販売時点で販売活動を管理するシステム)に入れた。しかし、待てよ。もしも、このカードを使っているのがバド本人でなかったら? 店員はバドと顔見知りではない。あるいは、バドが他人のカードを使っている可能性もある。

 バドがカードの持ち主であることを確認するため、店員はPOSに接続している読み取り機に指を置くよう尋ねる。登録カウンターでしたのと同じように、機械はバドの指紋を読み取るが、今回はカードに記録された指紋と照合する。それが一致するなら、バドの買い物は無事終了。一致しないなら、刑務所行きとなる。

 何と巧妙なシステム! 番号を暗記する必要はなく、混乱もない。ただカードと指が必要なだけだ。簡単で安全。瞬時にバドの銀行口座から店の取引銀行へと支払われる。

 現在、カードを基準としたバイオメトリックPOSシステムのコストは、3千5百ドルから7千ドルの間までに下がった。暗証番号を使ったシステムよりずっと値が張るものの、電子社会がますます現実化していく中で、こうしたシステムの競争力がアップしている。

 「現在、価格面で、従来のシステムと競争可能なところまで近づいており、これからは価格ではなく、機能性が焦点となるだろう。支払・受取の記録の正確さがかかっているとなれば、コストが6千ドルかかろうが四千ドルかかろうが構わない」と、ある企業幹部は語っている。

 こうしたシステムはコスト高であるものの、これからの世界では現金が消滅し、「電子システムの安全」イコール「個人の安全」となることを考えれば、安いものである。

 

あなたがあなたであることを

コンピューターが証明!

  さて、バイオメトリック的な識別方法を説明しよう。最も普及しているバイオメトリックスは指紋識別方式だ。指紋照合は、特に司法当局が長年に渡って個人識別の基準としてきた。この方法は、テクノロジーの進歩により、過去数年の内に目覚ましく向上した。

 警察は昔から指紋照合を行ってきた。古い映画などで、疲れ顔の刑事が、たばこを口の端にくわえながら、照合する指紋を探してファイルのページをめくっている場面を覚えている人もいるだろう。しかし、この昔ながらの捜査手段も今ではハイテク化され、はるかに容易になった。コンピューターに記録された指紋ファイルにアクセスすることによって、瞬時に身元確認ができる。コンピューターがあっという間に照合するので、ファイルのページをめくる必要はない。しかも、ほぼ確実な方法だと言える。

 しかし、このようなシステムは刑事や買い物客のためだけではない。その用途は実に多種多様だ。たとえばメリーランド州警察は、以前のシステムでは、釈放されるべき囚人本人とは別の人間が釈放されるといった問題の起こる可能性が高かったので、それを予防するためにアイデンティクス指紋照合機を使っている。また機械をネットワーク化し、特定のチェックポイント、たとえば法廷や診療所や薬局で受刑者の本人確認ができるようにしている。多数の超厳重警備の刑務所では、面会者でも電子指紋照合を受けなくてはならない。

 

機械が生死を見分ける

  このシステムは、銃を携帯する刑務官がいる刑務所では役に立っても、銀行のATMに指紋照合を導入することについては、疑問を覚える人もいるかもしれない。強盗がカードの持ち主を殺害して指を切り落とし、現金を引き出すためにその指を使ったとしたら?

 現在のテクノロジーなら心配無用。装置が指紋を照合する時、同時にその指の生死も確認できるからだ。少々奇妙に聞こえるかもしれないが、説明してみよう。

 武装強盗に脅されれば、たいていの人は指紋読み取り機の上に指を置くだろう。けれども、それを拒んだため殺されたり、意識を失ったらどうだろうか。大金がかかわる状況であれば、犯人が被害者の指を切り落として使う可能性もある。

 だが、それは失敗に終わる。1993年のカード・テクノロジー会議で、ある指紋照合保安システムのデモストレーターは、識別装置が体内のヘモグロビン量を読み取り、指の生死がわかると説明している。

 

手相でわかる!

  指紋は今も最も普及している個人識別手段だが、新システムが次々に開発され、その優位も危うくなってきた。新システムの一つは、手相照合だ。

 手相照合は1971年から始まった。近年になって、本人確認の手段としてその人気が高まっている。ウエスティングハウス・ハンフォード・カンパニーの保安アプリケーションセンターは、最近、指紋の代わりに手相用の読み取り装置を開発。指紋と同様、手相の画像ファイルはスマートカードに記録され、照合のためにいつでもアクセスできる。

 SFやスパイ映画で、そのような場面を見た方も多いと思うが、警戒が厳重な場所に立ち入る職員は、装置に手を入れる。その類の映画のように、現在の手相スキャナーは手の形や幅、指の長さを照合する。映画のような音響や光の点滅があるとは限らないが。

 手相ジオメトリーの識別方式は現実のものであり、すでに数多くの警戒厳重施設で実用化されている。実際に世界中の空港に設置されているのだ。米東部の二つの空港は、入国審査をスピードアップするために設置している。

 移民帰化局は、東部の二つの空港での試験結果が良ければ、米国のすべての国際空港での導入を計画している。この手相スキャナーは旅行者の再入国手続きを30秒にまで縮めると言われている。非常に混雑する空港では、パスポートのチェックに九十分もかかる場合があることを考えれば、驚異的なスピードだ。国際的な相互依存の高まりに伴い、出入国手続きのスピードアップは必須となる。

 

奥さん、ハンドクリームをつけないで

  手相識別装置は、人によって異なる手の測定値や形に基づいてテンプレートを作成する。その分析によって、全部の指の長さや本人が緊張していない時の各指と指との間の長さを算出するのだ。識別装置はまた、指の幅や手の平や手首の幅など様々な長さも算出することだろう。これらの数値は指紋と同様、その人独自のものである。

 手相ジオメトリーでは、指紋が照合できない場合でも照合可能だ。たとえば指紋照合は、肉体労働者や、パイプを吸う人や、ハンドクリームを塗った女性の手の場合には、頼りにならない。以下のような理由から、普通の指紋に見られる渦巻きを記録できないのではないかという疑問が残るからだ。つまり他の物質(ハンドクリーム)によっておおわれていたり、(熱いパイプをいつも持っているため)熱で指紋の起伏が消えていたり、(肉体労働により)摩擦によってかすれてしまっているからだ。その上、バイオメトリックスの専門家の多くが、指紋検査は昔から犯罪捜査に使われてきたので、一般の人々にはいくらか抵抗があると言っている。

 手相照合の抱える技術面での障害の一つは、機械が読みとれる場所に正しく手を置かなければならないということだが、これもすぐに解決されるだろう。

 

個人確認機「マーク6」

  ニュースレター「バイオメトリック・テクノロジー・トゥデー」には、PIDEAC(ピデアック)という会社が最近、個人確認機「マーク6」[注:マークには「刻印」という意味もある]の大量生産を開始したと書かれている。以下はその記事である。

 「この手相照合装置は、これまでの装置と違い、読み取りエリア内の特定の位置に手を置く必要はない。読み取りエリア内ならどこに手を置いても認識できる技術を開発したからだ。しかも、万一、片手をケガした場合のために、両方の手を登録できる。」

 聖書の預言を研究している人々は、この装置の名前だけでなく、負傷した場合のために両手を登録すると決定したことに興味を抱くことだろう。聖書に、右の手か額という二カ所に「『刻印』を押す」と書かれているのも、そんな場合に備えてのことかもしれない。

 

生きているか、登録されているか

  新産業というものは、大概、上にあげたような特定技術の開発にはとどまらない。最近の映画でも、声紋照合システムが紹介されている。

 映画「スニーカー」をご覧になった方は覚えていると思うが、登場人物たちは、録音した声を使ってうまく声紋照合装置をだました。このテクノロジーの発展は目覚ましく、大学や企業は、音声認識するコンピューターを開発した。本人確認のためだけでなく、話された言葉をスクリーン上に出力することができる。すでに私達は、コンピューターに向かって「コンピューター」と語るだけでアクセスできる、「スタートレック」時代に入っているのだ。

 顔面認識システムは、バイオメトリック産業でも新顔の一つだ。ワシントンDCで行われた「ソルーション・フォー・ザ・グローバル・フロンティア」会議で、司会のベン・ミラーは、数社が顔面認識装置を開発中だと語った。

 

あなた個人の「バーコード」

  その他の本人確認システムを開発中の研究者は数知れない。最も興味深いのは静脈検査方式と呼ばれる方式である。こぶしをぎゅっと握ると、皮下の静脈が肉眼でよく見えるようになる。識別機とて同様で、肉眼以上によく判断できる。このテクノロジーはすでに、「パーソナル・バーコード」と称されている。

 また、ペンタゴン(米国国防省)も、遺伝子による新しい身元確認システムを実験的に進めている。同省上層部の話では、このシステムが実用化されれば、これからの戦争で「身元不明」の犠牲兵士が出ることは絶対ないそうだ。

 

未来よ、こんにちわ!

  これらの精巧なシステムは論理上、必然的なものに思われるし、確かに、長期に渡る利点もある。コストも下がってきている。計算機が出始めた頃のことを覚えているだろうか。大がかりで高くついたが、今では、ディスカウントショップでたったの二ドルだ。また、XT(IBMの最初のパソコン)は現在、骨董品だ。

 だから、研究者たちが、これらの照合システムのハードウェアやソフトウェアの開発に熱心に取り組む一方で、科学分野や、産業、政府の関係者らが、機能性、採算性、安全性、いずれの面でもより優れたシステムを探している。世界中でアクセス可能なシステムである。世界経済の将来はそうしたシステムの開発に依存しているので、その実用化は、もはや単なる可能性の問題ではなく、時間の問題である。

 

−−パート3に続く−−